第12話 絶対恋したくない乙女ゲーム 2
わたしが
起きて待っていてくれたお父様が、ガウンのまま玄関口まで迎えにきてくれた。
「ジェニ―、大丈夫か?」
「お父様。お起きていてくださったのね。ごめんなさい」
「なにやら大聖堂の周りで無頼漢どもが物騒な騒ぎを起こしたらしいと聞いたのだ。巻き込まれるなんて…災難だったな」
丸く収める為なのか、お父様にはそう説明がいったらしい。
(…なるほど)
『結界ほにゃらら~』は調査中だし、詳細は今の所はっきりとは分かっていない。
この件については、まだ箝口令が敷かれているってことだろう、とわたしは推察した。
「ええ。お父様。今大聖堂の回りも含めて大変外は物騒になっているらしいですわね。わたし、しばらくは自宅でおとなしくしている事にしますわ」
学園も卒業したし、アベルの様子は気になるけど、これ以上あまり深くは関わらない方が良いだろう。
何と云ってもわたしはモブの一令嬢に過ぎないのだ。
そう言うとお父様はなんだか微妙な顔をしていた。
「ジェニ―。お前は明日朝から公爵家にいくのではないのか?」
「えっ…??」
(お父様…それ、わたし初耳です)
わたしが帰ってきてからほんの少し後に公爵家からお使いと手紙が来たらしい。
何故かお約束していないと云うか、お会いした事もないバランタイン公爵様にご自宅に来るようにとお誘い(というかご命令よね)を受けたらしい。
(え――!?どういう事!?止めてよー!)
結局わたしはバランタイン公爵邸に行く羽目になってしまった。
午前中に公爵家から迎えの馬車が来るというので、眠い目を擦りながら早目に起床し身支度を整えていく。
そして昨夜迎えにきてくれたのと同じゴージャスな馬車に乗りこんだ。
でも見てよ。
今日はお尻の下に敷くクッション持参で馬車対策はばっちりである。
(ああ、なんだか毎日バタバタしていた前の世界の事を思い出すな…)
以前の生活を感慨深く思い出す。
本当に色々あってバタバタと過ごしていたような気がする――楽しかったけれど。
そうそう、バランタイン公爵と皇族について、もう一度頭の中でおさらいしていこう。
現皇帝フランシス=デルヴォー陛下にはお二人の義弟君がいらっしゃる。
お母さまが側室の方になるのだ。
一人は宰相オーギュスト公爵、エアリスの御父上様。
もう一人は魔法管理省長官バランタイン公爵。
今日伺う予定のアベルの御父上様にあたる方である。
因みに騎士団『シークレットガーディアンズ』を率いるのはヒューゴ=パネライ騎士団長で、彼は陛下の実質従兄弟に当たる。
彼のお父上は
そもそも前皇帝陛下は元々、市井出生の皇族・貴族出身では無いお方らしく、前皇后さまが惚れに惚れ込んで結婚したという大変特殊なお方である。
逆玉…というか前皇帝陛下は身分を吹っ飛ばすほど超ハイスペックな男性だったという事だ。
魔法学園が実力主義で徹底しているように、基本的に人そのものが帝国の利益になると考えるのが帝国主義のため、皇室の方々といえどもおいそれとは気が抜けない。
皇族の方々はもともと優秀な方ぞろいなのだが、しっかり勉学に励み、更に高みを目指すのが当たり前なのである。
話をアベルの御父上様に戻そう。
アベルのお父様レイモンド=バランタイン公爵閣下とは、現魔法管理省長官にして、五大魔法全てのハイマスタークラスを習得した超人である。
そして魔法を近代化、細分化し仕事として組織を立ち上げ、古臭い組織である魔塔的な魔法士集団からの政治的干渉を排除した、凄いお方でもある。
(まあ…だからね。陛下ほどではなくとも滅多にお会いできる方ではないわね。わたしが緊張しちゃってもしょうがないよね…。)
緊張する理由はまだある。
なぜ魔力のないわたしが、結界の
なにせキレッキレの血が出ると云われる程の切れ者で、とても有名な長官なのだ。
(どう答えるべきかな…)
何せあのアベルのパパである。
重箱の隅を突く様に徹底的に質問され、答えられなければサイアク暫く拘束される可能性だって考えなきゃ…と色々考えていると、そこでタイムアップ。
馬車がとうとう公爵邸に到着してしまった。
(まあ、今色々考えすぎてもしょうがないか)
わたしの思考は最終的にそこに着地した。
窓の外に見えるのは完璧に整備された素晴らしい庭だった。しかもバカ広い。
公爵邸の外門に入ってから10分以上は馬車に揺られているけど公爵邸が見えてこない。
(どんだけ広いのよ!)
クッションをしていたお尻がそろそろ限界に達した頃、やっと公爵邸に着いた。
公爵邸のエントランスに着くと、スラリとした背の高い男性が立っていた。
何と――レイモンド=バランタイン公爵閣下が、直々にお出迎えに出てくれたのだ。
その姿を見て、わたしは衝撃を受けた。
(嘘でしょう!?
40歳そこそこ位だろうか、プラチナブロンドにオレンジの瞳はアベルと同じだ。
しかし…そこにプラス大人の色気(これめっちゃ大事よ)が、駄々洩れるフェロモンがある。
髪は全て後ろに撫でつけていて、瞳には大人の落ち着きを湛えている。
自信のある男だけが出せる堂々とした立ち姿は、theダンディーそのものである。
(やばいわ…危険すぎる)
前世のわたしなら一発で恋に落ちてる。
短絡的だけど結婚したい。
わたしの今の年齢だと離れすぎだし、しっかりと奥方がいらっしゃるけれど。
(何度も言わせてもらうが私の中身はアラサーなのだ)
10歳以上年下のジェニーの同級生たちがどんなにカッコよかろうが所詮18歳かそこら…イケオジの方に心がトキメクのは仕方がない事なのだ。
そうよ。わたしは間違ってない。
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