第38話 絶対カオスですって!乙女ゲーム 1

先の皇后バルミュラ=デルヴォー妃は非常に欲深で苛烈な女性だったと云われている。


幼い頃より自らの父である先々代皇帝へ

『わたくしがこれから初めての女皇帝になります』

と宣言してはばからず、他の皇子達を鼻白ませた強心臓の持ち主でもあった。

その為他国より結婚の打診が来ても全て話を蹴り、帝王学に没頭した。


皇帝になる為の生き残りを賭けて兄弟間の戦いが始まると、彼女は持っている全て…自身の美貌も含めて使えるモノは全て使って、ライバルである兄弟皇子達を、ひとりひとり確実に仕留めていった。


毒殺、宮殿内での事故と見せかけた暗殺、無実の罪を着せ誅殺…様々であるが、最終的に生き残ったのは、母親の身分が低く野心の無い義弟ジョージ(後のパネライ大公)のみであった。


同時に皇帝や皇后の義父になりたがる貴族に牽制をかけ、『バルミュラに必要なのは自らを「皇帝」と認める存在のみだ』と訴えたのである。


そんな時、魔物がひんぱんに出没し北の暗黒の森に接する国境で、恐ろしき魔物を次々屠る男が現れた。


市井出身ながら、学もあり、非常に美男子でサラマンダー(火の精霊)の

加護を持ち、『退魔の剣』を使うという。


今まで帝国騎士団ですら退治に苦労していた、北の森から国境の村を襲う魔物や魔獣をたちまち倒して行った。


人々は口にした。

とうとう『勇者が現れた』と。


その噂は瞬く間に帝国内で拡がっていった。 


年頃に美しく成長したバルミュラ姫は興味が湧いた。

『そんなに人々が、勇者と騒ぎ奉る程の男なのかと』


そして打算も働いた。

(おもしろい。使える男かもしれない)


そこで、バルミュラ姫は国境での活躍を理由に帝国内の宮殿へと彼を招待した。


何回か帝国の招待を断っていた彼だったが、とうとう断りきれなくなり

首都への招待に応じることになった。


そして、そこで初めて彼にあったバルミュラ姫は 思いがけず、…生まれて初めての恋に落ちたのだった。


彼は非常に率直で打算とは無縁の性格であった。

しかし、愚かな男ではなかった。


常人では無い魔力量、剣術の技量の高さ、男性的だが繊細かつ神々しい美しさの容姿、地方の村の庶民出身ながら、そつの無い宮廷マナーを伴っている事。


彼は今のバルミュラ姫にとって全てが理想の男性…結婚したいと初めて思った相手だったのである。


魔力量も含めた強さ、美しさもさることながら、帝国国民の人気高さ、そして何よりも彼女にとって貴族の後ろ盾がということが、バルミュラ姫にとって何よりも魅力的に

映ったのだった。


(彼を手に入れたい)

そして帝国の実権も絶対自分のものにする…どこまでも欲深いバルミュラ姫であった。


 ーーーーー


エドモンドとレイモンド=デルヴォーは二卵性双生児であった。


第2妃である自分の母と、その母の父は皇后の非情な性格を恐れ、二人の皇子を暗殺から守るために、バルミュラ皇后に完全服従を誓った。


先の大公と同じ立場の双子であるが、先の大公のように完全にノータッチを決め込むのではなく、むしろ義兄フランシスを皇太子と擁立しようと影で支えた。


その為バルミュラ皇后に殺されずに、エドモンドとレイモンドは成長できたのだった。


数十年前、我が息子フランシス自分が愛した男ルートヴィッヒ1世と同じような能力が無いとわかった時の皇后の怒りたるや、凄まじいものだった。


一番気の毒だったのはフランシスだが、第2妃の子ーエドモンドとレイモンドーへの当たりの強さも更に厳しくなった。


特にレイモンドは魔法に長け、外見も父であるルートヴィッヒ1世に似ていたから、ますます皇后の標的になったのだろう。


レイモンド公爵閣下は、自分の双子の弟オーギュスト邸に向かう自分の馬車の中で、長い脚を組みながら、向いに座る息子アベルエアリスにその当時の話しを振り返って延々と聞かせた。


「エドモンドと二人……あのクソばばあバルミュラが生きてる間、かなりやられたからな」


(…今、様をクソばばあって言ったのか!?)

 

アベルとエアリスは、悔しそうな表情を浮かべながら語るレイモンドを

ぽかんとした顔して聞いていた。

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