第22話 ぜったいお家騒動だよね?乙女ゲーム 1

 

――話は3日前に遡る。


帝国立シークレット騎士団ガーディアンズ団長ヒューゴ=パネライの朝は早い。

日が昇る前にめざめると、軽く湯あみして簡素なトレーニング用のシャツ・パンツに長い手足を押し込み、着替えてから身体を動かす。


騎士団の皆と一緒の時もあれば、一人の時もあるのだが。


ヒューゴは帝国騎士団に所属してからはずっと、皇宮の騎士団専用の住まいに居る為、もう付き人無しで身支度済ませるのはお手の物だった。


運動が終われば再度湯あみし、今度は騎士団専用の制服を着る。

 

団長専用の書斎で朝食前に済ませておきたい決裁の書類に目を通しておく。

時間に無駄は許されない。

やるべき事が山積しているからだ。


書類はルーティンワークのようなものだが、一つかなり深刻な案件のもの書類がある。

 

最優先事項トップシークレットだと言っていい。


国境の結界のの件だ。


アベル=バランタイン魔法管理省副長官報告に寄れば細かい分析の結果、国境の結界は2破られている。

 

1回目は数年前、2回目は最近ということである。

 

破られた結界がそれぞれいるというのも奇妙だ。

 

魔族の侵入が目的であれば、結界を張り直しする必要などないからだ。


数年前に入ってきたものの正体は分からない。

が、かなり魔力が高いのは間違いない。


そう、


国内に入ったが何処に居るか分からない以上、対策の打ちようがない。

 

情報不足のまま、帝国内を不安にさせるのは避けたい。


アベル、エアリスと共に情報は共有したが、今は静観する他やりようがなかった。



今日の朝食はルートヴィッヒ皇子に誘われている。

 

皇宮までの道のりを考え早めに仕事を切り上げ朝食会に出る為の支度をする。


(ジャケットも着替えなくては…。)


ヒューゴは軽くため息をついた。




ルートヴィッヒ皇子はすでにテーブルに付いていた。

豪華な金髪が朝日に煌めく。

こちらからその表情は逆光で判らない。


「遅くなり申し訳ございません。」

「いや、オレも今来たところだ。何か飲むか?」

ヒューゴが退魔の剣ニギライを預けて席につくとルートヴィッヒは訊いた。


「…御酒は勤務中故、ご遠慮させていただきます。」

「…そうか。じゃあオレだけもらう」

ヒューゴがいつものように答えると、ルートヴィッヒ皇子はふっと笑って金の髪を揺らした。


「建国祭だが…」

食事の途中でルートヴィッヒ皇子は話を切り出した。

グラスをゆっくり傾けワインを見つめながらまわす。


「あのローゼリットに大聖堂の聖女認定を

受けさせようと思っているんだが…お前はどう思う?」


食事をするヒューゴの手が止まった。

「ローゼリット嬢をですか?」


何の為にかを聞く必要はない――彼女を正式に妻にする為の順備だろう。


気の強い幼馴染の彼女の顔が浮かぶ。

ベアトリスがこれを知ったらどう思うだろう?

 

ルートヴィッヒ皇子とベアトリス=ランカスター侯爵令嬢は現在婚約中なのだ。


「…お父上様はなんとおっしゃっていますか?」

「おいおい、オレが先に質問しているんだが…」

ルートヴィッヒ皇子は苦笑しながら、


「…父上にはまだ報告してない。が最終的に反対はしない。もっと他に心配事があるだろうしな」

暗に今問題になっている国境の結界の問題を匂せた。


(もっと幼少の頃はよく懐いてくれたのに…いつからこの様に昏く笑うようになったのだろうか)


…兄上と慕ってくれたものだった。ベアトリスやエアリスらと皆で。


それが変わってしまったのは、10年前の建国祭とともに盛大に行われた

現皇帝フランシス=デルヴォー陛下の即位戴冠式がきっかけだったのだ。

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