083 オークション
「マジかよ……。やれやれ、おっさんのギフトは絶対だからなぁ」
「ああ、はっきりと分からないのがもどかしいところだがな……。とりあえず、油断だけはしないでほしい」
俺のギフトが女神様の恩寵というのはパーティ全員が知っている。皆真剣に受け止め、首肯で答えてくれた。
「また王子様の時のような厄介事が舞い込んでくる可能性もあるからな、気を付けるよ」
「……悪かったな厄介事で」
「うふふ、お陰で私共は救われたのだから良いじゃないですか」
いずれ何らかの厄介事が来るのが確定してしまったわけだが、いつ来るのかもわからないため、今から焦っても仕方がない。
とりあえず皆には心に留めておいてもらう事にした。
買い物も済んだので俺達は店を出る事にしたのだが、気が付くとラキちゃんが店の壁に張られている尋ね人の張り紙に目を止めていた。
可愛らしい少女の似顔絵が描かれており、種族はどうやら、店主と同じくゴブリンのようだ。
「尋ね人?」
「ああ、その子の名前はミリアリア。俺達の種族から出た聖女様なんだけどな、半年ほど前に何者かに攫われてしまって行方知れずなんだ。可哀想に……」
店主は途端に悲しげな表情をすると、尋ね人の張り紙に描かれた少女の事を教えてくれた。
「その子うちのカミさんの親戚の子でな、攫われたの聞いてから、カミさん塞ぎ込んじまったんだよ。――お客さん何でもいいからさ、もしもその子に関する何らかの手掛かりを耳にしたら……教えてくんねーかな?」
「分かった。俺達も気に留めておくよ」
「すまねえ、恩に着るよ」
店を後にした俺達は、再び夏祭り限定の露店が集まる通りへ戻り、掘り出し物でもないか散策する事にした。
「攫われた聖女か……。気になるな」
「……うん。今ラクスお姉ちゃんに聞いたら、攫われてからまだ見つかってないんだって」
ラキちゃんからの話では、聖女ミリアリアは半年ほど前、エルドラード共和国のダンジョンがある城塞都市ヘイガルデスへ慰問に向かう途中に、何者かによって攫われてしまったらしい。
護衛の騎士団は全滅で、辺りは目を背けたくなるほど凄惨な光景だったそうだ。
アルティナ神聖皇国も聖女捜索に協力しているそうだが、未だに行方が分からないらしい……。
夏祭り限定の露店では、この日の為に行商人が各地から集めてきた品が沢山売られている。
中には
エルレインは王子様に何かしらのお礼がしたいようで、武器屋へ行く前とは打って変わって真剣にアイテムの物色をしていた。
先程から頻りにリンメイに尋ねたりもしている。
「おっ、これなんかいーんじゃねーか?」
リンメイが手にしたのは貴族が身につけるような、青を基調とした美しいデザインのスカーフだった。
「まあ……、とても素敵なスカーフですね」
「おっ、ねーちゃんお目が高いねえ。こいつぁ 『願いのスカーフ』 と言って、これでもれっきとしたネームド品なんだぜ」
「へぇー、効果はなんなんだい?」
おや? リンメイ、ギフトで効果が見えているはずなのに店主に尋ねたぞ。……ああそうか、店主を試しているのか。
「なんと! 身につけた範囲を鉄の防具並に守ってくれるんだぜ! 髪留めのリボンにしても良し、首に巻いても良しだ!」
「ふむ……。――因みに幾らだい?」
「本来なら金貨三枚ってところだが、ねーちゃん達美人さん揃いだから負けてやるぜ! 金貨二枚でどうだい?」
「えー、それはちょっと高すぎやしないか? せめて金貨一枚になんない?」
「おいおい、それは欲張り過ぎってもんだ。これでもネームド品なんだぜ? ――金貨一枚に銀貨八枚だ」
そこからリンメイは頑張って交渉し、結局金貨一枚に銀貨三枚まで落とさせた。
「聖都ならもうちょい安くてもいいんだろうけど、ここまで運んできた手間賃考えたら結構いい線いったと思うぜ」
リンメイはピースサインをしながら 『願いのスカーフ』 をエルレインに渡してあげる。
「はい! お陰様で良い買い物をする事ができました。ありがとうございます」
エルレインはスカーフを受け取ると、早速生活魔法によって作り出した水球へスカーフを投入し、たちまちのうちに洗濯して乾燥までしてしまった。
どうやらこの場で王子様に贈るようだ。
「セリオス様、よろしければこちらのスカーフを使っては頂けませんか?」
「ああ、喜んで使わせてもらおう。――ありがとうエルレイン嬢。髪留めにしたいのだが、結んでくれるかな?」
「はいっ!」
一連の様子を一緒に見ていた王子様は勿論エルレインの申し出を断るわけもなく、にこやかに受け入れた。
王子様は長髪なので 『願いのスカーフ』 を髪留めに使えば首筋付近の守りにもなるため、これは良い選択だと思う。
露店を散策した俺達は最後に、明日開催されるオークション会場のある広場までやってきた。
ここには現在、明日出品される品のイラストや性能、落札予想価格などの書かれた展示パネルが、通し番号順に並べられている。
夏祭りの二日間をかけて下見の時間を作る事で、少しでもオークションに参加してくれる人を増やそうって事だろう。
もしも欲しい品を見つけて自分もオークションに参加したいと思ったら、会場に併設された受付でオークション参加の申請をすればいい。
申請して手数料と入札保証金を払うと、パドルと呼ばれる番号札を貰える。このパドルが参加者の証だ。
オークションの時には、このパドルをオークショニアに見えるように掲げる事で入札の意思を示す。
そしてオークショニアが価格を競り上げて行き、最後までパドルを掲げていた人の番号が読まれてハンマーが打たれると、そこでオークションは終了だ。
落札者は預けてある入札保証金に足りない分をプラスして支払い、取引終了となる。
因みに、何も落札しなかった場合は、パドルを返す時に入札保証金は返還される。
俺達も順番に展示パネルを眺めて行く。まるで美術館で絵画を眺めているような気分だ。
「やっぱりマジックバッグが多いなー」
「そりゃ皆欲しがるからなぁ」
マジックバッグの他にも、轟雷剣や海龍の槍などギフトに迫る属性攻撃を放てる武器や、炎帝の鎧や麒麟の具足といった防具、理力の指輪や竜眼の首飾りといった魔法関連のアイテムだったりと様々なネームド品が出品されている。
俺達はいいなー凄いなーと呆気に取られながら、順に眺めて行った。
「どうだった? 誰かオークションに参加してみるか?」
おや、意外な事に皆首を横に振っている。展示パネルを見て回っていた時はあれだけいいな欲しいな言っていたのに。
「そりゃ欲しいアイテムとか色々あったけどさー、どうせならやっぱ、ダンジョン潜って自分で手に入れたいな。……それに、今回はこの流星剣があるからもういいやって感じ」
リンメイは腰に差した流星剣をポンポンと叩いてニッと笑った。
「私もリンメイお姉ちゃんと一緒で、宝箱から見つければいいかなーって感じです」
「装備品はドワーフ用ばかりだからな。今回は遠慮しておこう」
「私もセリオス様より賜った
「そっか」
スッカラカンな俺は勿論参加は無理なので、今回は誰もオークションに参加はせず、観覧するだけとなった。
なので、明日は皆でのんびりとオークションの雰囲気を味わう事にしよう。
ポン、ポポンと、もうすぐオークションが始まる事を告げる
今日は夏祭り最終日。オークション会場は大賑わいだ。俺達も最初から観るために、早めに会場へやってきた。
普通に考えたら入札できる人以外はただ見てるだけで面白みのないイベントのようにも感じるのだが、そこはそれ、お祭りだけあってしっかりと考えてある。
なんとオークションを利用した、今日限りの賭博が開催されるからだ。大きなシノギの匂いがするな……! ってやつだ。
例えば競馬の馬連ように、最も高い落札価格の品と二番目の品を当てるだとか、落札予想価格から最も大きく外れて高値を付けた品と二番目の品を当てるだったり、果ては落札予想価格から最も低かった品を当てるといった不名誉なのまである。
これら以外にも様々な条件を当てる賭博があるため、夏祭り最後の三日目は大賑わいとなる。
そんなわけで、既に賭け札を購入するための窓口は物凄い人だかりとなっている。
どうりで昨日は、とても入札なんてできなさそうな身なりの連中が目の色変えて展示パネルを見ながらメモしていたわけだ……。
折角なので、俺達も簡単な条件の賭け札を購入してみる事にした。
お祭りだからね、これくらいは楽しまなきゃ。という事で……。
「リンメイ先生! 当たりそうな番号教えてくださいっ!」
「ええっ……、別にあたいの予想教えてもいいけど、外れても怒んなよ」
「それは勿論!」
「それに、こういう時こそおっさんのギフトは発動しねーのかよ?」
「こういう無粋な事には発動しないんだよね……」
「しょーがねーなー……」
それから俺達はリンメイお勧め商品の番号を教えてもらい、賭け札を購入して会場の立ち見席へ向かった。
ラキちゃんの身長ではちょっと見づらいので、俺が肩車してあげる。
「……よっと。――どう? 見える?」
「はい、ばっちりですよー!」
おっ、そろそろ始まるぞ。まずはこの都市のお偉いさんが挨拶するようで、舞台へ上がってきた。
お偉いさんは空気を読んでか短めの挨拶をしてすぐに退場すると、早速オークショニアがオークションの開始を告げる。
会場に集まった人々は、待ってましたと大喝采だ。
「通し番号一番、城塞都市ヘイガルデスのダンジョンから産出されたマジックバッグ。――白金貨一枚から……」
オークションは次々と流れるように進行されていく。
落札価格が落札予想価格よりも大きく上回ると歓声が上がり、競り勝った人を称える。
時にはヤジが飛んだりと大騒ぎ。良くも悪くもお祭りだなと感じさせてくれた。
当日は本物も見せてくれるので、リンメイはギフトの強化に勤しんでいるようだ。
時々ギフトで見えた品の詳細を教えてくれたりするので、その説明を聞いているだけでも楽しい。
俺達もいつかあんな品々をダンジョンで手に入れたいものだ。
オークションも終盤に差し掛かろうとした頃に 『聖なる息吹』 という宝玉の競りが始まると、予想外に競りが盛り上がりだした。多くの人がパドルを掲げ、入札している。
これは……先程大盛況だった、出し入れ口の大きなマジックバッグの時よりも入札する人が多いかもしれないぞ。
オークショニアがどんどん価格を競り上げていく。
リンメイにどんなアイテムなのか尋ねてみると、このアイテムは周囲の毒素や病の元を消し去り綺麗な空気にしてくれるアイテムらしく、危険な環境のエリアを探索する時に非常に便利なアイテムなんだそうだ。
「あーそうか、迂闊だったなぁ。今は流行り病が流行してるから、これ欲しい奴が多いのかぁ」
「なるほどなあ」
「あっ。お兄ちゃん、あれ――」
ラキちゃんが指差したのは最後までパドルを下げずに争っていた二組の内の片方だったのだが、なんとそいつは、先日俺達を襲ったポラーレファミリーとかいう海賊の、船長と呼ばれた女だった。
「あいつは! ――おっさんどうする?」
「うーん……、めんどくさいからほっとこうぜ」
「りょーかーい」
見れば、船長は今にも泣きそうな顏をしながらパドルを掲げている。
あっ、遂に船長は苦渋に満ちた顔でパドルを持つ手を降ろしてしまったぞ。
「あっ、船長さん負けちゃったね」
「だねぇ……」
「あーぁ、ざまあねーな」
船長に競り勝ち 『聖なる息吹』 を手に入れたのは、立派な法衣を着た身分の高そうな人物だった。きっとどこかの教会のお偉いさんだろう。
そんな風に考えていたら、周囲の観客の声が聞こえてきた。
「落札した奴、ありゃあガルドレンの司教様じゃねーか?」
「あっ、ホントだ。――今あそこは流行り病で酷いらしいからな、どうしても欲しかったんだろうよ」
「あー、あそこは今大変らしいからな」
なるほど、落札したのはガルドレンの司教様だったのか。
アルティナ神聖皇国のそれぞれの領地は司教区と呼ばれ、貴族ではなく高位の聖職者である司教が管理を任されている。
てことはあの人は国境都市ガルドレンを中心に周辺を任されている領主様って事か。しかも国境都市を任されているので、辺境伯並の権限を持っているはず。
うん、金銭面で海賊が敵う相手じゃないな……。
いつの間にかあの海賊の船長はいなくなっていた。
結局 『聖なる息吹』 の高額落札による番狂わせのため、俺達以外にも多くの人が賭けに負けてしまったようだ。
周りからは落札した司教様を称える拍手以外に怒号も凄まじい。いやはや、怖い怖い……。
オークションも見た事だし、明日からはまた聖都に向けて長い馬車の旅となる。
そのため、俺達は英気を養うために夕食は美味しい料理を食べてから郵便ギルドの宿舎へ戻る事にした。
それにここはドワーフの治める地域。お酒の種類も豊富と聞いている。
今日は色々と飲んじゃおうかな……。
「賭け札は外れちゃったけど、なんだかんだで楽しかったな」
「うんうん」
「ですね」
「次は装備のサイズが合った種族の地域がいいぞ」
「そうだなー。今度は大家さん達の故郷でも行ってみるか?」
明日には聖都に向けて帰るのに、俺達はもう次は何処へ行こうかなどと話していた。
あーだこーだと、皆でとりとめもない話をするのはとても楽しい。
王子様は最初の頃は、少しでも早くアルシオーネに認めてもらうためにと、どことなく常に焦っている感じがしていた。
しかし今回の長旅のおかげか落ち着きを取り戻したようで、なんだか垢抜けた感じまでする。
常に傍で控えているエルレインは特にその辺りを強く感じていたようで、俺にこっそりとお礼を言ってきた。
「あー美味かった」
「結構ボリュームがありましたね」
「お腹一杯ですっ」
メノリさんから美味いと教えてもらった料理店はかなりボリュームがあって味も良く、皆に好評だった。
お酒の種類も豊富で、その辺に詳しい王子様に頼んでもらっては飲み比べたりもした。いやー、美味かった!
明日は冒険者ギルドで聖都方面への配達依頼が無いか確認してから、一先ずガルドレンまで駅馬車で戻る予定となっている。
もう一度 『クスリの風谷堂』 に寄って、大家さんに頼まれた薬草が入荷していないかを確認するためだ。
それからガルドレンの郵便ギルドで直に護衛依頼を受けて、聖都へ向けて出発の予定。
バージルさんが話を通しておいてくれているはずなので、問題無く依頼を受ける事ができるはず。
一つ気になるのは、やはり俺のギフトが示した何らかの厄介事だ。
流石に街中ではないだろうから、きっと馬車での移動中だろうとは思っているのだが……。
郵便ギルドの宿舎まで戻ってくると、なんか見慣れた格好の連中がいる事に気が付く。
それは、教皇庁に務める神官達が来ているローブを纏った一団だった。中には護衛神官のローブを着ている者も数名いる。
――もしかして俺達を待っていた?
彼らはやっぱり俺達に用事があるようで、こちらの存在に気が付くと足早にやってきた。
仮面を被った護衛神官の一人が代表として一歩前へ出ると、全員が跪いて礼をする。
「聖女ラキシス様御一行とお見受けします。――私共は聖都より流行り病の調査に来ている一団です。……突然のお願いで恐れ入りますが、どうか私共にお力を貸しては頂けないでしょうか?」
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