第11話 絶対恋したくない乙女ゲーム 1
調査の為の騎士団はちらほらいるけれど、またその場にエアリスとわたしが残された。
エアリスはしばらくアベルとヒューゴの去った方を見ていたけれど、ため息をつくと癖毛をくしゃっとかきあげてわたしに言った。
「あ…腕、痛かったか?悪かった。」
(…あ、さっきのね)
わたしが自分の腕を少し持ち上げて見ると、少し皮膚が赤くなってはいたが、跡が残ったりは無さそうだ。
今度はやさしくだけれど、エアリスはまたわたしの腕を掴んで持ち上げた。
「…
そう言うと彼がさっき掴んだ場所をそっと撫でた。
するとすぐに腕の赤味は消えてしまった。
心なしか腕周りもスッキリ感がある。
『さすが公爵家のご子息、魔力をいっぱい持っているんだな』とわたしが感心していたら、エアリスはわたしをいきなり横抱きにして抱えた。
(…え?わたし歩けますけど)
「よし、帰るぞ」
「…ちょっ、ちょっと歩けますわ。降ろしてください」
「いいから、動くな」
エアリスはわたしを横抱きにしたままずんずんと歩き出した。
ここの大聖堂から馬車が止めてある場所まで抱えていくつもりらしい。
「お、重くない…?」
「別に」
エアリスはこともなげに言うけれど、額や首筋に汗が浮かんでいる。
(でも、すでに汗をかいているんですけど…)
そこで気づいてしまった。これは今のものじゃない。
多分、アベルとわたしを捜しまわった時のものなのだろう。
そう分かると、改めてエアリスに申し訳ない気持ちになってしまった。
「エアリス…本当に、本当にごめんなさい」
エアリスは一度立ち止まった。
そしてそのままわたしの顔をじっと見下ろす。
青い瞳は今は穏やかだった。
でも何の感情なのか、瞳の中で揺れている気がする。
わたしはいま、どんな顔してるんだろう。
(…泣きそうな顔をしているのかもしれない)
「…お前だけのせいじゃない」
エアリスはぽつんと言った。
「本来なら…お前をあそこで降ろさず大公の邸宅まで連れていくべきだった。まあ、俺の判断ミスだな」
それから、ちょっと笑って言った。
「俺が怒っているようにみえるとしたら…それは自分の不甲斐なさだろうな。
あの結界に俺は何もできなかったから、お前に八つ当たりみたいになっちまった。
すまない」
ちょっとぎこちないが、それはゲーム内のスチールで見たいつものエアリスの笑顔だった。
その笑顔を見た途端、わたしはなんだか切なくなってしまった。
「ううん、一生懸命探してくれてありがとう。エアリス…本当にありがとう」
改めて言うのも恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じたけれど、言わずにはいられなかった。
馬車の待つ場所に着くとエアリスはそっとわたしを降ろしてくれた。
「さっきと状況が変わったから一度自宅にもどったほうがいい」
とこのまま帰宅する様にと勧められる。
エアリスは手を引いて馬車に乗る際のエスコートをしてくれた。
『流石スマートだわ…』と思っていたら、車内に乗る途中で、エアリスにグイと引っ張られた。
(あ、危ない。ステップから落ちちゃう!)
そう思った瞬間、そのままエアリスの胸に引き寄せられた。
「―――それとも
わたしの耳元でぞくぞくするような甘い声で囁いた。
「…お前は危なっかしくて、目が離せない」
すさまじいエアリスの色気に当てられて、不覚にも一瞬、動けなくなってしまった。
――が、いきなり思い出したのだ。
最後のフレーズ『お前は…』の件、まさに乙ゲ―の中でエアリスが『ローゼリット』に言った言葉だった。
「…い、いえっ、帰りますわっ!」
抱き寄せられたエアリスの胸をぐいと押しながら、思い切り後ろにのけ反った瞬間、馬車のドア部分の角に、わたしは頭をガンッとぶつけてしまった。
「…あっ…たぁ…」
痛みに一瞬固まっていると、またエアリスがお腹と口許を抑えて震えながら笑いを我慢している。
(…何なの、このひと…ほんとに笑い上戸よね)
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