第6話

「帰る!? 今日中に!?」

 突然ノイアの口から出てきたその言葉に、僕の寝ぼけた頭はすっかり目を覚ました。

 あれから一週間、僕は相変わらずノイアの調査に付き合う毎日を送っていた。

 何か変わったかというと、僕の勝手な印象だが、ノイアが以前よりも更にお転婆になった気がする。これは今まで以上に体力を使いそうだと、そんな風に思っていた矢先の出来事だったのだ。

「えぇ。この世界に、ずっと居続ける訳にもいきませんから」

 元々彼女は調査が目的でこの世界に来ていたのだ。調査が終われば、次の世界へ旅立とうとするのは当然だ。

 だがこうして胸の奥で寂しいと感じるのは、それだけ自分の中でノイアの存在が大きくなっていたのだろう。

「……そっか」

 そういうことなら、協力者である自分が足を引っ張るわけにはいかない。

「それで……今日は、トモキと最初に会ったあの大書庫に行きたいです!」

 確かに、まだノイアを図書館に連れて行ったことはない。最後の調査にはある意味もってこいの場所かもしれない。

「じゃあ、今日は図書館に行くか」

「はい!」

 こうして僕とノイアの、この世界における最後の調査が始まった。


「わぁ……!」

 自動ドアの潜った先にある異世界に、ノイアは感嘆の息を漏らす。

「ここは静かに本を読む場所だから、会話する時は極力小さな声で」

 小声で注意すると、ノイアも僕の声を真似てヒソヒソ声で「分かりました」と返してきた。

「まずは自分の読みたい本があるエリアに行くんだが、ノイアは何か読みたい本とかあるか?」

 少し考え込んだ後、ノイアは難しい注文を出してきた。

「でしたら、トモキが読んでいて幸せになる本ってどれですか?」

 幸せになる本……、読んでいて楽しい本ってことでいいのだろうか。

「……特に思いつかないな」

 ジャンルに対するこだわりとかは特にない。強いて言うなら、表題に惹かれることが多いくらいか。

「なら、端の本棚から順に見て回りましょう!」

 そう言ってノイアは僕の手を取り、意気揚々と本棚の中へと入っていった。

 

 そこからは、それぞれ気になった本があれば手に取って読んでみることにした。

 僕の隣ではノイアが楽しそうな表情を浮かべてながら、物凄い速さでページを捲っている。こっちが一ページ目を通している間に彼女は一冊を読破しているくらい、読む速度に差があった。これが知識神の力なのか……。

「トモキ、次の本棚を見てきますね!」

 あっという間に幾つもの分厚い本を読み終え、次の本棚に向かっていくノイア。

「あっ、ちょっと待て!」

 僕は手に取っていた本を閉じ、そのまま彼女の後を追いかけた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る