第30話 絶対お家騒動だよね?乙女ゲーム 8
アベルとわたしは手を繋いで、狭い階段のかなりの段数を降りていった。
降りた先もまた暗い廊下だったが、一番手前の部屋に案内された。
ここで待っていてくれ、と
薄暗い部屋の中、壁には昔風の蝋燭立てに灯る火が映す影だけ映っている。
目ぼしい家具は小さいベッドとテーブルと椅子のみだ。
アベルは部屋の中を見渡して、ある壁の所に打ち込んである金属に目を止めると、
「…なるほど。ここは監禁部屋か」
と呟いた。
(…え?)
「監禁部屋ですか…!?協会なのに?」
わたしが驚いているのを見たアベルは、壁についている金具を指差し拘束具を固定する為のものだと説明をしてくれた。
「こうそくぐ…」
わたしが聞きなれない言葉に少し青ざめるのを見て
「ジェニー、そんなこと絶対させないから安心して」
と安心させる様に、気を遣ってわたしに言ってくれた。
(ううむ。ちっちゃいのに頼もしいわ)
とりあえずベッドにふたりで並んで腰かけた。
腰かけた途端直ぐにアベルが手を繋いでくる。
しかも指を絡ませる…いわゆる恋人繋ぎだ。
…ううむ、ううむ。
とりあえず教団の男がわたしたちをタダで返すつもりがないと言う事は分かった。
(魔法が使えないのに、鍵も外からかけられてしまったし…)
「カギはすぐ開けられるよ」
わたしの心を読んだかのようにアベルは言った。
潜入捜査官が持つ『どんな鍵でも変形して解錠できるマスターキー』的なものを持っているというのだ。
「それよりも問題なのは…この廊下の突き当りに凄まじい結界が張り巡らせてあると言う事なんだけどね」
アベルに言われ、わたしは思わず聞き返してしまった。
「え?本当ですの?全然分からなかったわ」
アベルはわたしの顔を見て一瞬絶句したが、
「…時々君がとても羨ましくなるよ…」
と小声で言って、気を取り直したように
「通路の奥の部屋に何か隠しているようだね。見られては困る何かを」
と説明をしてくれた。
「結界…」
あのリリスが張ったティーコーゼの類いのものだろうか?
「結界と言っても目的によって色々な種類があるんだよ」
魔法が使えないから特に知識が疎いわたしの為にアベルは説明してくれた。
「①外から入らせない為のもの、②内から出さない為のもの。あと…そうだな、魔力を余分に使う力業になるけど、③張られている結界を解く為に張る結界解除呪文とか……」
「結界を解くためにまた結界を張るって事ですか?」
「うん。そう。特殊な状況でなければその結界を破れない場合…」
とそこまで言って…アベルとわたしは顔を見合わせた。
(――そうか、これかもしれない。)
リリスが張ったピンクのティコーゼ結界の目的は、
(だとすればあれだけ大掛かりになったわけも分かるわ)
その時、ドアをノックして教団の男が戻ってきた。
クスリの準備ができたという。
男は小さなお盆の上に先ほどの粉のくすり2つと水の入ったコップを2個載せていた。
「どうぞ。魔力を増やす薬です。」
教団の男が言った。
(うわ、ヤッバ…怪しすぎるわ)
「あの…代金とかは必要ないんですか?」
わたしが聞くと
「大丈夫です。…あとで十分頂きますから」
と薄気味悪い笑顔で答えた。
アベルは
「…ボクが先に飲むからね? おねえちゃん」
と言うとその薬をサッと取りあげて
飲んでしまった。
(え!?そんなためらいもなく…飲んで大丈夫?)
わたしが驚いていると、
教団の男は続けて
「さあ、ジェニファー嬢もどうぞ」
とグイグイ薬を勧めてくる。
(わたしのチートって薬にも効くのかな?)
うーん、大丈夫だろうか…?不安しかないけど。
すると隣にいたアベルが、いきなり膝から崩れ落ちて胸を押さえている。
「ぅ…あ…苦しい…」
「馬鹿な…、子供とじゃいえそんな副作用の出る量じゃないのに…」
教団の男は慌ててアベルの近くまで駆け寄った。
(そんな…!アベル…!)
まさかあの薬のせいで!?
わたしはショックで目の前が真っ暗になり、動けなくなってしまった。
(ああ…わたしのせいだ…!わたしが『大聖堂の中の調査をしよう』なんて言ったから…)
男がアベルの状態を確認する為、頭の方へ屈んだと思った瞬間、アベルが顔をぱっと上げ、男の額に手を充てて何かの呪文を唱えた。
次の瞬間――男は床に崩れ落ちていた。
アベルは、わたしが怖くて涙ぐみながらしゃがんでいるのを見て
「…まさか、もう薬を飲んだの!?」
と驚いてわたしに質問した。
わたしは首を振りながら慌てて『飲んでいませんわ』と否定しながらも、アベルの顔を見たら涙が止まらなくなってしまった。
「良かった…アベルに何とも無くて…すごく怖かったの…」
アベルはそれを聞くとわたしの事をぎゅっと抱きしめて『ごめんよ…怖がらせて…』と何度も繰り返し言って、わたしの背中を撫でてくれた。
(ああ、アベルに何も無くて本当に…良かった)
実は、アベルは薬を飲んだ振りをして袖口にさっと隠したらしいのだ。
わたしは隣で見ていた筈なのに全然気が付かなかったのである。
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