第34話 絶対お家騒動だよね?乙女ゲーム 12
そんな様子を黙って見ていたレイモンド閣下が、ようやく助け船を出してくれた。
「アベル、ジェニファー嬢が困っているではないか。あまりしつこい男は嫌われるぞ」
その言葉を聞いてアベルはしぶしぶわたしの事を地面に降ろしてくれた。
レイモンド閣下と云えば、わたしたちの姿がいきなり消えてしまったのを不審に思って、大聖堂の周りや庭を捜索していたらしい。
結局、わたしたちが見つからなかったので、教会内に部外者を入れたがらない大司教に直接会い、教団内の捜索をさせろと交渉していたのだ。
(成程…だから
「お前たちの方は…一体どういう流れになっていたんだ?特に何故アベルが元の姿に戻ったのかを知りたい」
レイモンド閣下が今度はわたしたちに質問した。
わたしたちは最初の
教団内の一階通路の途中で扉があり、そこから地下に行けるという事。
地下に降りる階段を大分下の階まで誘導された事。
地下全体が魔法が使えない、もしくは強い干渉を受ける素材のものできているらしいと言う事。
地下の監禁部屋で薬を飲むよう勧められた事。
監禁部屋の奥にとても強い結界が張ってある場所があったと言う事。
そして、レイモンド閣下にサヴォー神のシンボルのついたペンダントも渡した。
あと、教団員とアベルが戦ったというくだりから、
(レイモンド閣下の眉がピクリとした)
わたしが肩をナイフで刺され、
(閣下の目が大きく見開かれた)
アベルが炎に包まれながら刺した男を仕草ひとつで燃やしたと言う事と、
(閣下は目頭を押さえて下を向き)
わたしが炎に飛び込んだら―――
(閣下は首を振った)
アベルがもとの大人に戻っていた話も
「アベル…教団内に潜入したという話を聞いた時から思っていたが、どうやらジェニー嬢は自らの身を危険に晒す傾向があるようだな」
アベルは真剣な表情で深く頷き同意した。
「そうですね。全く目が離せない…要注意な御令嬢です」
(失礼な…わたしだって一応色々考えて行動してます…!)
賢く黙ってはいたけれど、わたしは自分の心の中で猛烈に抗議していた。
一通りの報告が済むと、今度はレイモンド閣下がわたしを自宅へ送ってくださる事になった。
抗議の声を上げたアベルが最初、わたしを送ると言ってきかなかったけれど、レイモンド閣下がアベルへと命令をしたのだ。
『魔法管理省の幹部に手出ししたツケを払ってもらう』
生じたツケをアベル自身で回収して来いと言ったのだ。
「アベル魔法管理省副長官に命じる。この場の調査の実施と事態の収拾を速やかに遂行せよ」
「…了解です」
長官の直々の命令には大人しく従うしかない
アベルは、わたしの方を見て何か言いたそうだったけれど、一度前髪を揺らしてから大聖堂の方へ向かって歩いていった。
ーーーーー
わたしはレイモンド閣下のエスコートで、ゴージャスな公爵家の馬車に乗った。
わたしが小さくため息をついたのを見た閣下は、馬車が少しずつ動いて出発するなり微笑みながらわたしへ言った。
「君は不思議なお嬢さんだね」
「は……」
わたしは何と返していいか分からず、黙ってしまった。
何故かしら、怖いわ。
『冷血公爵』レイモンド閣下の微笑み。
そんなわたしの心を知ってか知らずしてか、閣下はにこやかな表情のまま話し続けた。
「だってそうだろう?…魔力はゼロなのに魅了や洗脳にはかからず…精神的結界や状態異常に耐性があり、専門家でも無いのに悪魔を呼びだす事が出来る…かなり特異的だと思わないか?」
わたしは背中、腋汗、手汗、顔全てにぶわっと冷や汗が噴き出すのを感じた。
(ヤバいわ。これはもしや…送迎という名のレイモンド閣下の尋問なの?)
わたしがあまりにも大量の汗をかいて固まって動かないので、レイモンド閣下は可笑しそうにころころと笑った。
「安心したまえ。これ以上は
(念押し…?アベルが?)
「ね、念押しって…どういう意味でしょうか?」
「アベルから『君に関して自分が全ての責任を取るから、厳しい尋問等はやめてくれ』と言われている」
わたしは驚いて鸚鵡返しの様に訊き返してしまった。
「あ…アベル…様が、ですか?」
そんなわたしの様子を見たレイモンド閣下は、少し真剣な表情で話を続けた。
「君に話をしておきたい事がある。息子…アベルは、今とても君に
そう言って、レイモンド閣下が自身の胸に手を当てるとスッと一瞬で、閣下自身の髪と瞳の色が変わった。
(え…!?)
プラチナブロンドからルードヴィッヒ皇太子と同じ煌びやかな金髪へ、パパラチアサファイア色の瞳から、エアリスと同じ様な濃いブルーアイズに変わったのだった。
(うわぁ…えぐいくらい美形だわ)
相変わらずの超絶美形なオジサマぶりにほれぼれはするけれど、わたしの中にふと疑問が浮かんだ。
(…なぜ髪の色や瞳の色を変えていたの?だって…まるで
「…どうしてこんな風に変えているのかを、君に話しておきたい」
そしてそのままわたしは、アベルの生い立ちについて、レイモンド閣下から馬車の中で聞いたのだった。
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