060 新しい武器

「えっ! てことは、あんたら再構築を跨いで閉じ込められたままだったのか!」


「……んぐっ、……そういう事になるな」


 閉じ込められていたパーティのリーダーと思われる狼人の男は、渡した弁当を物凄い勢いで食べながら、こちらの質問に答えてくれる。


「あー……、道理で入口付近に人の通った形跡が無いわけだ」


 話を聞くと、彼らが閉じ込められてから既に五日は経っていたようで、ダンジョンの再構築を跨いでいた。

 その為、このトラップ部屋へ至る入口の転移門ポータルの座標もリセットされ、人の通った形跡が無くなっていたという事のようだ。


 彼らが持ってきていた食料はとうに尽きており、回復薬やポーションなどで空腹を紛らわしていたらしい。

 空腹で誰もがやつれた顏をしていたため、とりあえず今は俺達が持ってきた弁当を渡して空腹を満たしてもらっている所だ。


 因みに水はトラップ部屋内にも側溝のような水路があるし、水魔法で作り出す事ができるので問題は無い。

 余談だが、どの階層の迷宮にも必ず側溝のような水路が点在し、冒険者はこれをトイレ代わりに使っている。


「ご馳走様! 本当にありがとう! あんたらは命の恩人だ!」


「とても美味しかったです! 本当に感謝いたします!」


「ああ、腹を満たせるって最高だな! マジでありがとな!」


 どうやら腹を満たして人心地付いたようだ。頻りにお礼を述べられてしまう。

 見た感じだが、彼らは先日会ったゲイル達よりも若干、年が行った位だろうか。


 彼ら曰く、とある村からダンジョンへ出稼ぎに来ていた三組の夫婦らしく、狼人、只人、ドワーフのそれぞれの夫婦だった。

 普通、村などの小規模な集落では種族ごとに構成されがちだが彼らの村は種族の垣根が無さそうなので、きっと住みやすい良い村なんだろうなと想像してしまう。


 空腹は満たされても体力が衰えているだろうから、もう一日休んでから帰ってはどうだと伝えたが、宿に子供達を残しているので急いで帰りたいらしい。

 仕方が無いので、今回持ってきてはいたが使ってない携帯食料やポーション類を譲ってやり、帰りのルートも教えてあげる事にした。

 あとこっそりとラキちゃんが神聖魔法をかけてあげたようだ。彼らの顔色が少し良くなった感じがする。


「何から何まで本当に済まない。今は現金の持ち合わせがなく支払う事ができないが、地上に戻ったら必ず支払うよ」


「俺達はまだまだ探索するからすぐには戻れない。――なら代わりに薬師サリアが経営する 『エルフの止まり木』 というお店で何か買ってあげてくれ。そこは俺の下宿先なんだ」


 そう言い、俺は簡単な地図を書いてあげた。


「分かった! 必ず利用させてもらう!」


 大家さんの名前を出したら彼らは驚いた顏をして全員で顔を見合わせて頷いていたから、大家さんの名前は知っているようだ。

 それから、一通り装備などの確認をした彼らはもう出発するというので、俺達も転移門ポータルを抜けて見送る事にした。


「――そうだ、心ばかりではあるが感謝の気持ちとしてこの剣を受け取ってくれないか? この部屋の宝箱から出た品なんだが……」


「……分かった。ありがたく頂いておくよ」


 別れ際に手渡された剣は、俺が今使っているショートソードをロングソードにしたような剣だった。


「それでは俺達はこれで失礼する。――ありがとう、またどこかで」


「この度は本当にありがとうございました。それでは失礼します」


「本当に助かった! もし村に来たときは是非訪ねてくれ!」


 去り際も彼らは口々にお礼を述べ、手を振りながら出発していった。

 あっ、そういえば昨日、他の冒険者と交流した時に遺留品回収の依頼があったような気がする。

 ひょっとしたら彼らの子供達がギルドに依頼を出した可能性がある。


「おーい! もしかしたらあんたらの子供達が遺留品回収の依頼を出してるかもしれないから、ギルドに報告忘れんなよー!」


「分かったー! ありがとう!」


 俺達は足早に去っていく彼らの姿が見えなくなるまで見送った。


「おっさん遠慮すると思ったらあっさりと受け取ったから、ちょっとびっくりしたよ」


「ハハッ、いくら俺でもああいうのはちゃんと頂くのが礼儀ってのは知ってるからな」


「そっか。――ねっ、その剣見せて見せてっ!」


 興味津々といった感じでリンメイにせがまれたので、貰った剣を渡してあげる。

 俺もどんな性能があるのかとても気になる。


「おっ、これあたいやおっさんの使ってる剣の上位品だな。――ほら、剣先が似たような形状してる」


 そう言ってすらりと抜いた剣を見せてくれた。

 本当だ。基本的には日本刀にとてもよく似た剣だが、剣先は今使っている剣同様に両刃だ。

 本当に小烏丸こがらすまるのような剣だな。


「うーん……この剣、効果だけは結構凄いぞ。魔力マナを流せば切れ味が上昇するだけじゃなくて、ある一定以上の魔力マナを消費すれば土属性攻撃ができる。具体的には、土魔法で干渉できる物質を切る事が出来る」


「えっ!? もしかして石や金属切れちゃうの!?」


 凄い! 斬鉄剣か!?

 でもなんかリンメイは微妙そうな顔をしている。何かデメリットでもあるのかな?


「えっマジ!? それ凄くねーか!?」


「もしかしてその剣はネームド品?」


「……スゲェ」


 なんとなく聞いていたハンス達も驚いて身を乗り出してきた。


「いや、残念ながらネームド品じゃない。――理由は簡単、土属性発動するための魔力マナの消費量がとんでもないから。多分ハンス達じゃ一発も発動させる事ができねーぞ」


「マジか……」 「ええ……」 「……ガックシ」


 ああー……、なるほどね。効果が良くても発動できなきゃ意味ないもんな。

 たしかにリンメイが微妙な顔するわけだ。


「多分あたいで一発か、ギリ二発いけるかどうか。おっさんなら三発ってとこかな」


「えっ!? おっさんてそんなに魔力マナ量あったのかよ!」


「そーなんだよ。おっさん、魔力マナ量だけは高名な魔法士並にあるんだよな」


 えっ、そうだったの!? 自分の事なのに全く知らなかった……。

 チートなギフトはあげられないと言ってたが、意外なところでサービスしてくれていた女神様に今更ながら感謝だ。


「今回あいつ等救ったのはおっさんだし、この剣はおっさんが使いなよ。――もうだいぶ剣の扱いは慣れただろ? そろそろショートソードは卒業しても良いと思うんだ」


 リンメイはそう言い、俺に剣を差し出してきた。

 俺なら三回は効果を発揮できる今よりも性能の良いロングソード。とても魅力的な申し出だ。

 ただ、彼らを見つける事ができたのはラキちゃんのおかげなんだけどな……とラキちゃんを見ると、ニコニコ顔で首肯で返してくれた。


 ――では……。


「分かった! ありがたく使わせてもらうよ!」


「おう!」 「うん!」


 二人ともありがとう!

 ……ふふふ、この剣があれば 「またつまらぬ物を切ってしまったか……」 ができてしまう!

 でも……ふと疑問に思ったんだが、ひょっとして土属性発動してたら相手の剣も切れてしまうんだろうか?


「ねえリンメイ一つ気になったんだけど、もし土属性発動して剣で打ち合った時は、相手の剣も切れちゃうわけ?」


「んー、剣の付与効果だけでは無理だと思う。ほら、相手の剣て大抵は魔力マナ流し込んでるだろ? 相手の魔力マナがあると干渉できないはずなんだよ」


「てことは魔力マナを通されてると土属性攻撃の意味無いのか……。うーん残念、対人戦では役に立ちそうにないね」


「そーでもないぜ。ほら、皆が普段金属鎧じゃなくて革や甲羅や鱗といった魔物の素材の鎧を愛用するのってさ、魔力マナが尽きた時の土属性魔法を警戒してってのがあるんだよ。だから相手の魔力マナがギリギリの場面なら剣をぶった切るチャンスがあるんじゃね?」


「ふむふむ、なるほどね」


 そうか、ハンス達のように魔力量が少なく常に装備に魔力マナを通す事ができない相手や魔力マナが枯渇しそうな相手には有効打を与えるチャンスがあるって事か。いいねいいね。

 これはこの剣を扱うのが楽しみになってきた。

 丁度おあつらえ向きに、このエリアは敵が比較的弱い。移動中にしっかりと長剣の扱いを練習させてもらおう。




 思ったよりも彼らの救護活動に時間を食ってしまった。

 気が付けばもう昼に差し掛かろうとしていたため、結局俺達はトラップ部屋の方へ戻って昼食を取る事にした。

 室内はまだリセットされていないようで宝箱も復活はしておらず、更には五日間以上生活していた彼らの生活臭が立ち込めていたので、中には入らず転移門ポータルのすぐそばで休憩する事にした。


「そうそうラキちゃん、このトラップ部屋への転移門ポータルはどうやって見つけたの?」


 お弁当を食べながら、それとなく気になっていた事をラキちゃんに聞いてみる事にした。


「んー、なんとなーくだけど転移門ポータルでよく見る魔力マナの揺らぎ? があそこから立ち昇っていたの。だからもしかしてと思って」


「へぇーなるほどね。しかし凄いなラキちゃん、そんなのが見えるんだ」


「えへへ、なんとなーくなのです」


 どうやらラキちゃんにはほんの僅かに、転移門ポータルに見られる魔力マナの残滓のような物があの石板周辺に見えたらしい。

 ホントに凄いなラキちゃん。俺なんて普段から転移門ポータルでそんなの見えないぞ。


「なあおっさん、この後はどうする? ここは宿泊するのにかなり良い場所だけど、まだまだ時間は結構あるぜ」


「そうだな、まずはラキちゃんのマップにあった階段エリアまで行ってみよう。それで、できたらその先も探索しておきたい」


「分かった」 「ですね」 「……それがいい」


 俺の返答にハンス達は頷いて了承してくれた。


「しっかし、迷宮宿の存在知らねー奴等がいたなんて驚いたな」


「だね。『迷宮宿の鍵』 は中層以降での大きな稼ぎになるから、皆知ってるかと思ってたよ」


「……情報は命に関わる」


「……ゴメン、俺とラキちゃんは先日リンメイに教えてもらうまで知らなかった……」


「マジかよ、あっぶねーなー」


 今回の件で、つくづく冒険者同士の交流や情報収集は重要だと痛感してしまう。

 俺も以前 『迷宮宿の鍵』 の事をリンメイに教えてもらってなかったら、彼らと同じ目に遭ってた可能性があるからだ。

 だって俺、空の宝箱に何か入れて閉めるなんて頓智とんち思い浮かばないです……。


「そういえば迷宮宿の情報はかなり広まってるのに、ここみたいなトラップ部屋の話は全く聞かねーな」


「そりゃあれだよ。迷宮宿は 『迷宮宿の鍵』 が欲しい奴が広めたんだろうけど、ここのような確実に宝箱が二つもあるトラップ部屋は知られたらデメリットしかないからね。きっと運よく見つけた奴らは皆内緒にしてると思うよ」


「あーそうか、そりゃそうだ」


 そりゃ確かにそうだ。宝箱が二つもあって迷宮宿の代わりになるトラップ部屋の存在なんて、誰も教えたくないよな。

 十五層からの水路の迷宮にもあったんだし、このアンデッドの迷宮にもあった。

 恐らくだが情報が洩れていないだけで、どの階層の迷宮にもあるんじゃないかと思う。




 トラップ部屋を後にして暫く進むと、無事に階段エリアに到着した。

 ありがたい事に下り階段だったので、これで二十四層に進める。


「おっ、いいねいいね。下り階段じゃん!」


「結構早く二十四層まで来れちゃったね。かなり早いんじゃない?」


「だね、ラキちゃんのマップのおかげだよ」


 そう言ってラキちゃんにお礼を伝えると、ニコッと笑顔で答えてくれた。


「後はこの階段の先がボス部屋まで続いていれば言う事無しなんだけどな」


「とりあえず降りてボス部屋の座標と現在地を照らし合わせてみようよ」


「了解だ」


 二十四層へ降りてみると階段エリアには他の冒険者の姿は無く、どうやら俺達だけのようだ。

 そのため、早速ラキちゃんにマップの確認をしてもらった。


 結果、この階段の座標はどうやらボス部屋の座標とはかなりの距離があるらしい。

 これまでの迷宮なら見込みが薄そうだが、この迷宮には転移門ポータルがある。

 まだまだボス部屋まで到達できる可能性は十分にあるので、俺達はこれまで同様に転移門ポータルを探しつつ、探索を進める事にした。

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