第4話 ごちそうさまでした、なのです

 とまあ、そんなこんなでできあがったコンロを駆使し、飴色になるまで炒めた玉ねぎに、にんじんとじゃがいもと豚肉を加えて軽く炒め、火を止めて小麦粉やら水やら牛乳やらお手製コンソメの素やらを投入し再度火にかけ、いい感じに煮立ったら弱火でじっくりぐつぐつと煮込んでお塩でちょっと味を整えたのが、この! 火加減ばっちりな! クリームシチュー! なのです!


 すごいね! 魔ほ!(以下略)


 とまあ、上手にできたクリームシチューに上機嫌になりながら、こんがり焼きたてパンを一口大にちぎって口にします。柔らかい食感と小麦粉の旨味を含んだ、これぞパン! な味が口いっぱいに広がっていきます。うんうん、うまうまですね。


 ちなみにこの世界のパン、日持ち優先なのかやたら堅かったりなぜか酸っぱかったりそもそも味がしなかったりと、やっぱり転生者のわたしとしては残念な感じでしたので自作しました。パン作りに欠かせない天然酵母の作り方を知ってた前世の私、ありがとうございます。お陰で今、お口が幸せです。


 もう一口分ちぎると、今度はそれをシチューに浸してから口に運ぶ。シチューを吸ってとろとろで甘味の増したパンを舌で堪能し、こっくんと飲み込む。ふわあ……野菜とお肉に旨味が溶けたシチューと小麦粉の甘さが一緒になって……すごく……おいしいです……。


 そうして夢見心地でシチューとパンを交互に食べていると、先ほどお父さんがお肉と一緒に焼いていたそれ――ソーセージが目に入ります。


 すかさずお箸に持ち変えてソーセージを掴み、がぶりと勢いよく噛み付くと、プリッとした皮が弾け、中から熱っつ熱っつの肉汁がじゅわ~っと広がり、お肉と脂の旨味が口内を満たします。う~~、美味しいっ! 外はパリパリなのに中はジューシー! 普通の竈で調理しているのにこの焼き加減……。若い頃(といっても今も二十代なので、現代的には十分若いですが)冒険者として各地を巡り、ろくな道具もない中で野営していたお父さんの料理は、やっぱりすごいのです。


 それとこの世界、料理は基本アレなのに、ソーセージとかベーコンとかの加工肉はどれも美味しいんですよねぇ。なんでだろ? 野菜もおいしいし、素材がいいのかな……?


 ふむー? と物思いにふけっていると、そうだ! と思い立ち、部屋の隅にある冷蔵庫――魔石は高いので魔法で出した氷を入れてある――から、あるものの入った瓶を取り出し席に戻る。


 まずは残っているもう一個のパンに指にまとわせた風魔法で縦に切れ込みを入れ、そこにこれまたサラダの残りのレタスを敷き、ソーセージを乗せ、その上から瓶の中の液体――お手製トマトケチャップ――をかける。はい、現代風ホットドッグの完成なのでーす。マスタード? 子供の舌には辛いので作ってないですよ?


 というわけでわたし好みのホットドッグを両手で掴むと、あーん、と口を開けて思いっきりかぶりつく。はしたない? 誰も見てないからセーフなのです。


 口の中いっぱいのホットドッグをもっきゅもっきゅと噛み締めると、もちもちとしたパンの甘味とシャキシャキとしたレタスの瑞々しさ、そこにプリップリのソーセージの肉汁の旨味とケチャップの酸味と塩気が一体となって私の味覚を支配する。


 うわあ……なんで今まで思いつかなかったんだろう……。すごく……おいしい……。それと……なんだろう……なんだか……懐かしい……。


 幸せな気持ちに浸りながらホットドッグを咀嚼し、ゆっくりと、噛み締めるように味わう。……うん、この味好きだな……美味しい……。


 そうしてしばらくもぐもぐと丁寧ていねいに味わっていたものの当然その時は訪れ、ついに最後の一口となったホットドッグをぱくん、と口に入れ名残惜しさを感じながらも食べ終えると、木のコップを手に取り、今の気持ちのように甘い、甘いオレンジジュースを、こくこくと飲み干しました。


 食欲も、お腹もいっぱいになりなると、不思議と心まで満たされた気分になります。


 なんでだろ……久しぶりに現代の、日本の料理を食べたからかな……。それとも前世の『私』には特別な思い出でも、あったのかな……?


 目の奥が熱くなり、少しだけ呼吸が苦しくなる。けれど嫌な気分というわけではなく、温かな気持ちが奥底からじんわりとあふれてくる。


 目を閉じて――その『想い』を噛み締める。


 どれだけそうしていたでしょうか。いつの間にか目尻に溜まっていた涙をそっと拭うと、両手を合わせて『わたし』は満ち足りた気持ちで呟いた。


「ごちそうさまでした」

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