106 ラバブーンの巣

 次の日。

 朝食を済ませキャンプを撤収した俺達は、早速ハンジ達のパーティ 『滄海の浪』 に案内されて、 『ラバブーンの巣』 へ向かう。


 行き先はこの階段エリアを下りた先ではなく、パラディノスのいる大回廊の、こことは別の通路の先にあると言う。

 そのため俺達は一旦大回廊の方へ戻り、パラディノスに見つからないように素早く移動して、再び別の通路へ入っていく。

 魔物とは何度か遭遇するが、これだけの大所帯で移動しているので全く問題は無い。


  『蒼狼の牙』 の連中は、ちゃんと俺達の後を付いて来ている。


 正直なところ俺は、いくら連中がカサンドラ王国出身の冒険者だからって、そんなに都合よく王子様に従うものなのかと懐疑的だった。

 しかし、そんな俺の心配は杞憂だったようで、連中はあっさりと引き受けてしまった。


「ちょっと前にさぁ、王子様がカサンドラ出身の冒険者を使って迷宮を探索してたじゃない。実はあの時、あいつ等その役目に就く事ができなかったのよねー。――余りにも品が無さ過ぎるって理由で」


「ブフッ!」


「アハハッ! マジかよそれ!」


「笑っちゃうでしょ? あいつ等それが結構ショックだったみたいでね、しょっちゅう愚痴っていたのよー。ウッザい位にさっ」


「ねっ。ホントあいつ等、顔に似合わず女々しいんだもん」


「おいお前ら! 聞こえてんぞ!」


「ホントの事じゃない。だからアンタら推してあげたのよー?」


「そうそう。まずはあたしらに感謝するのがスジってもんよねー?」


「グッ……クソッ! ありがとよっ!」


 リールとラーンにかかれば 『蒼狼の牙』 の連中も形無しである。


 以前カルラ達は中層以降の迷宮を進む際の露払いをさせるため、権力を使って聖都にいるカサンドラ出身の冒険者を招集させ、利用していた。

 しかし、 『蒼狼の牙』 の連中は余りにも品性に欠けるという理由で外されてしまっていたんだそうだ。……まあ、さもありなんという感じである。


 なので連中、最初はちょっと意地を見せて反発するだろうが、何かしらの褒美という餌を目の前にぶら下げれば、すぐに食らいつくだろうと予想ができたんだそうだ。


 後は、生まれてからずっと貴族に支配され続けた平民は、そう簡単には根底に植え付けられた畏怖の念を払拭する事が難しいという事情もあるようだ。

 そして奴等平民が貴族に楯突いた事が知れたら、国に残っている親兄弟が村ごと焼かれる可能性だってあるらしい。


 やれやれ、お貴族様は怖いね。女神様が俺を送り出してくれた場所、アルティナ神聖皇国で本当に良かったよ……。




 斥候として先を進んでいたネレウスが戻ってくると、ハンジとエギルに何かを伝える。


「ガンツ、そろそろだ」


 ガンツとは 『蒼狼の牙』 のリーダーの名前だ。

 エギルが彼らを呼ぶという事は、いよいよか……。


「隊列を変えるぞ。――皆さんのパーティは最後尾でお願いします」


「分かりました。では、よろしくお願いします」


「おらっ! どけどけお前ら!」


 昨日俺にぶっ飛ばされても相変わらず強気な 『蒼狼の牙』 は、俺達を押し退けるように前に出る。

 こいつ等本当に強メンタルだよなあ。こういう所は見習いたい。


「其方らの働き、期待しておるぞ」


「へへっ、お任せください王子様っ!」


 それでもこいつ等、しっかりと王子様にだけは低姿勢になってんだよな。ガンツなんて揉み手までしちゃってるよ……。

 本当に生き残るすべに長けているというか、ある意味強いなと感心してしまう。


「ちゃんとやりなさいよあんた達」


「そうよー、しっかりやりなさーい」


「カーッ! うるっせぇ! お前らもヤんだよ!」


「ちぇっ、バレたか」


「しょーがないわね、あたしらも行くとしますか」


 いつの間にか傍に来ていたリールとラーンが、王子様の威を借りるように 『蒼狼の牙』 の連中に発破を掛けていた。

 はははっ、面白いなあ彼女達。先程からの、いがみ合っているようでいて割と仲がよさそうな掛け合いが、見ていて楽しい。

 まあ連中の愚痴を聞いてやってる位だし、実際に連中とは仲が良いんだろうな。


「すみません、お願いします」


「はいはーい」


「まっかせてー」


 二人は俺達に向けて手をひらひらとさせながら答えると、前の方へ戻って行く。

 さて、いよいよ 『ラバブーンの巣』 越えだ。




「来るぞっ!」


 けたたましい獣の鳴き声と共にラバブーンが次々と俺達の方へなだれ込んでくる。

 それに押し負ける事無く 『滄海の浪』 と 『蒼狼の牙』 の二つのパーティがラバブーンを次々と屠り、俺達は少しづつ前に進んで行く。


  『ラバブーンの巣』 越えは、なにも巣である大広間に入ってからゲームのようにラバブーンと戦闘が始まるわけではない。

 奴等は巣に近づく冒険者の気配を察知すると、まるで蜂のように集団で襲い掛かってくるからだ。


 そのため、この集団を倒しながら大広間まで到達するのが、この攻略の一番厄介な所であった。

 それを今回、 『滄海の浪』 と 『蒼狼の牙』 の二つのパーティが担当してくれる。本当にありがたい。


 ハンジ達は流石ベテランなだけあって、流れ作業のようにラバブーンの群れを倒していく。


 ハンジは槍をメインの武器としているのだが、彼の槍はちょっと変わっていた。槍の穂の部分が細長い円匙エンピ (スコップ) のような形状をしていたのだ。

 まるで長芋やごぼうを掘るのに便利そうなあの形状が、もしかしたら土魔法に長けたゴブリンの武器としては打って付けなのかもしれない。

 彼はギフトを発動する必要もないといった感じで、普通に巧みな槍さばきのみで次々とラバブーンを屠っていく。

 サラミスも同様に、精霊魔法だけを使ってラバブーンを次々と倒していた。


 エギル達四人は流石は海水浴場の監視員なだけあって、全員が全員水魔法を得意としているようだ。

 それぞれが武器に水の属性魔法を付与するなどして、まるでウォータージェット加工のようにスパスパとラバブーンを切り刻んだいる。


 リーダーのエギルは銛のような槍を豪快に使い、ハンジと共に次々とラバブーンを仕留めていく。

 リールはサラミスと並び、魔法による遠距離攻撃を行っていた。


 ネレウスとラーンの夫婦は二人ともグルカ兵の使うククリナイフのようなショートソードを両手に持ち、水魔法を付与して刀身を延長させてラバブーンをバッタバッタと切り倒していく。


  『蒼狼の牙』 の連中も 『滄海の浪』 に後れを取る事無く、きっちりと自分たちの役目を果たしラバブーンを屠っていっている。あんなナリだけど、流石は高層冒険者といったところか。

 予想外だったのは、 『蒼狼の牙』 の連中の殆どが遠距離攻撃に長けていた事だ。連中、いかにも 『ヒャッハー!』 とか言いながらバカスカ殴り倒すイメージなのに……。


 しかも驚いた事に、メンバーの中には大変貴重な存在である攻撃魔法士が二人もいたのだ。

 ビリーと呼ばれた小柄な男が普通に炎の魔法を撃ち出し、ポルコと呼ばれた大柄の男がピッケルのようなハンマーの杖を地面に打ち付け、地面から噴き出す土魔法で攻撃していた。


 そしてリーダーのガンツは、王子様に見せつけるかの如くギフトを発動してラバブーンを蹴散らしていた。

 奴のギフトは風魔法により生み出される風の狼を操るというものだった。風の狼がラバブーンに襲い掛かると、まるで竜巻に放り込まれたかのようにズタズタになる。

 なるほど、奴等のパーティ名の由来はコレか。


 残るメンバーのうち二人は弓を使って攻撃しており、ロッシと呼ばれた男は 【必中】 ギフト持ちなのか次々と命中させ仕留めていく。

 ガンツの弟で一番幼い顔立ちのギーツも頑張ってはいるが、明らかにロッシと比べると技術が劣っており、それほど貢献はしていない感じだった。


 そして最後に、ランドルと呼ばれる小汚い神官服を着た男だけが、イメージ通りにメイスを振り回して近接攻撃をしていた。

 神官のはずなのにパーティの中で一番ガラの悪そうな面構えをしている。戦う姿は蛮族そのものだ。


「そこの水路で仕掛けるぞ!」


「「「おうさ!」」」


 エギルの声に、全員が呼応する。

 ラバブーンの集団を押し退け通路を横切る水路まで到達すると、エギル達水魔法の得意な面々が、それぞれ水路の水を利用して水魔法を発動させる。

 大技を繰り出す場合は、魔力マナで生み出すよりもそこにあるものを利用して魔法を使う方が、魔力マナの消費を抑える事ができるからだ。

 ここは玄関口まで繋がっている水路が非常に多い迷宮。彼らのような水魔法に長けた冒険者にとっては、実に都合の良い階層なのだろう。


 水路から噴き出した荒れ狂う水の束が、向かい来るラバブーンを飲み込むかの如く押し流していく。

 そんな水流に追従して、俺達は一気に駆け抜けてゆく。

 暫く進むと、 『ラバブーンの巣』 である大広間の入り口が見えてきた。




「あっしらの役目はここまでです。――では、お気をつけて」


「助かった。其方らの働きに感謝する」


 大広間の入り口まで来た俺達は、ハンジ達に道を譲られる。

 ここからは俺達の仕事だ。


 迷宮は六人以上だとドロップアイテムが出なくなるという制約がある。魔物の持つ遺留品も、すぐに迷宮が飲み込んでしまう。

 そのため、何かしらの遺留品を貯めこんでいるであろうラバブーンのボス猿との戦いは、通常のボスと同様に一つのパーティで挑むというのが通例であった。

 大広間の外にいる限りは六人の制約に引っ掛からないので、このままハンジ達には通路側で待ってもらいながら、巣に戻ってくるラバブーンの処理をお願いする。


「みんな頑張ってね~」


「ありがとうございます! ――よし、行こう!」


「「「「おー!」」」


 最初に雪崩のように襲い掛かってきたラバブーンを処理したので、もう大広間にはラバブーンのボス猿と少数の取り巻きしか残っていない。

 大広間に躍り出た俺達は、ボス猿と対峙する。俺達を威嚇するボス猿は、他のラバブーンよりもかなり大きかった。

 取り巻きは、左右の二階観覧席のような長い通路からギャーギャーと騒いでいる。


「ゲッ! あいつ等武器持ってねーぞ!・・・・・・・・・


「なっ!? まずい!」


 ――グギャオオォォォ!!!


 ボス猿の雄叫びと共に俺達に向けて様々な物が飛来する。

 俺が指示するまでもなくラキちゃんは素早く結界を張り、大家さんとエルレインも大広間にある水路を利用して水魔法の障壁を作ってくれる。

 飛来する物は石であったり泥であったり瓦礫であったり、そして糞であったり……。


 ラバブーンで一番怖いのは、実は奴等の長い腕を使った投擲による攻撃だったりする。

 よく、力も弱く、足も遅く、爪や牙といった生来の武器も持たない人類が優位に立てたのは投げる能力があったからなんて耳にするが、厄介な事にこいつ等も投擲を得意としていた。

 あの鞭のようにしなる腕で魔力マナを込めた剛速球を投げてくるため、まるで砲弾のようなとんでもない威力だったりする。


 この厄介な攻撃は、ラバブーンが武器を持っていない場合にだけ行う。普段は手にした武器をひけらかすかの如く、振り回して襲ってくるからだ。

 連中は自分たちの攻撃で最も威力があり厄介な攻撃が投擲だという事を理解していなかったりするので、武器さえ持っていれば率先して投擲はしてこない。


 だが今回のように運が悪いと、投擲で攻撃をしてくる。

 そのため二階観覧席のような場所にいるラバブーンも陣取って下りてこようとしないので、こちらが仕留めに行かないといけない。


 ――ドン! ドカン! バン! ドン! ドスン! ゴン! ガン!


「うわわわ、臭いですー」


「うっわ、たまらんなコレ。鼻がもげそう……」


「ええい! こんな品の無い戦いは性に合わんぞ!」


 ラキちゃんが悲鳴を上げてしまう程に糞を大量に投げてくるので、臭いがたまらない。

 どんなに高い戦闘能力を誇る冒険者でも、慣れていないと汚く不衛生な環境での戦闘では、怯んでしまって本領を発揮できなくなる。

 不味いな……。これは何とかして、さっさと二階観覧席のラバブーンを始末しないといけない。


「リンメイ、左側の二階を頼む! 俺は右側の二階に行く! ――王子様とエルレインは手筈通りボス猿を任せた! ラキちゃんと大家さん、俺とリンメイの援護お願いします!」


「「「了解!」」」


 リンメイは籠手に魔力マナを通して両手に花柄の結界を作り出すと、ブーツの力で二階観覧席の方へ跳躍する。

 俺も片方の手で盾を構え、ストランドを打ち出して飛び上がった。


 俺とリンメイはラキちゃんと大家さんの援護もあり、無事に二階観覧席に降り立つ。

 二階から投擲していたラバブーンは俺の存在に気が付くと、こちらに狙いを変えてきた。

 よし、来るなら来い! ここで雷魔法による結界を試させてもらうぞ!


 ――バリバリバリッ! ボフン!


「なっ!?」


 なんと運悪く投げつけられた糞が雷魔法によって爆散してしまい、辺りが細かい埃と臭いで酷い状況となってしまう。


「ゲホッゴホッ……!」


 クソッ、衝撃波を生み出すタイミングを間違えるとこうなるのか!

 俺は慌てて大家さんから購入した眠りの香対策のマフラーを装備し、首に掛けてる暗視機能付きのゴーグルを素早く装備する。


「クソッタレめぇー! これでも食らえっ!」


 俺はお返しとばかりに一本のアイアンニードルの針を投擲し、ラバブーンに到達するかしないかの加減で雷魔法を発動させる。


 ――ドパパパパーン!


 アイアンニードルの針と繋がった俺の魔力マナの糸から、放射状に二階通路を覆いつくすように俺の雷魔法が炸裂する。

 魔法が見事に決まってラバブーンは焼け焦げてしまい、更にはマヒ状態で動けないでいる。よし、これで後は止めを刺すのみだ。


 俺の方は片付いたのでリンメイの方を見ると、あちらもあと少しで終わりそうだった。

 彼女は籠手の結界を展開しつつ流星剣と炎属性の剣の二刀流で、流れるように次々とラバブーンを仕留めていた。

 最後のラバブーンに止めを刺すと、俺の方に向かってにこやかに手を振ってくれる。


 残るは王子様とエルレインに任せたボス猿なのだが、予想外な事に王子様は少々手こずっているようだった。

 どうしたんだろうとよく見ると、ボス猿の装備している立派な大盾に難儀しているように見て取れる。

 どうも王子様、あの大盾を傷つけたくはないようだな……。


「セリオス様、気にせず切り飛ばしてください!」


「案ずるなエルレイン嬢。これで……終わりだっ!」


 そう言うと王子様は逆袈裟に盾を持つ方の手を切り飛ばし、返し様に上から下までボス猿を唐竹割りに真っ二つにした。




「セリオス様、ありがとございます……!」


 エルレインは先程ボス猿が使っていた大楯を慈しむように抱きしめながら、頻りに王子様に感謝の言葉を述べていた。

 聞くと、あの大盾は元々エルレインの盾だという。


 以前エルレインは王子様とサーリャを抱えて逃げる時に、活路を見出すために大楯を敵に向けてぶん投げてしまっていた。

 それを運良く、ラバブーンが回収していたというわけだ。


「この盾は別段特殊な付与があるわけではありませんが、私のためにと、お兄様があつらえて下さった品なのです」


「なるほどね。だから王子様は気を配りながら戦っていたというわけか」


「はい。セリオス様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました」


「なに、これしきの事。何も気に病む必要は無いぞ、エルレイン嬢」


「そういえば、王子様の剣も一緒に無くしたはずなのに、ボス猿は持ってなかったな」


「ああ…………。私の剣は恐らく、カルラ嬢か誰かのマジックバッグと共に……燃えてしまったのだろう」


 王子様は少しの間だけ逡巡すると、少々寂しそうに教えてくれた。


「……そっか」


「えー、なんかもったいねえな。王子様の使ってた剣てさ、国宝級のヤツだったんだろ?」


「まあな……と言いたいところではあるが。――フフッ、実はあの剣、レプリカだったのだ。だから問題は無い」


「なぁんだ、ニセモノかぁ」


 どうも王子様の使っていた剣は、カサンドラ王国の建国の祖である女王カサンドラの剣のレプリカだったそうだ。

 レプリカであろうが、片腕と共に持ち帰ればセリオス王子を討伐した証拠となる。だからきっと、カルラ辺りが回収していたはずだと教えてくれる。


 因みに王子様がレプリカであると知ったのは国へ帰った時だった。

 傾国の魔女を打倒さんがため王城に戻ったら、本物は堂々と飾られたままだったのだそうだ。これには流石の王子様も苦笑いしたらしい。


「皆サン、お見事でござんした」


「おつかれさまー。流石はサリア様が見込んだ子達ね。楽勝だったじゃない」


「へへっ、王子様! お疲れ様っす!」


 俺達の戦いが終わったと判断したハンジ達が、大広間の方へ入ってきた。

 どうやら彼らは、俺達の戦いを入口から見ていたようだ。


 皆に手伝ってもらい、俺達は急いで遺留品の確認をする。

 しかし残念ながら、今回の 『ラバブーンの巣』 攻略ではエルレインの盾以外には大したものは残っていなかった。

 ラバブーンが武器を持たず投擲をしてきた位だったので、 「まあこんな時もあるさ」 との事。


 気を取り直して、俺達は大広間の奥へ進む。

 情報の通り大広間の奥にには玄室があり、そこには転移門ポータルがあった。

 これを潜れば 『ラバブーンの巣』 越えは完了だ。




 俺達三パーティは全員が転移門ポータルを潜る。

 俺達のパーティはボス部屋を目指すために。そして 『滄海の浪』 と  『蒼狼の牙』 は、まだ荒らされていないこの先でトレジャーハントをするために。


 王子様は約束通り、 『蒼狼の牙』 の連中に一人一本ずつ酒瓶を手渡していた。

 特にガンツの弟ギーツは大喜びで、王子様に 「ボス部屋は多分あっちだよ」 と教えてくれる。

 突然の言葉に王子様は面食らっていたが、サラミスが 「彼の言う事は聞いた方が良いですよ」 と助言をくれる。


 エルフの彼女が言うんだから、きっとギーツの言う事は間違いないのだろう。

 もしかしたら彼は、そういった事が判る何かしらの特殊なギフト持ちなのかもしれない。


「おうケイタ! 王子様に選ばれたからって調子ん乗んじゃねーぞ!」


「おうケイタ! 俺達の分までしっかり王子様に仕えんだぞ!」


「おうケイタ! サボんじゃねーぞ!」


「おうケイタ! 王子様の女、ちゃんと守んだぞ!」


「おうケイタ! 王子様の女に手ぇ出すんじゃねーぞ!」


「おうケイタ! そんなパーティいちゃあ、かなり溜まってんだろ? いい子いる店紹介してやっから今度奢れよ!」


「なっ!? うるせぇんだよお前ら! さっさと去ね!」


 高級酒を貰って上機嫌な 『蒼狼の牙』 の連中は、何故か俺にだけ好き勝手な事を言うと足早に去って行ってしまった。何なんだよまったく……。

 しかし連中、妙な事言ってたな。あっ……まさかあいつ等、うちのパーティの女性陣は全員、王子様の愛妾と思っないか!?


「あの人達、やっぱり燃やしておけばよかったです……」


「ホントだな! ったく、なんであたいが王子様の女になんなきゃいけねーんだよ!」


「まあまあ皆さん……、きっと気のせいですよ」


 ラキちゃんとリンメイは嫌悪感を露わにし、大家さんも心なしかムスッとした顏をしている。そんな彼女達をエルレインが宥めていた。

 実は連中のせいで後に、カサンドラの王子は様々な種族の女を侍らせているという不名誉な噂が流れてしまうのだが、俺達はまだ知る由も無かった。


「ははっ、ケイタは随分と連中に気に入られたようでござんすね」


「えぇ……勘弁してくださいよ」


「きっと彼等、ケイタ君は王子様に上手く取り入った凄い奴って思ってるはずよ。だから一目置かれたんじゃないかしら?」


「なんだかなぁ……」


「さて……。では皆サン、あっしらもこれにて失礼いたしまさあ」


「はい。この度はご助力ありがとうございました」


 それぞれが別れの挨拶を交わすと、 『滄海の浪』 の皆さんも足早に迷宮の奥へ進んでいってしまった。

 再構築後に 『ラバブーンの巣』 より先へ来たのは俺達が最初だからね。トレジャーハント目的の冒険者にとって、このチャンスを逃す手はない。

 そしてそれは、俺達にだってチャンスがあるという事でもある。


「おっさん、あたいらも早く行こうぜ! もたもたしてたら宝箱が逃げちまうよ!」


「ははっ、そうだな! ――んじゃ、俺達も行こうか」

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