第3話 昨日の出来事
〜昨日。先生のお屋敷の厨房にて〜
「……よし、こんな感じですかね……?」
わたしの眼前で白く輝く(ように見える気がする)苺のホールケーキの最後の確認を終えると、ホイップクリームの入った絞り器をコトリ、と調理台に置く。
ふぃー。いやー、デコりました♪(いい笑顔)
ええ、本日のメインであるシーちゃんの誕生日ケーキは帰宅したあとにお店の厨房で作る予定なのですが、今日は星夜祭。現代でいうならクリスマスです。練習……というと聞こえはよくないですが、どんな料理人もひとつひとつ積み重ねて成長するものです。というわけで先生用のケーキも作っちゃいました♪
しかもここの厨房にある物は好きに使っていいと言われてるのですが、このお屋敷の大抵の物は《魔石》を使った《魔導具》、つまり魔力で動く代物がほとんどなのです。その中には現代の家電のように火力の調節が容易なオーブンや、タイマー代わりに使える魔法の砂時計などもあります。しかも食材はお貴族様向けの高品質な物ばかり。となればもう────作るしかないじゃない!(勝手な決意)
というわけでこちらが、今のわたしにできる最高の、現代風の苺のショートケーキです♪(ご満悦)
魔法関連以外には興味がなさそうな先生ですが、そこはやっぱり女子なのか、甘いものが大好きなんですよね。それに実物を見たことはないのですが、ケーキ自体はお貴族様とかの富裕層向けのお菓子として存在するみたいでして、この前先生が「ケーキ食べたい…………ホールで……」って、子どもみたいなかわいい願望をつぶやいていたのですよ。ええ、ケーキをホールでっていうのは全世界(異世界含む)共通の夢のようです。
なのでがんばっちゃいました♡(やり切った笑顔)
〜以上。回想終わり〜
……そう、わたしは昨日シーちゃんへのプレゼント用とは別に、先生用のケーキも焼いたのです。
というか以前、先生が「師として弟子の作るものには責任を持たねばならない義務がうんぬんかんぬん……(キリッ)」と以前
……まあこれは、貴族流の言い回しといいますかぶっちゃけますとただの建前でして、要約すると「おいしいスイーツ食べたいから、新作できたらちょうだい……?」となります。
貴 族 っ て ほ ん と 面 倒 !
つまり、野菜を使った料理をお出しすると露骨に嫌がる、好き嫌いの激しい先生の本音としましては、わたしの作ったスイーツを食べたいだけなのです。パンがあるのにお菓子を食べたいだけなのです。
さらに説明いたしますと、シーちゃんのために用意したケーキのコンセプトは、苺のショートケーキ風パンケーキ。
フライパンはわたしでも持てる一番小さいサイズの物ですし、なるべく厚みを出すために生地にメレンゲを混ぜてふわふわになるようにがんばりましたが、当然、サイズも厚みも控えめです。
一方、先生用に用意したケーキのコンセプトは、現代風の苺のショートケーキです。現代ほどではないにしろそれなりに材料も道具もありましたので、こちらはスポンジケーキに挑戦してみました。いい感じに焼けたので厚みもバッチリてす。
もちろん、サイズは現代日本人にはお馴染みの、お店で売っている、あのサイズです。
具体的にいいますと、最もスタンダードな五号サイズ(直径十五cm)を目標に作りました。目安としましては、だいたい四~六人くらいで分けるのが普通の大きさですね。
ついでにいいますと、《錬金》の魔法で作った星形の絞り口を駆使しまして、クリスマスケーキ風に豪華にデコレーションさせていただきました。ホイップクリーム増し増しです。盛り盛りにデコらせていただきました。自分で言うのもなんですが、結構上手くできたと思います。
その、苺のホールケーキが乗っていたはずの、
「…………あの……先生。……その……もしかして、……苺のケーキを……お食べになられましたか…………?」
わたしのその質問に、小さく震えながら、こちらに目線を向けただけですが、なんとなく頷いたのが伝わってきました。
「…………おひとりで? ……全部…………?」
わたしのその言葉に、先生は、弱々しくも、しかし確かに、コクリ。と、少しだけ頷きました。
た だ の 食 べ す ぎ で す ね !
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます