知識神ノイアの来界
新米提督(f)
第1話
時刻は十六時十一分。飛び出すように教室を後にした僕は足早に帰路へと就く。
登校時は陽が一面に降り注いでいたおかげで多少マシだった分、今は寒さが一層強調されているように感じる。
早く帰ろう。寒風に背を押されて歩を進めていると、一瞬温かな風が頬に触れた。風の吹いてきた方に目を向けると、見覚えのある建物から人が出てきた。
「図書館か」
最後に行ったのは三年前だったか。読書をするのは勿論、学校帰りには避暑地兼避寒地としてもよく使わせてもらった。
……最近寒くなったせいで電気代上がったんだよなぁ。
どうせ家に帰ってもすることはないし、電気代節約のために少し時間を潰していくか。
そんな軽い気持ちで潜った自動ドアの先は、「静」の極致だった。
各々の居場所で隙間一つなく綺麗に納まる無数の本に、身動き一つせずにひたすら没頭する人々。そして「無音」という名の
僕は全身の音を殺すつもりで歩き、本棚と本棚の間へと入っていく。
何もしないでただ居座る訳にもいかないので周囲に人気がない場所を探し、そこにある本を無作為に読み漁る。
退屈しないように場所を変えつつ色々なジャンルの本を手に取り、目を通していった。
字面とにらめっこを続けていると徐々に陽が傾き、辺りには夜の帳が降り始めた。
そろそろ帰ろうと読み終わった本を本棚へと戻した帰りに、僕の足は宗教コーナーで止まった。
「『知識神ノイア』?」
こんな名前の神様いたっけ?
見知らぬ
「まもなく、閉館時刻となります。本日はお越しくださり、誠にありがとうございました」
本も元の場所に戻したし、帰ろう。
そう思う頭の隅ではさっき見た本の表題がちらつき、思考を曇らせる。
気がつけば僕は先ほどの宗教コーナーへと戻り、手を伸ばしていた。
「ん?」
本が取れない。指先に力を込めても、ピクリとも動かない。
よく見るとこの本棚だけ収納されている冊数が多いようで、まるで一面の壁のようになっていた。
「誰だよっ、こんなギチギチに詰め込んだの!」
そう思いながら本と本の間に隙間を作ることで、何とかお目当ての本を引っ張り出すことに成功したのだった。
「こちらの貸出表にお名前と本の表題を記入していただけますか?」
本の表裏を確認してからバーコードリーダーを置き、代わりに一枚の紙とペンを渡す。
目の前の高校生はこちらの指示通りに名前と本の表題を空欄に記入して、紙をこちらに返してくる。
「ありがとうございます。返却期限は三月六日までとなります」
それを聞いた高校生はこちらに一つ会釈を返して帰っていった。
「――ふぅ」
今日の受付業務もこれで終わり。他の仕事は粗方終わらせてあるし、あとはバーコードのない本の貸出情報を手動で入力するだけ。
「早く終わらせよっと。貸出者の名前が『白石知記』で、本の名前が…………あれ?」
「こんな名前の本、ここに置いてあったっけ?」
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