第2話
図書館を出た後、自宅へと帰った僕は簡単な夕食と入浴を済ませ、いよいよ例の本と対面する。
「これ、かなり分厚いな」
神話でこれほどの厚さがあるのなら、名前くらいどこかで聞いていそうなものだが。
そんな風に思いつつ、僕は表紙を捲って中のページに目を通し始める。
「『知識神』ノイアは知識やそれによる人の営みを司る白髪の女神である。身長は百六十九センチメートル、体重は五十五キログラム。スリーサイズは…………ん?」
スリーサイズ? そこまで詳しく書く必要あるか? というか、どうやって神様のスリーサイズ測ったんだよ。
色々と疑問に思いながらも続きに目を通し、次のページへ目を向けようとした。
その時、目の前の本は本であることをやめた。
突如部屋全体を埋め尽くすほどの怪光を放ち、僕は反射的に持っていたその本を手放した。顔を伏せ、必死に目を庇うが、それでも光は庇う手指の間を縫って僕の顔を照らしてくる。
光と僕の攻防は長きにわたり、何も見えなかった僕の目も徐々にその機能を取り戻していく。
何が起きたのか辺りを見回すが、目に映るのは先程と変わらない、普段通りの自分の部屋だ。
――だが。
僕はゆっくりと伏せた頭を上げる。
すらっと伸びた美しい手足に見慣れない衣装。現実離れした美貌と絹のような透き通る髪。
僕は、この人を知っている。
いや、
目の前の初めて会う、見覚えのある女性の口が開く。
「はじめまして」
「私はノイア。知識神ノイアです」
「……どちら様、ですか?」
混濁する頭を通り越し、無意識に口から零れたその言葉を聞いて、柔らかな笑顔を浮かべていた目の前の女性は頬を少し実らせる。
「ですから、ノイアです! さっきまで私のこと見てましたよね?」
さっきまで見ていた? 僕がさっきまで見てたのは図書館で借りた…………。
「――そうだ」
あの本だ。あの本に書かれていたプロフィールをそのまま写し取ったような女性が、今目の前に立っている。そして彼女の出現に伴い、「知識神ノイア」と題された本はこの部屋から消えた。となると、先程の光の発生と彼女の出現はあの本によるものだと考える他ない。それ以外、原因が思いつかない。
だが、そんなことが現実に起こりうるのだろうか?
「…………その、さっきのは忘れてください」
「え?」
「いえ! 覚えていないなら大丈夫です!」
よく見ると先程から耳元を紅くしているように見えたが、今は気にしないことにした。
それよりも、今一番気になるのは。
「靴、脱いできてもらっていいですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます