第18話 絶対始まってるでしょ?乙女ゲーム 3

公爵家を去る間際、明日アベルと大聖堂に行って、もう一度ティーコーゼ結界がどうなっているか見る予定になった。


帰りの馬車の中でわたしはため息をついた。


(…なんで手伝うなんて思わず言っちゃったんだろ。…わたしのバカ)



ジェニ―に転生してからは全て自分の為に時間も生活も使おうと決めていたのに。



前世でわたしは海外の貧困地区などの教育を広げるプロジェクトに携わっていた。


教育の必要性を訴え、学校の設立計画などにも関わってきた。

でももちろん、皆が皆援助を平等に受けられるわけではない。

 

何か月後に訪れると、教師不足や天災で学校が使用不能になったり、

家庭の様々な事情で通っていた子が、いつの間にか通えなくなってしまうこともままある。

彼らがわたしに気遣って、けれど諦めて(行きたいよ…でもほんとうに難しいんだ)と言う顔にさっきのアベルが何故が重なってしまった。


(あんな顔を見たくないのよ。この世界に来てまで)


魔力無しのわたしがどこまで、何ができるか分からないけど。

わたしが今やれることをやろう、そう思ってしまったからだった。


伯爵邸に着き軽く湯あみしてさっぱりしたが、夕食を食べる気力もないほど心身ともに疲れていたので、早めに就寝することにした。


「ふぁ…昨日からもういろいろありすぎだよ。疲れちゃった…」

すっかり就寝の支度ができたわたしは、ベッドに入るなり眠りに落ちた。


そして文字通り睡魔に襲われたのだ。




「ちゅ、ちゅっ」

……何故かキス音が聴こえる。

ナイトドレスの頚元が涼しい。


そこに軟らかい何かがくっついて吸われる感触がある。

イメージとしてはタコの吸盤的なにかが…。


寝ぼけたアタマでうっすら眼を開ける。

真っ黒い影がわたしに覆い被さっている。

(お化け!?)


一瞬で目覚めた。

その黒い影が動いて顔を挙げる。その顔は――。


「あ…アベル様?」

 …え?どうして、ここに?(しかも大人の姿に戻ってるよ!)

 

「ジェニー…愛してる」

アベルは艶やかに微笑んで

(こんな顔見た事無いわよ!?)

キスをしようと顔を寄せてきた。


一体何処から来たんだろう。部屋に鍵はかけているのに。


「ま、待って…」

混乱する頭でベッドの上に摺り上がって逃げようとすると、


「ダメだよ…逃がさない」

耳元でフッと息を掛けられて、身体の力が抜けそうになる。


そのままアベルに上にのし掛かかられた。


(おかしい)…何だろう。この違和感。


…と気が付いた。

 

アベルが幾ら細身でも男性だ。


上に乗られればそれなりに体重を感じるはず。これは実体が無い映像だけのアベルだ。


ふと窓を見ると全開でカーテンがはためいていた。わたしの部屋は3階で、近くに足場になるような物はなにもないのだ。


(これって…)

「いい加減にして!リリス!!」


夢魔リリスの得意な幻影魔法だ。


「あはははは!ばれちゃったね~。」

リリスは姿を現した。


なんと彼女はわたしの枕元に座っていたのだ。


今日の彼女はダメージの入った黒いレザー調のショートパンツ。

膝上まで長いレースの靴下と相変わらずのブーツ。

上もダメージがいっぱい入ったスエットみたいなものを着ている。

髪はポニーテールのTHEストリートファッションて感じだった。

「なんであんたには効かないのかなぁ、不思議なんだよねぇ」

 

こっちも不思議だ。なぜいつも前の世界のような洋服なの?

可愛いけど。


「あっちの、のっぽのオトコには割に疑問を持たずに簡単だったのに。」

リリスがそう言うと、わたしははっと気付いた。


「まさか、エアリスもあんたが…」

リリスは指をぱちんと鳴らした。


「ご明察~あんど、当たり!」と笑う。


「ちょっと、なんて事するのよ!」

おかげでエアリスはどこでも人を抱きしめる

変態やばいひとになっちゃったじゃない!


リリスは足を組むと

「言っておくけどさ、いくらボクが優秀な夢魔だとしても、ほんの僅かでも種火になる気持ちが無いと、あいつぐらいやつを完全に術に陥らせるのは難しいんだよ~。わかってるかな~?」


わたしが「?」になっていると、


「元々あいつにそのきっかけになる感情がほんの少しでもあったってこと。

 ねね、あいつさ――相当夢中になっていたよ。明け方までぶっ続けだもん。ボクがちょいっと魔力貰うにも気づかないくらいにね」


リリスはわたしが少し赤くなっているのをみて、明らかに面白がっていた。

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