第24話 ぜったいお家騒動だよね?乙女ゲーム 3

公爵閣下の馬車と言う事で、大聖堂までの中庭は声を掛けられる事なくフリーパスで進むことが出来た。

 

この場所を訪れたわたし達の名目は、もちろん先日の『魔法で大聖堂周囲を暴れまわった無頼漢達の正体と実害の調査』である。


建国祭は他国からの来訪者も増えるため、警備は万全でなければならない。

 

「先日のようなことがあってはいけないから…」と大聖堂の関係者達へ説明している。


馬車を降りる際アベルは、何故かわたしのことをエスコートしたがった。


…なんだか弟みたい。

美形すぎるけど。

そして居たこともないけど。


レイモンド閣下は後で追いついた魔法管理省の調査チームと合流した。


魔法管理省のメンツと一緒に行動するのかと思いきや、アベルはわたしと一緒に居ると言う。


――何故?

馬車で約束したのでは足りなかったのかしら。


アベルはわたしと手を繋いで大聖堂の周りをてくてくと歩き始めた。


(これってただのお散歩では…?)

とわたしが思っていると、

「…ジェニーと歩いているだけでも、とても楽しい」

下をむいてポツリと言う。


(――可愛い…!、可愛すぎやしませんか!?)

わたし、母性本能がくすぐられまくりなんですけど。


たまらなくなって、アベルの前に屈んで柔らかい頬を両手でそっと挟み、少しだけ上にむけた。


「また下を向いていらっしゃいますよ、アベル。ジェニーの方を見てくださいませ」

とアベルの綺麗な眼に合わせて言うと、真っ赤になってしまった。


「ジェニー…、きみ忘れているかもしれないけど…」

とアベルは言いかけたが

「いや、…いい」

と止めてしまった。



「…今現在大聖堂周りの結界は完全に無くなっているね。でもは大聖堂を結界で囲ってどうしたかったんだろう?」

空を見上げ、大聖堂周りを一周した後アベルは疑問を口にした。


(確かに。…リリスの造ったピンクのティーコーゼの結界の目的は何だろう?)


『リリスと言えば、魔王ルート』

――の筈なんだけど、この間の卒業パーティーでの出来事

から、どうやらローゼリットはルートヴィッヒを選んでるようだ。


とすると…通常であれば魔王介入ルートストーリーの余地がなくなるなのに何故現れたのだろう。


 …ああ、またわからない。


(結界を破り入ってってきたのはリリスと…魔王なの?)


だとしたら、目的は何なの?


ローゼリットが目的なのか?

(もっと他の何かがあるのか?)


魔王であるなら、今、どこで何をしているのか?

乙女ゲームと本当に関係あるのか…?


(あの時もっと掘り下げてリリスに聞いておけばよかった…)

絶縁状を叩きつけておいて今更であるが、後悔先に立たずである。


「ジェニー、きみに見えていた魔族の姿はどんな感じだったかわかるかい?」

ぶつぶつ独り言を言うわたしにアベルが質問する。


「ブーツを履いたツインテールの美少女ですわ」

とつい危うく即答しそうになったが、その時ハッと気づいた。


(あの時半分意識の飛んでいたアベルは、わたしとリリスの会話をどこまで聞いたのかしら?)


わたしが悪魔バルジエラルを呼び出したのは覚えているのか?

覚えていればそれに対してどう考えているのか?


(わたし、そう言えば確認していない…)


アベルの質問にすぐに答えられず口ごもっていると、

「ジェニファー=エフォート嬢じゃありませんか?」

後ろの方から声をかけられた。


振り向くとお父様と同じかもう少し上くらいの、大分お腹のせり出した中年の男性が立っている。

彼は白とグレーのツートーンカラーの制服のようなものを着ていた。


「お久しぶりですね」

そういわれても正直、見覚えのない男性だ。


「…4年ほど前に御父上様と当会に訪問されたではありませんか。

 魔力の量をどんな方法を使ってでも、どうしても増やしたいんだと」

不気味な薄ら笑いをする。


アベルがわたしを警戒する様に見上げた。わたしは頷いた。

 

(馬車でアベルに気を付けてといわれたサヴィニアンの一人ね)


その男性は

「あの時はできませんでしたが、見てください」

小さい粉薬の包みを太い指先でつまんでわたしに見せた。


「ここ数年で出来る様になったのですよ。あまり世の中に慣れてないお嬢様はご存じないかもしれませんが…」

とわたしの身体を上から下まで嘗め回す様に見て小声で呟いた。

「以前の育ってないほうが格段に良かったが、…まあこれはこれでいい」

 

(ちょっと…聞こえてるよ!。このヘンタイロリコン!!)


わたしは薬を見ながら

(本当にそんな薬ができたのか)

アベルに眼で合図して聞くと

(聞いた事ないよ)

とアベルは首を振った。


(…ソウデスヨネ。そんな都合のいい薬あるわけがないわ)


以前の世界では内戦やゲリラ軍が出没する国に行く事もあった為か、変なところで警戒心や勘が働くようになってしまった。


幾ら安全と言われていてもそこで何が起こったとしても、自分で何とかしなければならないから。


(…まあ、いきなりの毒蛇は想定外だったんけどね。それもわたしの甘さだわ)


中年の男へきっぱり断ろうとするアベルを手で抑えて

「…分かりました。とても興味がありますわ」

わたしはにっこりと笑ってその男に言った。


「…お話を聞かせていただけますかしら?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る