第15話 絶対恋したくない乙女ゲーム 5

レイモンドの方が先にリーチの差で魔力探知機キーパーが鳴っていると思われる場所へ着いた。


「一体どういうつもりなんだ!おい!俺が誰なのか分かっているのか!?」


「分かって…存知あげております。落ち着いて…」


背の高いエアリスが両手を挙げた状態で、警戒態勢をとる近衛兵3人と言い争いをしている。


兵等はエアリスの回りでオロオロしていた。

普段と違う客人の態度と剣幕に口を挟めないのだ。


「お前達、俺の事を分かっていながら…」

「すみません…エアリス様、決まりなんです。いま今、公爵様も来られますから…」


「エアリス、どうした、落ちつけ」

レイモンドが名前を呼ぶとエアリスは明らかにほっとした様子をみせた。


「レイモンド叔父上…」

 エアリスは前髪をかきあげてイライラしたように言った。


「なんですか?この音。人を不快にさせますね」


「…キーパーの警報だからな」

 レイモンドは薄っすら笑って言った。

 

 エアリスははっとしたようだった。

「…俺のせいですか?」


 やっと追いついたアベルが並んでエアリスに尋ねた。

「…エアリス、今日いつもと違うものを何か身に付けているか?」


「いや、何も…」

 エアリスは戸惑った様に身体を見渡して言ったが、いきなりふっと眼の焦点が僅かに合わなくなった。


 そしてそのまま何気ない会話をつづけるようにアベルに聞いた。


「…アベル…彼女ジェニ―は来ているか?」

「彼女…?」

「ジェニファー=エフォート嬢だ」

 アベルはレイモンドと顔を見合わせた。


「…チッ、こっち精神か。エアリスちょっと屈め。僕の眼を見てくれ」

アベルはエアリスに言った。


一瞬エアリスは警戒した表情で、アベルの前から下がった。

「は?冗談じゃないぜ。断る。俺が何故お前の…」


次の瞬間、エアリスの頭の後ろからバチンと何か弾ける音がして、エアリスはその場にゆっくり倒れた。


レイモンドが手をかざして立っている。

エアリスの頭に直接ごく微量の電流を流したのだ。


「…義父上、ちょっと手荒じゃないですか?エアリスは一応僕の友人で、貴方の実の甥っ子ですよ」


「我が邸内で大騒ぎしてティ―タイムを邪魔し、おまけに駄々っ子の様にごねてお前の言うことを聞かなかったお仕置きだ」


レイモンドは崩れ落ちたエアリスを、家来が邸内に運びこんでいくのを見送りながら平然と言った。


アベルは少しため息をついた。

「冷血公爵」

――レイモンドの二つ名はまだまだ健在のようだ。





エアリスは客間に運ばれたらしい。

わたしが戻って来た執事さんに聞いたのだ。


玄関口でもめて、レイモンド閣下の洗礼をくらってしまったと。


(気の毒…)

エアリスが何したかはわからないが、閣下の電気ショックはさぞ強烈だったろうな。

(でも正直見たかった…レイモンド閣下の魔法。かっこ…)


「ジェニ―、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですわ」

アベルの質問にわたしは慌てて答えたが、次のアベルの言葉に『?』が浮かんだ。


「エアリスの事…さぞ心配で心が痛むでしょうね」

「え?」


ってなぜ?)

「心配と言えばまあ、そうですが…」


(心が痛むってほどでは…)

わたしの微妙な反応にアベルはちょっと赤くなって言った。

騎士団ガーディアンが馬車の前で、その…抱き合う二人を見たと言っていましたので」


「ふえ!?だ、抱きはいません!」

(ちょっとちょっと…一体何を報告してるのよ)

 

『それとも伯爵邸じたくに帰らずに俺のところにくるか?』


あれはエアリスの悪ふざけだと思うし、よろけたところを抱き…止めてもらったと思っている。

断じてなどいない。


「そうですか…」

アベルはちょっと考えていた様子だけど、

「なら良かったです」

とふんわり花が咲く様にニッコリした。


(『なら』?…って、か…可愛い!)

予想外というか、予想以上の笑顔に思わずドキッとしてしまう。


(だってツンな青年のアベルの表情と違い過ぎるのよ…!)

 

ただでさえ見た目天使なのに

(にっこりはないわ…ちょっとした兵器よね)

わたしは心の中でうんうんと頷いた。

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