081 コロロン諸島
「ドルンガルド郵便ギルドへようこそお越しくださいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付のお姉さんは突然現れた仮面の護衛神官である俺達に少々驚いた様子だったが、普通に応対してくれる。
「こんにちは。こちらで勤務されているコロロン諸島担当配達員の方に取り次ぎをお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「――コロロン諸島担当配達員ですね? ……失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「すみません、名を明かす事はできないのです。――天使ラクスの命により参ったと伝えて頂けないでしょうか?」
そしてラキちゃんは、ラクス様より持たされた聖女の証である聖印を受付のお姉さんに見せた。
「こっ、これは……! 大変失礼致しました。すぐに担当の者をお呼びします。……ですがここでお待ち頂く訳にはいきませんので、先に応接室へご案内致します。――どうぞこちらへ」
受付のお姉さんは聖印を見ると事情を察してくれたようで、つつがなく俺達の対応をしてくれた。
良かった。どうやらこちらの国の郵便ギルドも、聖女に関する規程はしっかりと指導を受けているようだ。
とりあえず俺達は受付のお姉さんに案内されて応接室へ向かっていたのだが……。
「あれー? ケイタさんたちそんなカッコして何やってん――むぐふがほが……!?」
「えっ!?」
突然背後から素っ頓狂な聞き覚えのある声が聞こえ、驚いて振り向いてしまう。
「――申し訳ありません聖女様、大変失礼を致しました」
「むぐー!」
「い、いえー……」
やっぱり先日まで一緒だったメノリさんだった。バージルさんが慌ててメノリさんの口を塞いでいる……。
二人もドルンガルドまで来てたのか。
ラキちゃんが聖女であることは今しがた聖印を見せた受付しか分からないはずだ。
やはりバージルさんはラキちゃんが聖女という事を事前に知っていたのかもしれない。
しかしメノリさん、何の疑いも無く素で俺達に話しかけてきたぞ。
何故バレたんだ? 臭いか? でもこの神官服、獣人でもバレないように特殊な香で焚き染めてるはずなんだよな……。
とりあえず俺達はメノリさんたちの方へ向かって当たり障りの無い感じに手を振り、その場を後にした。
応接室で待っていると、とても慌てた様子で一人の鳥人の男性が入ってきた。
「しっ、失礼します! ――大変お待たせしました。私がコロロン諸島担当配達員のポロムであります!」
「はじめまして。突然の訪問申し訳ありません。私は天使ラクスの命により遣わされた聖女です。――この度、コロロン諸島での 『聖女の御勤め』 を仰せつかったのですが、案内をお願いできないでしょうか?」
「勿論ですとも! 島民一同、心よりお待ち申し上げておりました。――すぐに皆様をお連れするために、島の者を呼んでまいります」
「それに関しては問題ありません。連れの者は私が運びますので」
ラキちゃんはそう言うと六枚の光の翼を展開し、少し宙に浮いて見せた。
「なっ、なんと……!」
それから少し話し合い、コロロン諸島の方でも連絡などの時間が必要であろうからと、今日は郵便ギルドの宿舎に滞在させてもらう事となった。
ポロムさんは俺達との面会後、大慌てでコロロン諸島へ聖女来訪の連絡に向かった。明日の朝、島の司祭を連れて迎えに来るそうだ。
「こんばんはっ! また皆さんとお会いできるとは思いませんでしたよー」
俺達は普通の護衛の冒険者を装って食堂で夕食を食べていると、メノリさんとバージルさんがやってきた。
再開を祝して乾杯をする。
「すいません皆さん。メノリには一応話してたはずなんですけどね、まさかいきなり話しかけるとは思わず……まったく」
「えへへ、すみません~」
これは全然悪びれてないな……。
そういえばと、俺は気になったので声を落としてメノリさんに尋ねてみた。
「メノリさんは、よく俺達って分かりましたね。何でです?」
「ふっふー、ケイタさん達だから特別に教えちゃいましょう! 実は私の 【看破の心眼】 というギフトのおかげなんですよ! ――凄いでしょー?」
「なるほど、ギフトの力でしたか。――たしかに凄いですね」
「こいつ、すぐにいらん事口走るから困ってしまうんですよ……」
「でへへー、隠してあるおやつを見つけるのが得意ですっ!」
メノリさんはギフトのろくでもない使い方を、てへぺろしながら教えてくれた……。
なるほど、 【看破の心眼】 というギフトのおかげだったのか。
罠やカラクリ、弱点や隠蔽や会話の違和感など、あらゆる事を看破できるそうで、かなり便利なギフトと教えてくれた。
しかし……メノリさんの性格だと、何かこれまでも色々とやらかしてそうだな……。
二人はこれからエルドラード共和国の首都ニルヴァーナまで郵便を届けてから、再び聖都へ戻るそうだ。
俺達はコロロン諸島へ行った後、ドルンガルドの夏祭りを見てから帰りますと伝えた。
そしたらバージルさんが、帰りに聖都まで郵便馬車を利用したいのなら、護衛依頼を受けれるように話を通しておきますよと言ってくれた。
これは非常にありがたかったので、お願いしておいた。
次の日。
既に朝出発の馬車が殆ど出て行った後の郵便ギルドの敷地では、ポロムさん以外にも数名の鳥人の方々が待っていた。
恐らく司祭や町長といった島の重鎮と、その護衛の人達だろう。
「「「おはようございます!」」」
「おはようございます。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」
「いえいえとんでもありません。――私がコロロン諸島の司祭、ミロニスと申します。本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしますミロニス司祭。――では少々お待ちくださいね」
ラキちゃんはそう言うと、亜空間収納からかなり大きな物を取り出した。集まった人達は 「おおっ!」 と、感嘆の声をあげる。
それはラクス様から借りてきた、観覧車の乗りカゴを骨組みだけにしたような物だった。この座席の付いた簡素な作りの乗りカゴで、ラキちゃんが俺達を運んでくれる。
早速俺達が乗りカゴに乗り込むと、ラキちゃんは六枚の光の翼を展開して宙に浮き、上部にある乗りカゴの持ち手の部分を掴む。
「ではいきますよー。――よいしょっと」
俺達が乗っている乗りカゴを軽々と持ち上げたラキちゃんは、空へ舞い上がった。
「おおおっ……、本当に大天使ラクス様以外の天使様がいらっしゃるとは……」
どうやらミロニス司祭は、過去にラクス様が来た時にも立ち会ったようだ。
その時もこの乗りカゴを使ったらしい。
「ではご案内いたします!」
ミロニス司祭の掛け声とともに、鳥人の皆さんも空へ舞った。
コロロン諸島は大きな四つの浮島からなる諸島だ。
四つ合わせても魔王様の浮島の大きさには全く及ばないが、この諸島は平地が多い。
そのため、国の重要な穀倉地帯となっていた。浮島は大昔に全ての魔獣を駆除しているので、地上よりも遥かに安全に作物を育てる事ができるからだ。
それもあって、コロロン諸島には農業を営む人々が多い。
八割は鳥人だが、残りの二割は様々な種族の人達が住んでいる。飛行能力のギフトを持った人や、風魔法の得意な人が家族をつれて移住してきているようだ。
浮島は魔獣に怯えずに住む事ができるので、人によっては楽園のような環境だからだ。
俺達はまずミロニス司祭の教会に赴き、集まっていた島民の方々から盛大な歓迎を受けた。
それから司祭の案内により、病や怪我に苦しむ信徒の方々を順番に見舞って行く。
ラクス様の心配は当たっており、コロロン諸島でも流行り病が蔓延していた。丁度初夏から今にかけてが麦の収穫時期なので、さぞかし困っていた事だろう。
本来ならば神聖魔法が必要なほどの重病人や大怪我をした人はそうそういないため 『聖女の御勤め』 は一日で終る予定だったのだが、流行り病の人々も治して回ったために二日掛かってしまった。
そのため、結局二日ほどコロロン諸島へ滞在させてもらった。
島民の人達はこれで麦の収穫が間に合うと大変感謝し、夜には二日とも盛大な宴を催してくれた。
宴の席で、流行り病はどうやらドワーフが崇める霊峰キレニクス周辺から吹き上がる風が怪しいと、この島の施療院に務める薬師が教えてくれた。
確か国境都市の下を流れるガルディス川の源流が、霊峰キレニクスの氷河だったはず……。
ラキちゃんはこの薬師に、薬剤ギルドが発行した最新の流行り病の薬のレシピを渡してあげ、レシピに含まれるこの島では入手が難しい薬草も一緒に渡した。
それらは全てラクス様から事前に持たされた物だった。ここはアルティナ神聖皇国にとっても重要な穀倉地帯のため、収穫が遅れている事を気にしていたようだ。
薬師は
『聖女の御勤め』 が済んだ翌朝、俺達は島民に見送られ、コロロン諸島を後にした。
帰りはポロムさんのみの案内だ。
一旦人気の無い所に降りて着替えると、何食わぬ顔でドルンガルドまで戻ってきた。
再び郵便ギルドへ赴くと、ポロムさんは俺達が夏祭りの間も宿泊させてもらえるように手続きをしてくれた。本当に助かる。
「存分に夏祭りを楽しんできてください」
「ありがとうございます」
夏祭りは三日間あり、最終日にメインイベントのオークションが都市の大広場で行われる。
実は夏祭りはもう始まっていた。 残念な事に 『聖女の御勤め』 が一日で終わらなかったため、夏祭り初日を逃してしまっていた。
俺達は今日一日、夏祭り限定の様々な露店を見て回る事にした。
何かしら掘り出し物があると良いのだが……。
「初日に来れなかったのが痛いなー。良い品はもう売れちゃっただろうなぁ」
「まぁしょうがないさ。とりあえず見て回ろうぜ」
露店を見て回って気が付いたのだが……、ここはドワーフの治める地域最大の都市。ダンジョン産の武器や防具は大半が彼らの体型に合わされたサイズのものばかりだった。
ということはだ、俺達の体にあった装備があまり見当たらない。
「よくよく考えてみたらそうだよな……。あたいらが使えそうなダンジョン産装備があるわけないじゃん」
「だなぁ。仕方がないから、役立ちそうなアイテム狙いでいくか」
「なんてことだ、私は剣が欲しかったんだがな……」
王子様は国を出る時に、これまで身につけていた国宝級の装備は全て国に返してしまったので、今は数打物の装備を纏っているだけだった。
「うーん、ドワーフの職人が打った剣なら只人に合わせたサイズのもあるんじゃねーか? ちょっと見に行ってみるか王子様?」
「そうだな、行ってみよう。――目利きを頼む」
「おぅ!」
それから俺達は夏祭り限定の露店を見るのを後回しにして、普通に店を構えているドワーフの武器屋へ行ってみる事にした。
流石ドワーフ最大の都市。ドワーフの作る武器を買い求める客目当てのため、様々な種族に合わせた装備を揃えている店が何軒もある。
「こう店が多いと、どこに入るのかも悩んじゃうな」
「だなー……。ただ、とりあえず並んでる安物見てるけどさぁ……、うーん、どの店もパッとしねーなー」
店先に並ぶ品を眺めながら歩くも、リンメイの御眼鏡に適うような、これだという品を置いてそうな店を見つける事ができなかった。
よく異世界モノのお話だと、良い品置いてる店はどこか奥まった場所だったり、偏屈なドワーフの営むお店だったりってのが定番なんだがなー。
そんな事を考えながらリンメイが目利きをしながら歩く後を付いて歩いていたら、……なんとギフトが発動した。
「おっ、ギフトが発動した」
途端に全員に緊張が走る。
「ああいや、今回のは危機察知じゃない。――これは多分……ちょっと皆ついて来てくれ」
俺はギフトに導かれるように小道へ入って行き、一つ二つと角を曲がって更に奥へ行くと……あった。
そこには隠れた居酒屋のように、ひっそりと武器と防具の商いをする小さなお店があった。
「ここか、おっさん? ――おっ……やっぱすげーなおっさんのギフト。当たりかもしんない」
「ほう、何か他の店と違うのか?」
当たりと聞いて、王子様も関心を示したようだ。
「ああ! ズバリ、安物の質が他の店よりも全然いい!」
「なるほどね。ギフトが導いてくれたんだ、これは期待できるかもしんないな。――よし、入ってみようぜ」
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