第25話 ぜったいお家騒動だよね?乙女ゲーム 4

「それでは詳しくお話させていただきますので是非中へ。部屋でゆっくりご説明致します」

 

サヴィニアンの男は下卑た笑いを浮かべて、わたしを大聖堂内の部屋に連れて行こうとしていた。


明らかに10歳の男の子に見えるアベルと深層のお嬢様のジェニ―に対して舐めてかかっている態度である。

(これはチャンスかも…反対に利用させてもらおう)


「――アベル。中を調べるチャンス到来ですわよ」

わたしはアベルの小さな耳に小声で囁いた。


リリスが大聖堂に張ろうとした結界の目的への手がかりが、もしかしたらあの建物の中大聖堂の中にあるかもしれない。

 

あの怪しい粉薬も薬学科卒業者としては気になるところだ。


アベルはわたしを見て少しびっくりしたように言った。

「今日は大聖堂周りの調査の為来たから、の調査の許可を得ていないよ」

 

(なんて固い頭なの!?)

――許可なら出たじゃない。


「あいつの誘いに乗るつもりなの?」

アベルは少し呆れた様だった。


「ジェニー、これはごっこ遊びじゃない。本当に危険かもしれないんだ。

 それに中にあの結界の手がかりもあると限ったわけじゃないよ」

「でも、無いと決まったわけじゃないですわ」


この機会を逃したらアベルの様なお役人はともかく、わたしのような一般の人間が建物の中を見たりできる機会が訪れるか分からない。とにかくわたしは、大聖堂の中が気になるのだ。


アベルはなおも食い下がるわたしを見て、違和感を感じたようだ。

「ジェニー…?」と訊いた。


何故だろう…?

『許可を得てからでは遅すぎる』予感がするのだ。…分からない。

 

アベルの質問に答えられないでいると、サヴィニアンの男が声を掛けてきた。


「もうよろしいですか?早速行きましょう」

サヴィニアンの男は、わたしとアベルの会話に大分焦れたようだった。


「では行きますぞ」 

少しイライラしたように告げてくるりと向きを変えたその時。



アベルは溜め息をついて言った。

「…分かった。僕も行く」


アベルがサヴィニアンの男の制服の裾を引っ張って

「ねえ…おじさん」


「ボクもおねえちゃんと一緒に行きたいんだけど…ねぇ、ダメ?」

キラキラした目で男を見上げる。アベルの美貌を見て…男は固まった。


「いやいやいや!、もちろんすよ!是非是非…」

(だすよって何なの!?)

男はアベルの美しい顔から目が離せないらしい。


はあ…今度こんな機会があったとしたら、最初からアベルに頼むのがいいのかもしれないわね。



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その日の夜、皇宮でフランシス皇帝陛下とゆっくり食事をする機会があったのは

ルートヴィッヒ皇太子にとっても久しぶりの事だった。

 

夕食の途中でふとフランシス皇帝陛下は聞いた。

「ローゼリット嬢とはどうだ?」


ルートヴィッヒ皇子はワイングラスを傾けた。

(どうだとはどういう意味なんだ?)

「そうですね…しばらく彼女に会ってないのでわかりかねますが…とりあえずのようですよ」

と答えた。


本当に会ってないのだ。

何故なら――彼女は今皇宮の地下に囲われている。

結界が施された魔力を封じる部屋に閉じ込められているのだから。



「そうだな。建国祭を迎えるは元気でいて貰わなくてはな」

フランシス皇帝は頷いた。


食事が終わるまでそれ以上の話はない。

夕食会が終わると自室まで侍従と共に歩いた。


(…父上との時間はやはり緊張する)

実の父親ながらいまだに何を考えているのかさっぱり分からない。

 

途中で歴代皇族の肖像画を飾る廊下を通り過ぎた。

こげ茶の髪と瞳と口髭を蓄える堂々とした父の姿もそこにある。

 

そして自分の祖父ルートヴィッヒ1世の肖像画もそこにあった。


退魔の剣ニギライを持ち、白い鎧姿の堂々たる姿だ。

金髪が煌びやかに輝き,色素の薄いブルーの瞳はやや人間味が薄かった。


数えきれない程の魔族を滅してきたと言われる祖父。

今も存命ではあるが、ほとんど会う事が無い。


自分の容姿は身長が足りないが、父と言うよりは祖父ルートヴィッヒ1世の方に瓜二つだった。


(だからこそ最初アレはに近づけてきたのだが)

しかしどんなに似ていても中身はまるっきり違う。


(…オレは張りぼてなのだ)

だからこそ、が必要なのだ。

たとえ今はサヴィニアンの言いなりになったとしても。


気位ばかり高い貴族達の後ろ盾など必要とせず、自分が絶対的有利な立場で皇位に就くために。


(そうだ)

ヒューゴや旧貴族派に…皇位を奪われてしまわない為にも。

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