第33話 絶対お家騒動だよね?乙女ゲーム 11
アベルはサヴィニアンの制服に着替えると直ぐに、わたしの肩の治療をしてくれた。
馬車の中で靴擦れに掛けてくれた
気になったわたしは、アベルにそれを伝えた。
すると彼は少し笑って、『そうかもしれないね』とだけ言った。
いきなりフッと身体が持ち上がった様な感じがしたな…と思ったら、なんとあの華奢なアベルがわたしを楽々とお姫様だっこして、残りの階段を上り始めたのだ。
ねえ…だから怪我したのは
(それに、重いからいいってば)
「あの、アベル様。わたし大丈夫ですから、降ろしてくださいませ…」
「…僕に抱っこされるのが、嫌?」
華奢なアベルの背中と腰を痛めるのでは…と心配でそうと伝えたのに、アベルは階段の上の方を見たまま聞いてきた。
(そうじゃないのよ)
「いえ、そういう事じゃなくて…」
「じゃあ、いいよね。僕が抱っこしても」
プラチナブロンドの前髪を揺らしながら花が咲くように笑うアベルにあっさりと返された。
(ええと…何を言ってもダメだわ、これは)
「あの、わたくし不思議なのですが、どうしていきなり元の姿のアベル様に…」
するとアベルが無言のまま、じいっと目だけでわたしを見つめた。
(こ、怖いってば)
…ので、渋々わたしは言い直した。
「…
「…きっかけがあって、僕の潜在的魔力が強制的に解放されてしまったからだ」
とアベルはゆっくりと説明してくれた。
「きっかけ…ですか?」
疑問で首を傾げるわたしに
「君だよ。君が肩を刺されて…刺したあいつを殺したくなる位許せなかった。本当に今も絶対許せない…」
表情の変わらないアベルの顔のこめかみだけが、怒りのためかクッと動く。
(そう言えば、
…あのままじゃ、死んでしまうのじゃないかな。
それは流石にヤバいのではないのか?
「サヴィニアンの彼はあのままで大丈夫でしょうか?」
とわたしがアベルに尋ねると、それを聞いたアベルは少しため息をついた。
「…君が気にすると思ってほんの少しだけ
アベルの話の最中だったが、どうやら地上に出るための扉に着いたようだ。
わたしが抱きかかえられたアベルの腕から降りようとすると、アベルは
腕に力を入れて降ろしてくれなかった。
そのままドアの前で何か小さく呪文唱えると、長い脚でドアを蹴り上げた。
「もし殺したら…君に決定的に嫌われてしまうだろう?」
ーーーーー
「――!?」
わたしはとても驚いて声も出なかった。
申し訳ないけれど『君に決定的に嫌われる』アベルの決め台詞のくだりよりも、
少し強引さもあったが、アベルはどちらかというと基本貴族のスマートさやクールさを大事にしていて、決してそれを外れる様な粗野な行動をとる事はなかった筈だ。
いつでも『貴族としての誇り・礼儀正しさ・自制を美徳』とするキャラ設定のはず。
少なくとも人を素足でごろごろ転がしながら服を剥ぎ取ったり、手で開ければ良い扉をわざわざ蹴破る様な
(なんか…何ならちょっと、キャラ変してません?)
アベルは帰り道を熟知しているかの様に、一階の廊下をどんどん前へと歩いていく。
こんなに細いのにわたしを抱えてもふらつきもせず、しっかりと歩くそのリズムにわたしは少し眠くなってしまった。
…そうだった。
(昨日の夜はリリスの襲来でがっつり睡眠不足なんだわ、わたし)
「…目を瞑っておいで。起こしてあげるから」
アベルは優しい声で言ってくれた。
アベルの腕の中でうとうとしていると、アベルがレイモンド閣下と会話している声が聞こえた。
アベルは無事、魔法管理省とレイモンド公爵閣下に会えたようだ。
「分かった。この薬は預かろう。まぁ拘束・監禁となれば、この手の薬の内容は想像できるが…おっとアベル、ジェニファー嬢が目覚めたようだぞ」
レイモンド閣下が先に、わたしが目覚めたのが気付いた。
「ジェニー、大丈夫?」
「わ、わたしは大丈夫ですので、降ろしてください、アベル。閣下にご無礼になってしまいます」
ハッと気づいたわたしは、慌ててアベルに伝えた。
レイモンド閣下の前でお姫様抱っこされたままなんて、無礼極まりない娘になってしまう。
けれどアベルは、わたしの訴えをまるで聞こえていない様に反応しなかった。
「あの…アベル?降ろしていただきたいのですけれど…」
「……なんか、いやだ。ジェニ―は義父上ばかり気にしてる」
プイと横を向いたアベルが小さな声で言った。
(……はい?)
その
あの…あなた、もう18歳の姿に戻っていますけれど?
どうやらアベルは、自分がかまってもらってないと拗ねてしまった様だった。
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