108 トレジャーハント

「じゃあ、お願いします。気を付けてね」


「はーい! すぐに戻ってきますので、少々お待ちくださいっ!」


 ラキちゃんは元気よく言葉を返してくれると、六枚の光の翼を纏って空へ舞い上がっていった。

 この 『迷路の大回廊』 にある宝箱の場所を特定してもらうために。


 王子様やエルレインにも既に伝えてある事なのだが、ラキちゃんには基本的に、普段の活動では回復魔法士としての能力以上を求めないようにしている。

 理由としては、ラキちゃんの特出した能力を他者に見せたくないのと、彼女に頼ってばかりでは俺達自身が冒険者として成長できないという二つの理由からだ。


 だから先程のヘロヘロン戦でもアタッカーには加えず、不測の事態が起こった場合の補助だけをお願いしていた。

 しかし今回ばかりは、ラキちゃんの力に頼る事にしたのである。


「ちょっとズルかもしんないけど、いいだろ? これ位はさ」


 大回廊の高い位置を物凄い速度で飛び回っているラキちゃんを眺めながら、それとなく俺は残ったメンバーに向けて呟く。


「勿論だって! もたもたしてたら他の冒険者が来ちまうかもしんねーからな、いーよこれ位!」


 リンメイの言葉に、王子様や大家さんだけでなく、エルレインまでもがもうんうんと頷いている。

 やはりダンジョン探索で一番のお楽しみは宝箱を開ける事だからね。こんなチャンス見す見す逃す手は無いと、皆思っているようだ。




「お待たせしましたー! ――ふっふっふー、凄いですよ皆さん! なんとなんと! 七つもありましたっ!」


「「「おおおーっ!」」」


 手にしたマップをひらひらとさせながら舞い降りてきたラキちゃんは、興奮気味に宝箱が沢山あった事を教えてくれる。

 俺達はそんなラキちゃんを囲むようにして、ラキちゃんの手にしたマップを食い入るように見る。


 マップにはしっかりと、七つの目印が書かれていた。

 大回廊のかなり広範囲に分散してしまってはいるが、この程度ならば問題無く全ての宝箱を回収できそうだ。


「ここからですと、ここが一番近いですねー」


「だな! んじゃまずは、こいつから開けてこうぜ!」


 俺達はラキちゃんに案内され、足取りも軽やかに迷路の壁の上を駆けていく。

 この大回廊での頂点捕食者であったヘロヘロンがいなくなったため他の魔物の活動が活発になった感じはするが、俺達は気にせず蹴散らしながら進んで行く。


 一つ目の宝箱は先程いた場所からかなり近かったので、すぐに到着する。

 今回もラキちゃんとリンメイに宝箱の確認を担当してもらい、残りのメンバーはいつものように周囲の警戒にあたる。


「へへっ、まずは一つ目だ!」


「開っけまーす! ――あっ、これは軽装鎧ですねぇ。おしゃれな感じがポイント高いです! ……むむ? でもこの鎧には名前が表示されませんねぇ」


「うん、これネームド品じゃねーからな」


 片眼鏡を付けてポイント高いですと評しているラキちゃんに、思わず笑ってしまいそうになる。

 先日手に入れた 『鑑定眼鏡』 は暫くの間パーティの共有財産とする事に決めたんだけど、いつの間にやらラキちゃんのお気に入りアイテムと化していた。

 この片眼鏡はネームド品であれば、その品の名前を見る事ができる。名前が見えなかったという事は……まあそういう事だ。


 高層だからって、宝箱から出るアイテムの全てがネームド品というわけではない。

 高層でもネームド品じゃない装備やアイテムは、結構な頻度で出る。というか、寧ろこっちの方が多い。


「この軽装鎧は蛇の魔物の革を使った品みたいだな。性能はおっさんの鎧と同じ位の衝撃耐性があって、ある程度の刺突耐性と毒耐性が付いてる。ネームド品じゃないけど、結構良さげな感じ」


 宝箱に入っていたのは宝石のように美しい深い赤色を基調とした、蛇の魔物の革で作られた軽装鎧だった。

 見事な装飾がされた美しい鎧であり、色合いやデザインからしてまるでドレスのようなので、どちらかというと女性が好みそうな作りだろうか。


「むぅ……。性能は申し分無いのだが、このデザインは私が身に付けるには少々抵抗があるな……。これはリンメイに譲ろう」


「おっ、そうか? へへっ、わりーな王子様」


 王子様に断りを入れたリンメイは、ニコニコ顔で宝箱から鎧を取り出す。

 今回のダンジョン探索では、各々が優先的に欲しい装備やアイテムを事前に申告して、欲しい物リストを作成していた。

 その中でリンメイと王子様は共に軽装鎧を挙げていたのだが、今回はリンメイの物となったようだ。


 リンメイは軽装鎧を取り出すと、ラキちゃんの亜空間収納へ入れさせてもらう。

 装備を付け替えている時間が勿体ないし危険が伴うため、時間の掛かる装備の変更はセーフティゾーンに行ってからと決めていた。


「よし、次だ!」




「 『悪食家のカトラリーセット』 ? 綺麗な箱ですねぇ。何が入っているんでしょう?」


 ラキちゃんは二つ目の宝箱を開けたのだが、これはなんだろうと首を傾げていたので俺も中を覗いてみる。

 中には美しく装飾された、厚みの無い箱が入っていた。ラキちゃんが名前を言ったという事は、ネームド品だ。


「これは、お貴族様が使うフォークやナイフといった食器のセットだな。ネームド品だけあって効果は結構凄いぜ。これ使って飯食うと毒が入ってても打ち消して、食べても問題無くなるんだよ」


 そう言ってリンメイは宝箱から取り出すと、箱を開けて俺達に中身を見せてくれる。

 リンメイの言う通り、中には美しい宝石とレリーフによって装飾された、大小さまざまなフォークやナイフやスプーンなどが並んで入っていた。


「それはまことか!?」


「おおっ、凄いなそれ!」


「驚きです。確かにこれでお食事をしたら、名前の通り誰でも悪食家になってしまいそうですね」


「そーそー。だからさ、これ欲しがるお貴族様がけっこーいるんだぜ大家さん。――まあこれ、毒の判別にも使えるしな。ほら、ここに宝石付いてんだろ? 毒の反応があると色が変わるんだよ」


「へぇー便利だな。――王子様使ってみるか? お前さんは今や時の人だからな。色々と盛ってくる奴がいそーだぜ?」


「あははっ、そうだな。――どうする? 王子様使うか?」


「む……、いいのか?」


 ダンジョンに来るときに王子様を巡るゴタゴタを目にしたばかりだしな。

 今は冗談で笑っていられるが、これからは冗談では済まされなくなるのではないかと危惧している。

 皆もそれを理解していたようで、快く王子様が使う事を了承していた。


「そうか、ではありがたく…………ああいや、そうだな……エルレイン嬢、これは君に使って欲しい」


「ふぇっ!? それはいけません! これこそ御身を守るためセリオス様が使うべきアイテムです!」


 王子様がリンメイから受け取ったのをニコニコと見ていたエルレインは、突然の申し出にギョッとしてしまい、王子様に詰め寄ってしまう。

 しかし王子様はそれを手で制した。


「聞いて欲しい。私は生まれてからこれまで、数えきれないほどの毒を盛られてきたからな。実はこの体、既に毒の耐性ができているのだよ。なので、これは私よりも君が使った方が良いと判断した。――護衛騎士である君が私を守る前に毒に倒れてしまっては困るだろう?」


 そう言い王子様は、珍しく茶目っ気のある笑顔をエルレインに見せる。


「――! そっ、そういう事でしたらば……。謹んで賜りたく存じます」


「うむ、使ってくれたまえ」


 うへぇ、一国の王子様ともなると、そういった毒を盛られるってのは日常茶飯事な事なのかよ……。

 良い感じの二人をよそに、俺達は唖然とした表情のまま思わず顔を見合わせてしまう。


「まぁ……、とりあえず次行こうか」




「――ッ、これは!」


「おっ、楽器だ。やったなラキ!」


 三つ目の宝箱を開けると、そこには楽器が入っていた。台形に近い形の木箱に弦が何本も貼ってあるような楽器で、たしかプサルテリーって名前だったか?

 指で爪弾いたり、プレクトラム (義爪やばち) を使って奏でる弦楽器だね。

 ラキちゃんは今回の欲しい物リストに楽器と書いていたが、これは特にラキちゃんが希望していた楽器だったはず。


 このように、高層の宝箱からは楽器も結構な頻度で出る。

 出てくる種類も様々なのだが基本的にただの楽器が多く、特殊な効果の付いた魔道具としての楽器は滅多に出ない。

 そのため、冒険者からは楽器はハズレの部類とされていた。


「やったっ!」


「やりましたねっ!」


 ラキちゃんと大家さんは手を繋ぎ、二人して大喜びしている。

 実はこのプサルテリー、大家さんとミリアさんがとても演奏がお上手で、食後の歓談の席では二人がよく即興で重奏をして、俺達を癒しの空間にいざなってくれていた。

 因みに、大家さんやミリアさんはこの楽器だけでなく、様々な楽器の演奏がお上手だ。

 どうやら長命種であるエルフの人々は楽器を人生の友とする傾向があるそうで、中には豊富な知識を歌にして吟遊詩人となる人もいるんだそうな。


 ラキちゃんは近頃、そんな大家さんやミリアさんから楽器の弾き方を習うようになったので、自分の楽器が欲しくなったというわけだ。

 ただ、職人の作る楽器は高価なので安価なダンジョン産の楽器を狙っていたのだが、これがなかなか良いのが見つからない。

 なぜかと言うと、ハズレの部類である楽器を冒険者が地上まで持ち帰ってこないから。


 例えばリュートのようにマジックバッグに収まらなサイズの楽器は持ち帰るのが大変なため、損傷も無くギルドに卸される頻度が少ない。

 買い取り価格もそれほど良いわけでは無いので、大抵の冒険者はその場で捨ててしまっていた。


 だから今回楽器が出てくれてとても嬉しい。勿論欲しいと願っていたラキちゃん本人が一番嬉しいのだろうが、俺自身とても嬉しかったし、出てくれて安堵した。

 これはアレか。子供が欲しがっていたガンプラやゲームを無事買えてホッとする親のような心境なのかも。




 続いて四つ目の宝箱。さて中身は……。


「おっ、ブーツだ!」


「なにっ!?」


 ブーツという言葉に素早く反応したのは王子様だった。

 王子様は今回の欲しい物リストに、軽装鎧だけでなくリンメイの持っているような空中歩行のできるブーツも書いていたから。


 俺も宝箱の中を覗いてみたのだが……、うーん……このブーツは王子様が欲しいのと、ちょっと違う気がする。

 これにはリンメイのブーツのように羽根の意匠はされておらず、波しぶきのような美しい意匠がされていたから。


「んー残念。これは王子様の欲しいのじゃなくて、おっさんのと同じ液面歩行ができるブーツだな。こいつはおっさんのよりも更に二歩ずつ液面歩行ができる上位品なんだけど、それでも四歩。だから勿論、これはネームド品じゃない」


「そうか……残念だ」


「どうする、王子様使うか? 使わねーんだったら俺が貰っちゃうぜ?」


「まっ待て! 使わないとは言ってないぞ!」


 俺が冗談交じりに取り出そうとすると、王子様は慌てて俺の肩を掴んできた。


「冗談だよ。ほれ、さっさと取り出してくれ」


 正直言うと、俺もこのブーツは欲しい。俺はこれまでに何度もこの液面歩行に助けられてきたから。その上位品となれば尚更だ。

 ……だがまぁ、今回は王子様に譲ってやろう。


「おお……、本当に取り出した人物のサイズになるのだな」


「凄いよなぁコレ。何度見ても驚いてしまうよ。――ではラキちゃん、またお願いします」


「はいはーい。王子様預かりますよー」


「うむ、ラキシス殿よろしく頼む」


 軽装鎧とは違って比較的簡単に履き替える事ができそうなブーツではあったが、今は先を急ぐ事を優先してもらう。

 見つけた宝箱は全て俺達が開けたいからね。ゆっくりするのはその後だ。




 五つ目の宝箱はミミックだった。

 危なげなく退治するが、今回は残念な事に 『迷宮宿の鍵』 は落とさなかった。

 俺達はドロップ品である宝箱の鍵と魔石を回収すると、すぐに次の宝箱へ向かう。


「あっ、また軽装鎧。これも名前はありませんねぇ。でも、なかなかかっこいいと思いますよ?」


「だな。王子様、これならいーんじゃねえか? ラキの言う通り、結構かっこいーぜ」


 六つ目の宝箱の中には深い青色を基調とした、まるで漆器のように輝く格好の良い軽装鎧が入っていた。

 この鎧は甲虫の甲羅で作られた物だろうか? 先程のリンメイのとは、作られている素材からして違うのが素人目にも分かった。


 今回で軽装鎧が出るのは二度目となるが、実はこのネームド品ではない軽装鎧、魔王様の恩情なのか高層ではかなり高い頻度で出る。

 そのため装備の質が乏しいまま高層へ来てしまったルーキーには有難いのだが、ここを根城とする冒険者にとっては楽器に次いでハズレの部類とされていた。何故なら、これも持ち帰るのが大変だから。


「む、たしかに……。――で、肝心の性能の方はどうなのだ?」


「性能はまあ、そこそこ。あたいのと大して変わんねーかな。……あ、でも様々な攻撃を普通の鎧よりは逸らしやすいって特性持ってる分、あたいのよりちょぴり良いかも」


「なるほど十分だ。……では続けてで済まないが、これも私の物としたい。いいだろうか?」


「おー、いいぜー」


「どうぞどうぞ」


 とりあえず全員の了承を得た王子様は、いそいそと宝箱から取り出す。

 リンメイ曰くそこそこな品らしいが、王子様は結構気に入ったようだ。暫し眺めてから満足気にと頷くと、この品もラキちゃんの亜空間収納に仕舞ってもらっていた。


 王子様は国許にいた頃から鍛錬時に使用していた簡素な軽装鎧を、聖都に戻って来てからはずっと普段の装備として身に付けていた。

 王族が使うだけあってそれでも上等な品ではあるのだが、ダンジョン産のように特殊な性能は無いし、ぱっと見は普通の兵士が身に付ける鎧と何等なんら変わらない。


 以前王子様に、銭があんだからもっと良いの買えばいいじゃねーかと尋ねたところ、 「次はダンジョン産の装備が欲しいからな」 と言われてしまう。

 ダンジョン産だって普通に店で売ってるじゃないかと返すと、 「誰かの身に付けた装備なぞ使えるものか!」 と、お貴族様らしい答えが返ってきた。


 以前エルレインから贈られた 『願いのスカーフ』 程度ならまだしも、誰かによって使い古された防具類は無理なんだそうな。

 まあ確かになぁ……。俺はお貴族様ではないけれど、王子様の気持ちは何となく分かってしまう。

 剣道などの防具を思い出してもらえれば分ると思うが、使い古された防具は臭いがちょっとアレなんだよね……。




 これまでに出たのは、当たりな部類のネームド品 『悪食家のカトラリーセット』 が一つ。世間ではハズレの部類とされる軽装鎧が二つと楽器が一つ。そこそこ良い部類と思う液面歩行の出来るブーツが一つ、そしてミミック遭遇が1回。

 俺達の欲しい物リストと合致したのは3つもあるのだが、これは世間的にハズレの部類とされる頻繁に出る品。そう考えると、六つの宝箱を開けた結果は少々微妙な感じだった。


 さて、この大回廊の宝箱も、残すところあと一つ。

 最後くらいは、目ん玉が飛び出るほど凄いお宝が出て欲しいものだ。


 ――なんて思っていたら……。


「きました! ネームド品ですっ!」


「うっそ……!? これ 『大地の足鎧』 だ!」


 宝箱には、足の装備品が入っていた。まるで雪化粧をした霊峰を思わせる青みがかった白銀色をしており、大変美しい。

 足鎧とは、その名の通り大腿甲、膝当、臑当、鉄靴をワンセットとした、全身鎧の足の部分。

 リンメイがいつになく興奮した様子なので、これはかなりの大当たりなのではと伺える。


「おおー、なんか凄そうだな」


「おう! 実際凄いんだよ!」


「ほう、具体的にどの程度凄いのだ?」


「うーんとそうだなぁ……、まず防具としての性能がかなり優秀。さっき手に入れたあたいや王子様の軽装鎧とは段違い。んで特殊効果も凄い。これさ、壁だろうが天井だろうが、地面として歩けちゃうんだよ」


「えっ、凄いなそれ」


 俺は子供の頃に好きだった、壁だろうが天井だろうがスタタのタと歩く忍者ハットリくんを思い浮かべてしまう。


「そしてそれだけじゃないんだぜ。これさ、セット効果のあるネームド品なんだよ」


「「「セット効果?」」」


 俺達はセット効果という聞き慣れない言葉に、ついオウム返ししてしまう。

 大家さんだけがセット効果をご存知のようで、この装備そのものに驚いていた。


「うん。セット効果ってのはコレみたいな全身鎧の装備に多いんだけどさ、全身鎧なら全身鎧としてワンセット揃える事で、部位ごとの特殊な効果とは別にもう一つ特殊な効果が解放されるのさ」


「なるほど。という事は、この鎧も他の部位を全て揃えることで特殊な効果が得られるというのだな?」


「そーそー。ただまぁ、それができる奴なんてそうそういないんだけどな。だって揃えるの、すげー大変だから」


「あぁ……、だろうなあ」


「でしょうねぇ……」


 防具は取り出した人の体型に合わせて宝箱から出て来てしまう。そのため可能ならば、セット装備の全ての部位を自力でダンジョンで揃えてしまいたい。

 だけど、それをするには物凄い強運と膨大な時間が必要となってしまうだろう。


 となると後は店に並ぶのを狙うしかないのだが、運良く防具屋で見つけても自分のサイズに合っているとは限らない。

 ある程度の寸法違いなら仕立て直しでなんとかなるのだが、この世界には様々な種族がいる。そのため、仕立て直しではどうにもならないサイズの違いが生じてしまう事が多かった。


「とりあえずこれどうする? このパーティでは全身鎧使ってるのエルだけだから、売らずに使うならエルしかいねーんだけど?」


「それでいいんじゃないか?」


「うむ、エルレイン嬢が使えばよいだろう」


「私もエルお姉ちゃんが使えば良いと思います」


「ですね。エルレインさんがお使いになればよろしいかと」


「だってさ。――てことでエル、箱から出してくれ」


「ええっ!? 皆さん本当によろしいのですか!? 売ればとてつもない額となるレア装備なのでしょう!?」


「まーたしかにそうなんだけどさ。いいんだよ気にすんな。差額も取らないからさ。――最初に決めただろ? このパーティでは差額の徴収とかは無しにするって」


「はい……。ですがこんな高価な品、本当に私が頂いてしまってよろしいのでしょうか……?」


 エルレインは現在、カサンドラ王国からの御仕着せの全身鎧を身に付けている。

 元々は勇者パーティの一員として恥ずかしく無い程度には質の良い鎧をあつらえられたのだろうが、彼女の装備には特殊な効果が何一つ付いてはいなかった。

 パーティの今後を考えたら、是非とも彼女にも装備の質を向上してもらいたい。しかし、あまりの高価な品に怖気づいてしまったのか、エルレインはオロオロとしてしまっていた。


「――! 皆さん警戒を! 冒険者と思われる集団がこちらに来ます!」


 突然、ラキちゃんが何者かを察知したようで声を張り上げる。その声にハッとし、リンメイも大家さんも何かを察知したようだ。

 俺の雷魔法による索敵では、まだまだ索敵範囲が狭いので感知できていない。……いや…………きた、もう俺の索敵範囲内にまで入ってきたぞ。


 しかも迷うことなく、俺達のいるこの場所に向かって来ている。これは、何らかの方法でここに宝箱があるのを把握している動きだ。

 となると恐らく、向こうのパーティにも大家さんのような精霊魔法士か、何らかのギフト持ちがいる可能性が高い。


「この気配まさか……! エル、いいから早く取り出してくれ! 面倒が起こる前に!」


「えっ!? はっはいっ!」


 エルレインが宝箱に手をかけようとしたその時、それに待ったをかけるように怒鳴りつける輩が迷路の壁の上から現れる。


「テメェらどきやがれ! その宝箱は俺達のもんだ!」

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