058 先輩冒険者
二十二層に降りてからも、俺達は順調に進んで行く。
やはりここのアンデッドの魔物は低層でしっかりと経験を積んでおれば問題無い敵ばかりだ。
獣のタイプはそれこそ低層となんら変わらないし、人のタイプもゴーレムのようにおもちゃのような可動域は見せず、あくまで人と変わらない可動域なので対人戦の技術が活かせる。
稀に攻撃魔法を放つアンデッドもいるが、冒険者狩りほど器用じゃないから全く問題無い。
そんな感じなので、浄化の付与魔法が使えるパーティは割とこのエリアを狩場にしている事が多いとハンス達が教えてくれた。
たしかに低層程度の強さで宝箱の中身もドロップアイテムも低層より遥かに良いんだから、納得だ。
今回は浄化の魔法を付与された武器での攻撃がメインとなっているので、俺は最初から左手に盾を装備している。
敵の放つ魔法や矢や投石などを盾で捌きつつ敵を仕留めて行く。
うん、ここは盾持ち剣士としての訓練にも良い感じだな。
ラキちゃんの作成したマップから当たりを付け行き止まりを目指して探索するが、なかなか
そして宝箱も無い……。
おや? 斥候として先を進んでいたミステルが、曲がり角の先を確認して戻って来たぞ。
何か見つけたのか?
「……この先に転移門があった。あと冒険者パーティが一組いる。――どうやらゲイルさん達っぽい」
「えっ、まじか!」
「折角だし、挨拶しておこうよ」
「……よし行こう」
どうやらハンス達の知り合いの冒険者のパーティがこの先に居たようだ。
口には出さないが、道理で宝箱が無い訳だ……。
「そのゲイルって冒険者はハンス達の知り合いなのか?」
「ああ。ゲイルさんは俺達がこの都に来て右も左も分かんねえ時に良くしてくれた先輩冒険者だ」
「とても頼りになる人なんですよ」
「……飯奢ってくれたりもした」
「へぇー」
ミステルの言うように
向こうもこちらに気が付いたようだが、やって来たのがハンス達だと分かると、すぐに警戒を解いたようだ。
「こんにちはゲイルさん!」
「お久しぶりです!」
「……どもです!」
ゲイルと呼ばれた冒険者は二十代前半といった所だろうか。
パーティ全員が同じくらいの年齢で構成されている。冒険者として一番脂が乗っている年齢じゃないかな?
彼等は全員が只人で、男四人の女二人のパーティだった。
剣士と思われるゲイル、穏やかな雰囲気をした神官の男、小柄ながら筋肉質な槍使いの男、ひょろりとした斥候と思われる男、学者っぽい地味な雰囲気の魔法士の女、派手そうな弓術士の女という構成だ。
「よう! こんな所で会うとは奇遇だな」
「あなた達もうここまで来れるようになったのね」
「はい! ゲイルさん達は今日は日帰り探索ですか?」
「まぁな。 お前らもか?」
「あぁ、いえ、実は今回俺達はこちらのパーティに誘われて、一応ボス部屋目指してます」
「へぇー……。それにしちゃ随分と軽装だな」
「あーっ、もしかしてマジックバッグを手に入れたとか?」
「えっ!? いやいや、それは無いですって、……アハハ」
「……ふーん。まあ無理すんなよ」
「ところで、お前ら本当にこの三人とボス攻略するつもりなのか?」
ゲイルの指すこの三人とは、勿論俺達の事だ。
連中は値踏みするように俺達三人を見てくる。
「はい。以前話した事のあるケイタさんとそのパーティメンバーです。こう見えて彼らかなり優秀なんですよ」
「ああ……、あんたがいい歳して冒険者になったっていう奴だな?」
「ああ」
……ちぇっ、いい歳して冒険者になって悪かったな。
「俺はゲイルってんだ。よろしくな」
「俺はケイタだ。……よろしく」
それから他のメンバーともお互いに自己紹介する。
俺達の構成が少し目立つため仕方の無い事なんだが、どうもこの値踏みされるような視線には毎回辟易してしまう。
神官の男はラキちゃんに何処の教会所属なのか尋ねてきて、 「ああ、あそこですか……」 と妙に納得していた。
どうやら彼らは一緒に休憩を続けるわけでもなく、俺達に席を譲り先に進むようだ。
「んじゃ俺達はそろそろ行くわ。――またな、お前ら気ぃ付けて行けよ」
「はい! ゲイルさん達もお気を付けて!」
「おぅ!」
彼らが転移門を潜ってい行くのを見送った後、俺達も少し休憩を取るために壁際の石板に腰掛ける。
時計を確認するとまだ昼前。
時間的に少し早いかもしれないが、ここで昼食を取るべきか皆に聞いてみようか。
そんな事を考えていたら、不意に俺のギフトが警鐘を発し出した。
――えっ、これって……。
「ラキちゃん、ちょっといいかな?」
「ん? どうしたのお兄ちゃん」
俺は横に座っていたラキちゃんに耳打ちしてお願いをする。
するとラキちゃんは頷いて了承してくれた。
「ちょっと、ラキちゃんと
「分かった。気ぃつけろよ」
「ああ」
転移門を抜けると透かさずラキちゃんは結界魔法を展開し、続けて重力魔法を放つ。
矢による攻撃や魔法による攻撃、果ては剣や槍による攻撃も弾き返し、攻撃してきた連中を重力魔法で一網打尽にした。
「そんなっ……!」 「ぐへっ!」 「何よこれ!」
「ハァ……、やっぱりな」
転移門の先で待ち構えてたのは、先程のゲイル達のパーティだった。
「ハンス達を失望させんなよな。どうせあいつ等が持ってたマジックバッグを狙ったんだろ」
「くそっ! ………………ああそうだよ! ――俺達でもまだ持ってないのに許せねえ!」
まったく、とんだ良い先輩だな……。
俺のギフトでなんとなくこういう結果になるのは見えていたが、今回は皆に伝えずラキちゃんとだけで処理する事にした。
こいつらの裏切りはハンス達に堪えると思ったから。
「勘違いしているようだから教えといてやる。ハンス達が持ってたマジックバッグは借り物だ」
「借り物だと!? あんな高級品を貸してくれるようなバカがいるわけないだろ!」
「おまえら、うちのパーティに虎人の女の子がいたの見てるよな? 彼女、 『紅玉の戦乙女』 のメイランさんの妹なんだよ。あの鞄は今回の攻略のために彼女がお姉さんから借りてきてくれたんだ」
「えっ……」
「俺に止めてもらえた事を感謝しろ。もしお前らが運良く鞄を奪えたとしても、その先にあったのは破滅だけだ」
「そんな……」
「おっ、お願い! この事は誰にも言わないで!」
自分達を慕っている後輩をあっさりと踏み台にしてしまう決断をしたこいつ等を、正直俺は許せない。
ここで見逃したらまたいつか何処かで、誰かが犠牲になる可能性がある。
でもこいつらはハンス達にとっては 『良い』 先輩冒険者なんだよな……。面倒くさい……。
「……今回だけは見逃してやる。二度とハンス達の信頼を裏切るような事するなよ」
「ああ、約束する!」
お前らみたいな奴等の約束なんて言葉は、本当に信用ならねーんだけどな……。
ラキちゃんに魔法を解いてもらうようお願いすると、
――まさか!?
「おっさん! 何やってんだよ!?」
くそっ、なんとタイミングの悪い。
どうやら俺達の帰りが遅いから心配して見に来てしまったようだ。
「チッ、――お前ら約束だからな!」
重力魔法の
「どういう事なんだよおっさん!」
「……あいつ等、お前らのマジックバッグ狙ってたんだよ」
「本当なんですか!?」
「適当な事言うなよな! あの人がそんな事するはずがないだろ!」
「お兄ちゃんの言ってる事は本当なの」
俺に食って掛かろうとするハンスの前に両手を広げたラキちゃんが割って入り、俺の擁護をしてくれた。
ハンス達は普段見せない真剣な顔をしたラキちゃんに、思わずたじろいでしまう。
「お兄ちゃんを責めないで。ハンスさん達をがっかりさせたくないから、私とお兄ちゃんだけであの人達とお話する事にしたの」
「なっ……、だからおじさんとラキちゃんだけで転移門潜ったのか」
「……ああ」
「そんな……。ふざけんなよ、クソッ!」
それまで静観していたリンメイは、 「あっ!」 と素っ頓狂な声をあげ、何かに気が付いたようだった。
「そうか! おめーらが突然軽装になったから、さっきの会話で当たりを付けられたんだな」
「……マジか」
リンメイの言う通りだろうな。
今回は俺ですら合流した時のハンス達の荷物の少なさに気が付いてしまった位だし。
マジックバッグでもなきゃ、そんな軽装でボス討伐目指してますなんて言われたら、正気を疑ってしまう。
ただ、他の冒険者がどう見るかまで意識が行かなかった俺も迂闊だった……。
「すまんリンメイ。ハンス達のマジックバッグはリンメイがお姉さんから借りたって事にしちゃったんだ」
「あー……なるほどね、別にいーよ」
「ありがとう。――だから多分、ハンス達がマジックバッグを持ってるって噂は広まらないと思う」
「次からは中身スカスカでもいーから、これまでの鞄背負ってた方がいいかもな」
思っていたよりも他の冒険者の嗅覚は鋭い。
リンメイの言う通り、暫くはダミーとしてこれまでの鞄を使って活動した方が良いだろう。
奪おうとする奴等に無理だと思われる位、実力や知名度が上がるまでは……。
「……そうだな。――ごめんおっさん。ありがとう」
「俺達のために気を遣ってもらってありがとうございます」
「……感謝する」
しかし参ったな……。
信頼していた人に裏切られるってのは、本当に堪える。
割り切ろうとはしても、すぐには難しいだろう。
どうしよう、今のハンス達の精神状態でボス攻略は危険かもしれないな……。
「……今日はこれで帰るか?」
「「「えっ!?」」」
ハンス達だけでなくリンメイまで驚いてしまっている。
「まっ、待ってくれ! 俺達なら大丈夫だ!」
「そうです、問題ありません!」
「……おっさん俺らを
「そうか。――ならもう少しここで休憩してから先に進もうか」
ハンス達は俺の返答に安堵し、もう少しここで休憩する事を了承してくれた。
「そうそう、さっきの事で気が付いた事がある。――先が見えない
「……そうだな」
俺の何気ない言葉にハンス達はまた少々気落ちしてしまったようで、リンメイに肘で小突かれてしまう。
「……まったくもう。――折角だし昼飯にしようぜ。飯食ったら少しは気持ちも切り替わんだろ」
「ゴメン……。そうそう、飯にしようぜ」
「分かった」 「ですね」 「……おう」
こうして、俺達はちょっと長めの休憩を
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