059 交流
やはりこのエリアは狩場として人気のようで、俺達が休憩している間に五組ほどの冒険者パーティが
なんとなく臨時パーティ募集などで見た事のあるような顔ぶれも居たりして、手を上げて軽く挨拶を交わす。
少々出遅れてしまった俺達は、やはりというか宝箱に遭遇しない。
再び見つけた
階段エリアを見渡し、やはりキャンプするなら
小休止を取りながら、皆で今日の残り時間をどうするのか話し合う。
結果、まだ時間も十分にあるためこの階段エリアをキャンプ候補地として、もう少し探索してマップを広げておく事となった。
二十三層に降りた俺達は、ラキちゃんに作成してもらったマップを頼りに行き止まりを探索していく。
時々鉢合わせする冒険者パーティとも挨拶を交わし先を進んで行くと、
だがその先のエリアには階段も
結局二十四層へ進むルートを見つける事はできず、今日は二十三層へ降りてきた階段エリアでキャンプをするために戻って来た。
ここは狩場として人気なため日帰りで戻る時間が勿体ないのか、階段エリアの二十三層側にも二十二層側にもキャンプをしている冒険者のパーティが結構いる。
ハンスは情報収集のため、キャンプをしている冒険者パーティの所へ挨拶回りに行くと言う。
折角だから俺も顔を売るために付いて行く事にした。
中層を三人で探索していた時は不用意に揉め事を起こしたくないため、あまり他の冒険者達と関わらないように行動していた。
そのため俺はまだこういった活動は不慣れだったので、非常に助かる。この機会を大事にしよう。
ハンスは結構顔が広いようで、顔見知りに俺の事を紹介してくれる。
また、初めて見るパーティだろうとも物怖じせず挨拶をしていき、マップの情報などを交換していた。
只人を警戒しがちな亜人で構成されたパーティにも気兼ねなく話しかけていくのには驚いてしまった。
「ハンスは普通に亜人のパーティにも挨拶しに行くんだな」
「まぁ、大抵は警戒されるけど、顔は覚えてもらえるからな。それに連中だけ無視するのはそれこそダメじゃね?」
「そうだな」
敵意の無い只人って覚えてもらえるだけでも、無用なトラブルは避けられるからとハンスは教えてくれた。
「やっぱり色んな冒険者と交流しとくって大事だな。無駄な争いしなくて済むし、情報が共有できる」
「まぁーな。……それでもゲイルさん達みたいな場合もあるんだろうけどな」
「……あれはまぁ、しゃーないさ。誰だって目の前の大金には目が眩んでしまうって割り切ろうぜ」
「……そうだな、しょーがないって思うようにする」
交換した情報は非常に有益で、俺達のまだ見つけていなかった転移門の座標を知る事ができた。
俺達が探索したマップ情報も、相手方にはそれなりに有益だったようだ。
キャンプに戻ると、残っていたメンバーで既にテントの設営や夕食の準備はされていた。
今回もラキちゃんが汁物を作ってくれたようでありがたい。
どうやらリンメイが持参した燻製肉がたっぷりと入っているようで、とてもボリュームがあって美味しそうだ。
魔動コンロの火を囲み夕食を取りながら、俺とハンスが得てきた情報を共有し、明日に備える。
夜通しの見張りは今回も俺達のパーティを前半にしてくれた。
俺達にとってはありがたいし、ハンス達にとっても今日はさっさと寝た方が気持ちの整理ができるだろう。
今はハンスに借りたカードゲームで遊びながら、見張りをしている最中だ。
「ラキちゃん今日はりがとね。ラキちゃんに頼るしかゲイル達を無傷で追い払う方法が思い浮かばなかったから助かったよ」
「どういたしましてっ」
「しっかし、今日のを見ちゃうと本当にマジックバッグの事は気を付けねーといけねーなー」
「だよなぁ……。ちょっと認識が甘かったよ」
普段は良い奴でも魔が差してしまうってのを目の当たりにしてしまったからなあ。
メカリス湖に行った時も大家さんが気を付けていた事を思い出す。
「ハンスさんたちを簡単に裏切っちゃったあの人達がちょっと怖かったです」
「ホントだね。親しい奴らでも平気で奪ってしまおうって簡単に割り切れてしまう事に俺もゾッとしたよ」
「仲の良い奴らでも油断なんねーんだもんなー。あーやだやだ」
三人でそんな話をしていたら気落ちしてしまい、口数も減ってしまった。
俺だけでなく二人も同じように沈んだ表情になって暫し沈黙が続いてしまう。
聞こえてくるのはカードゲームの札を場に出す音だけだ……。
「おっ、俺は決して二人の事を裏切らないぞ!」
「もっ、勿論私もですっ!」
俺は沈んだ空気を払拭しようと、無理に声を張り上げ宣言をする。
そうしたらラキちゃんも続けて宣言してくれた。
それを聞いたリンメイは思わず ぷっ と吹き出してしまう。
「そんな事分かってるよ。……あ、あたいだって二人の事は絶対に裏切らねーよ。……全くもう恥ずかしいなぁ」
思わず照れながら三人で笑ってしまう。
ちょっと強引だったが、場の空気を少しは変える事ができたようだ。
それからも俺達は雑談をしながらカードゲームに興じ、交代時間までの時間を楽しんだ。
一夜明け、今日は昨日仕入れた情報にあった座標の
俺達三人は見張りから交代後、朝まで休む事ができたために体調もばっちりだ。
ハンス達も昨日はさっさと寝たおかげか気持ちの整理がついたようで、問題なさそうだった。良かった。
先日買った弁当と魔動コンロで淹れたお茶で朝食を簡単に済ませた俺達は、早速次の階層に向けて出発する。
願わくば進んだ先が二十四層への階段へ繋がっていて欲しい。
情報にあった
周囲を警戒していたら後から来た冒険者パーティが俺達を見て残念そうに戻って行った。
さて宝箱の中身はなんだろう?
「兜だな。効果は飛び道具の攻撃をそこそこ弾きやすいのと、バイザーに若干の暗視が付いてる。結構良いんじゃね? これ」
おお! そこそこではあるがヘッドショット対策と暗視ゴーグルのある兜って凄いんじゃない?
「欲しい!」
真っ先に名乗りを上げたのはトーイだったので、この兜の買取の権利はトーイのものとなった。
このパーティで兜を装備しているのはトーイとハンスだったが、先日ハンスは両手剣を手に入れたのもあってか、トーイに兜の権利は譲っていた。
探索を再開し暫く進むと、今度は俺達が他のパーティが宝箱を開けている場面に遭遇してしまい、そそくさと引き返した。
やはりこのエリアは人気の狩場なんだな。その分競争も激しい。
二十三層を一時間以上は進んだ頃だっただろうか。
再び見つけた転移門を
階段エリアに近い丁字路まで来た時に、突然何の変哲もない行き止まりを注視するようにと俺のギフトが警鐘を発してきた。
――なんだろう? 何も無さそうな行き止まりなんだけどな……。ギフトの警鐘の理由がさっぱり分からない……。
通り過ぎようとする皆とは別に動こうとしない俺に、皆は懸念の声を上げる。
「おっさんどうしたんだ? さっさといこうぜ」
「……ああいや、ゴメン。――その、少しだけ待ってくれないか? 俺のギフトが発動したんだ」
途端に全員が緊張した面持ちになる。
暫しの時間を貰ったので俺は行き止まりに向かい辺りを調べたが、一向にギフトが何を指しているのか分からない。参った……。
「どうしよう、分からない……」
「お兄ちゃん、何が分からないの?」
「ああうん、ごめんね。どうも俺のギフトがこの場所を離れちゃいけないって警告しているんだけど、なぜなのかさっぱり分からないんだ。――皆、この行き止まりで何か気が付いた事無いか?」
俺にそう言われても皆首を傾げるばかりだ。
これまで通って来た通路同様、墓石のような石板が乱雑に地面に置かれているだけで、何の違和感も感じられない。
リンメイも鼻をスンスンと鳴らし臭いを確認してくれるが、この行き止まりに人の来た形跡は無いらしい。
「あれ?」
そんな中で、ラキちゃんは突然何かに気が付いたように行き止まりの隅にある墓石のような石板の所へ歩いて行く。
そして
「「「あっ!」」」
俺達は慌ててその場に行くと、先程ラキちゃんが石板を退かした場所に小さな
俺は迷う事無くその
「ラキちゃん! 大丈夫かぃ……ぐへぇぇぇ!」
「二人とも……にゃー!」
「うわっ!」 「あっ!」 「……ちょっ!」
俺の後を追うようにリンメイとハンス達も
「ちょっ、あんたら重い!」
「苦しい! 早くどいてくれ~!」
「お兄ちゃん大丈夫!?」
なんとかラキちゃんの手を借りて将棋倒しから抜け出し、
ここも以前見つけたようなトラップ部屋かと思ったが、目の前には閉じられた扉があるだけの狭い部屋だった。
「この前みたいなトラップ部屋を期待したんだけどなー。目の前に扉があるだけか」
「いや、もしかしてここもトラップ部屋なんじゃないのか?」
「……ああ! もう誰かが使用してるって事か!」
「ん? それだったら、なんで
「あっ、そうか……。先客いたら石板
「みんな、しっ!」
突然ラキちゃんが口元に人差し指を添えてシーのポーズをする。
なんだ?
『…………おーい! ……そこに誰か……いるのかー? ……助けてくれぇ……』
「「「えっ!?」」」
なんと扉の向こう側から声が聞こえてきた。
俺達は思わず顔を見合わせてしまう。
暫くすると複数人の声が聞こえ始め、終いには扉を叩きだす音まで聞こえ始めた。
とりあえず、なぜ閉じ込められてしまったのか中の奴等に聞くと、宝箱を開けたら空っぽで、いきなり扉が閉まったと言う。
えっ……、それってやっぱり迷宮宿のようなトラップ部屋じゃないか。てことはまさか……。
「おーい、お前ら迷宮宿って知ってるかー?」
『…………なんだその迷宮宿って?』
あああーやっぱり!
中の奴等、迷宮宿のカラクリを知らないまま入ってしまい出られなくなったんだ!
俺含めて全員が あちゃー って顏してる……。
「とりあえずその空っぽの宝箱に、装備でもアイテムでも魔道具でも何でもいいから入れて蓋閉めてみろっ!」
『!!!……。わ! 分かった!』
それから少しして、目の前の両引き戸の分厚い扉が真ん中を境にゆっくりと左右に別れ、壁に埋まるようにスライドして開いていった。
「「「開いたぁー!」」」
そんな声と共に、閉じ込められていた冒険者のパーティは転がるように飛び出してきた。
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