074 いきなりラストバトル
「貴様……、本当に魔王だというのかっ!?」
「如何にも」
「セリオス様お下がりください!」
「ひぃー! どっ、どどど、どうしてこんな事にぃ!」
王子様はどうしても信じられなくて言葉を漏らしてしまうが、魔王様の放つ強大な力は嫌でも肌で感じてしまっているようで、冷や汗を浮かべている。
そんな王子様の前に、パーティの壁役であるエルレインが盾を構えて出る。
その二人の後ろでは、涙目のサーリャがへっぴり腰で震えながらも、杖を構えていた。
三人と対峙した魔王様は、ふとサーリャを見ると、何かに気が付いたようだった。
「ほう……。
「「えっ!?」」
魔王様の予想外の言葉に、王子様とエルレインは驚いてしまう。
「どっ、どうして……」
「とりあえず
突然エルレインとサーリャは見えない力に束縛されてしまい、サイコキネシスのような力で、そのまま隅へやられてしまう。
「何をする貴様ぁ!」
「喚くな。――貴様は好いた女を手に入れるために他の女の手を借りるのか? ほれ、
魔王様は煽るように手招きをする。
「セリオス様いけません!」
「王子っ!」
「二人とも待っていろ! ――魔王! 覚悟しろっ!」
「うむ、こいっ!」
ついに王子様と魔王様の戦いの火蓋が切られた。
王子様は凄まじい剣技を繰り出すが、
先日王子様の戦いぶりを見て、その強さに舌を巻いたばかりだったのだが、魔王様はそれらを軽くあしらってしまっていた。
カサンドラ王国の勇者と魔王様が対決している横では魔族の皆さんがバーベキューなどの準備をしている。
なんというか……傍から見ると凄くシュールな光景だよなあ……。
大家さんとミリアさんはこの戦いにあまり興味が無いようで、既にサラス様と一緒にアルコールの入ったジョッキ片手に、バーベキューを囲んでいた。
リンメイはというと……。
「すげぇ、こんなチャンス二度と無いぜ……。絶対モノにしてやる……!」
リンメイは双方の絶技とも言える剣技を一つも逃すまいと、ギフトを発動させて二人の戦いを懸命に目で追っていた。
……リンメイが会得したら、後で俺にも教えてもらおう。
「貴様はそのギフトを授かっておきながら、この程度しか熟達させる事ができなかったのかぁ!」
「ぐあっ!」
「セリオス様っ!」 「王子っ!」
王子様の攻撃は俺達には凄まじい
それからも王子様は果敢に攻めるが、一度も魔王様に有効打を与える事ができない。
「ギフトに頼り過ぎだ。そのくせギフトを活用できていない。もっと頭を使え! 己の技を磨け!――ええい! それで余を倒そうなどとは片腹痛いわっ!」
再び王子様は吹っ飛ばされてしまう。
それから魔王様は、王子様が使いこなせていないギフトの特性を一つ一つ語りながら 「そんな事もできないのか!」 と煽り、何度も何度も打ちのめす。
魔王様は、王子様がそれぞれのギフトの特性を使わないと崩せない魔法などを展開して、その状況毎にどのような特性を使わなければならないかを王子様に学習させていた。
リンメイの 【鑑定技能】 もそうだが、強化するには自分で研鑽していかないといけないギフトが多い。
【剣聖】 というギフトは名前の通り剣技が凄いというだけではなく実は結構、多彩な能力があるようだ。
例えば、
そして魔法そのものを切る事ができれば、先日カルラの結界によって閉じ込められた時も、結界を切り裂いて自分で抜け出す事ができたはずだった。
その他にも様々な属性剣を扱えたり、 見切りの心眼によってあらゆる魔法や太刀筋を見切り、例えどんなに大きく硬い魔物であっても斬り飛ばす事ができるようになるらしい。
これまで剣技に於いて敵無しだった王子様は、まさに今、味わった事のない屈辱を味わい、絶望の淵に突き落とされているだろう。
それでも王子様は果敢に立ち向かい続けていた。例え魔王様の言葉からでも、その状況を少しでも打破できる何かがあれば、
負けたら自分だけでなくエルレインとサーリャの命運も尽きてしまうのを理解していたから、必死だった。
現在魔王様は、鉄串から大剣並みに肥大させた
「くそおおぉ!」
――キィン!
長い戦いの末、王子様は見事、
「ふむ……まあこんなものか」
魔王様はとりあえず納得したように頷くと、発勁を放つように腕を突き出し、見えない力で王子様を吹き飛ばしてしまった。
「武器を奪っても油断するな」
「がはっ!」
派手に吹き飛ばされてしまった王子様は、終にそのまま気を失ってしまったようだ。
同時にエルレインとサーリャを拘束する呪縛も解かれ、二人は慌てて王子様に駆け寄る。
「セリオス様しっかりしてください!」 「王子、今すぐ治します!」
「茶番はこれにて終わりだ。さて、――」
魔王様は身をこわばらせるエルレインとサーリャを一瞥すると、くるりと背を向けて両手を広げながら、眩いばかりの笑顔をラキちゃんに見せた。
「待たせたなラキシス! さぁ、向こうで存分に楽しもうではないかっ!」
「はーい!」
自分達など眼中に無くラキちゃんと仲良く去っていく魔王様を、エルレインとサーリャは唖然としながら眺めていた。
さて、ここからは俺の番だ。嫌だなぁ……。
王子様を介抱していた二人は俺に気が付き、鋭い目線を向ける。
「どうして……、どうして
俺はどこから説明すればいいのかと頭を掻き、言葉を選ぶ。
「あー、結論だけ言うとだな……、王子様にはもう少し強くなって貰わないといけなかったからだ。――君らが生き延びるためにね」
「私達が生き延びるため?」
「どういう事です? 話が全く見えません」
「だよねぇ。うーん……、もしも君らの国が滅亡の危機に瀕していると言ったら……信じるかい?」
「そんなデタラメ、信じられるわけがないでしょう!」
「とても信じられませんが……。まさか、
「まあね」
流石エルレイン、聡いな。
「うっ……私は……生きているのか?」
王子様もう目覚めたのか。結構早かったな。
俺としては都合がいいから助かる。
「セリオス様!」 「王子!」
「二人とも無事のようだな……良かった。……私は……負けたのか」
「おう、コテンパンにな」
「貴様ぁ! ……よくも我らを騙したな!」
「悪かったって。それについては謝るよ。だがな、お前さんにはどうしても強くなってもらわないといけなかったんだ。だから魔王様に会わせた。――おかげで、以前よりもギフトを使いこなせるようになっただろう?」
「……それがどうした! 例えギフトを使いこなせても、それでも魔王には敵わなかったわ! クソォ!」
王子様は本当に悔しそうに、拳を砂に打ち付けてしまった。
エルレインとサーリャは掛ける言葉が見つからず、その姿を痛ましげに見つめるしかなかった。
「――だがな、お前さんが救国の勇者となるには、その力が必要なんだよ」
「は? 救国の……勇者……だと?」
「なあ……、王子様はさ、
「何故お前にそのような事を答えねば! ………………えっ……いや、そんなバカな……。何故だ……、
俺に言うつもりはなくとも、頭の中で無意識に誰かの顏を思い出そうとしたんだろう。
だが、思い出せない事に
「ほう、もう目が覚めたか。――ケイタ、これを使え」
ラキちゃんに美味しそうなジェラードを振る舞った魔王様は再びラキちゃんと手を繋いでこちらへやってくると、
やってきた魔王様に王子様達は警戒するも、先ほどの敗北もあってか暴挙に出る事は無く、とりあえずは静観してくれている。
「魔王様、これは?」
「周辺一帯の精神汚染や、まやかしを打ち消すアイテムだ。――
「あっ、そうでした! すみません」
「よい。――それを掲げて 『光よ』 と唱えるんだ」
それから魔王様は 「例えるなら、これはケイタの好きなゲームに出てきた、竜の女王が授ける 『ひかりのたま』 だな」 と、俺にだけ聞こえるように説明してくれた。
竜の女王が授ける光の玉って……国民的人気ゲームのアレか! 魔王様なんで知ってんの!?
まあいいや、とりあえずやってみるか……。
「――光よ!」
俺が光の玉を掲げ言葉を唱えると、その言葉に合わせて周囲を
うっ、これ結構な
突然、バーベキューを楽しんでいる向こうの方から驚きの声が上がる。
なんと大家さんの精霊魔法による幻覚までもが解けてしまい、大家さんは元の若々しく美しい容姿をさらけ出してしまっていた。
あの距離まで影響を与えるのか……。いや、凄いなこれ。
「……さて、今なら思い出せるであろう、貴様に魔王討伐を
「思い出し……た……。え? いやそんな……。なぜあの方が私に魔王討伐を勧めたのだ?」
「フン……。第一王子の妃となった、隣国ハルジャイールの姫であろう?」
「……ッ! ……どうしてそれを!?」
なんだそれ。第一王子の妃が第二王子に、王になりたければ魔王を討伐しろなんて馬鹿げた事を勧めたのか?
なんと言うか……ツッコミどころが多すぎだろう。
だが精神汚染により、そもそも疑問に抱くどころか、誰に
聞けば、この精神汚染は理性を鈍らせると共に欲望を増幅させ、人の行動を感情で決断するように仕向けてしまう、恐ろしいものだった。
要は、幼い子供のような判断を取ってしまいがちになるらしい。子供特有の残酷さや、夢見がちな考えなど。
そのため、術者は相手に母と子のような信頼を植え付けてしまえば、ある程度ならば記憶を
なんと言うか……とんでもないな。
「
「そんなバカな……。いや、でも……」
「そいつを倒して国を救えるのは王子様、お前さんしかいなかったんだが、ギフトを十全に扱えない今のままじゃ、万に一つも勝ち目が無かったんだよ。――だから今日ここへおびき寄せて、魔王様にお前を覚醒させてもらった」
「私しか国を救えない? ……しかも勝ち目が無かっただと!? なぜお前にそんな事が分かる!?」
「そりゃー、魔王様が女神様の神託を教えてくれたからな。――うちの聖女様に。ねっ」
「ねっ。――お兄ちゃん、はい、あーん」
その聖女様であるラキちゃんは美味しそうに食べていたジェラードをスプーンに掬うと、俺に一口味見させてくれた。
うん、美味しい。
「「「なっ……!」」」
信じられないといった顏で、王子様達は魔王様を見る。
その視線にやれやれといった感じで、魔王様は本音を吐露される。
「余は、このままカサンドラが滅びるのは、人の世の些末な出来事の一つとして静観するつもりであったのだがな。――女神がチャンスを与えてしまったのだ。…………ケイタを使ってな」
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