第44話 リエルスターリゴスゴメール 1
『夢魔リリス』…よくある名前だよねえ。
時にとても色っぽいお姉さんで姿を現したりするし。
でもさあ、ボクのほうがカワイイし色気もめっちゃあるし、テクニックは超絶。
男も女もすぐ夢中になる…
『リリス』はボクの名であり、非常に光栄だが正確にはボクになぞられた名だ。
――『リエルスターリゴスゴメール』
それは
それを
この小娘は大陸から
私にとっては、どうでもいい下っ端の
しかも、この
(入っていれば、もうすでに
(なぜだ…?)
この世界においてジェニファー=エフォートは、極めて異質な存在だといえた。
私は知っておかなければならない。
彼女が一体
何者かを。
ーーーーーー
(いけない!侍女に見つかったら、何を言われるか…)
侍女だけじゃなく、お父様にまで見つかってしまったら…。
「リリス、み、見つかっちゃう!ちょっと、隠れてよ!…」
けれどリリスは、侍女の声などどこ吹く風の様に平然と、鼻歌を歌いながら湯船に浸かっていた。
浴室のドアを叩く音は激しさを増して―――
「お嬢様、失礼します!」
と侍女が飛び込んできた。
(ヤバい!見つかった!)
今度こそはわたしも侍女の悲鳴を覚悟した。
でも、何時まで経っても侍女の悲鳴は、聞こえてこなかった。
代わりに聞こえてきたのは、さっきのリリスのような呆れたような声だけだ。
「お嬢様…何をしてるんですか?」
「な、何って…」
わたしは髪をかきあげるリリスと浴槽横に立つ侍女を交互に見た。
「なぜ、ドレスを着たままご入浴されていらっしゃるのですか?」
「なぜって…」
まるで、リリスはそこに存在しないかのようだ。
リリスを見つめると彼女はお手本のように、にっこりと笑った。
「ボクの事見えないんだよね…
「え…?見えて無いって…」
わたしは思わずリリスの台詞を反芻してしまった。
(じゃあ…どうしてわたしには見えるの?)
「…お嬢様、とりあえず湯船からでませんか?お身体がびしょぬれですから」
とうとう心配になった侍女に、声をかけられてしまった。
結局わたしは侍女に手を貸してもらって浴槽から出て、濡れた服からルームドレスに着替えた。
浴室のドアを開け放しにしてあるので、リリスの鼻歌が部屋まで聴こえる。でもやはり侍女には届いてないようだった。
侍女が浴室を片付けるために戻っていった。
入れ替わるようにリリスがわたしのバスローブをはおって浴室から出てきたが、侍女の反応はやはり無い。
男爵・子爵でも貴族出身であれば、多少でも魔力はある。
さっきの侍女も男爵家より来ている娘だが、わたしよりもよほど魔力持ちのはずだ。
「いいお湯だったよ。ジェニーありがとね」
わざとらしく…可愛らしく微笑むリリスが、やはりこの上なく正体不明に思える。
「…どういたしまして。気にいたなら良かったわ」
と反射的に答えてしまったが、頭の中は疑問でいっぱいだった。
わたしはベッドの上にリリスの好きそうなデザインと色のドレスを次々に並べた。
(一応可愛らしい色でそろえたつもりだけど…)
ついでリボン、カチューシャ、バレッタいろいろ取り揃えてみた。
もちろんそれに合いそうな宝石のセットも一揃えしておいた。
先ほどの浴室でのわたしへの
リリスは色とりどりのドレスを見るなり、浮き浮きとしながらドレス選びを開始した。
「じゃあ、早速ドレスを選ぶね~コレがいいかな」
「わー、コレもカワイイ!」
とリリスは次々と目移りしているようだ。
(まあ、楽しんでくれればいいけれど…)
リリスに訊きたい事がたくさんある。
とりあえずご機嫌はとっておいて損はない…はずだった。
予想に反しリリスが選んだのは、昔のジェニーが好んでいた様な、はっきりしたピンクや赤の女の子らしい色やフリルの多いデザインのドレスではなかった。
どちらかというと清楚系ーというのか、淡いグリーンとオフホワイトのコンビの上品なレースのもので
わたしがためらっているように見えたのだろう、リリスが訊いてきた。
「…どうしたの?ジェニー」
「うん?もっとこう…」
「ふふ…もっと派手なドレスを選ぶと思っていた?」
わたしが言い淀んでいるとリリスが代わりに言って笑った。
「ジェニー、あと下着と靴下とガーターを貸して」
「はいはい」
わたしは新しいものをおろしてリリスへ渡した。
リリスは順番に上手に装着していく。
その手際は見事だった。(因みに下着の時は、わたしは後ろを向いていた)
リリスはコルセットがいらないほど細い腰だけど、(うらやましい)そのままドレスを着るのを手伝ってあげると、
「ボク、脱がすのは手伝ったり、手伝ってもらったりした事はあるけど、着せてもらうのは初めて~」
とアホな事を言うので、あえてスルーする。
艶やかな黒髪を編みこんで白い生花と淡いグリーンのリボンで仕上げをすると、とても清楚な美しいお嬢様の出来上がりである。
仕上げに軽くパフを叩き、口紅をのせた。
「どう?綺麗?可愛い?」
私の部屋の大きな姿見の前でリリスはくるくるとまわった。
足元がブーツなのが気になるが、我ながらいい出来だと思う。
「とても素敵よ」
とわたしが心から言うと、
「ああ!ありがとうジェニー!」
とリリスは抱きついてきた。
(うーん。これを振り払うべきか)
なんとも悩むところだわ。
そしてリリスはそのままわたしの手を取ると、にっこりと笑う。
「…じゃあ、約束の『いい事』を教えてあげようかな」
そしてーーリリスは話しはじめた。
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