057 次の目標は二十五層

 ダンジョンの再構築が済んだので、今日から俺達はハンス達と一緒に二十五層を目指す。


 前回の探索でハンス達にマジックバッグを譲った代わりに、俺達と一緒に二十五層を目指す約束を取り付けた。

 迷宮産アイテムの占有や、ラキちゃんの能力を発揮できないといった制約はあるものの、非常に有能で気心の知れたあいつ等と行動を共にするのはかなりメリットがあると思ったからだ。

 それに六人行動はやはり目立たないというのも大きい。


 いつものようにダンジョン前広場の噴水前で待っているとハンス達がやって来た。


「やあ、今回の探索よろしくな」


「おう!」


「こちらこそよろしくお願いします」


「……よろしく」


 ハンス達は先日手に入れたマジックバッグのおかげか、大分軽装になっていた。

 どうやらマジックバッグはトーイが管理する事になったようだ。


「トーイの鞄はまだ空きはあるか?」


「ん? ありますよ。何か入れて欲しいです?」


「いや、それがあるなら携帯食料じゃなくて作りたての弁当を沢山買って持ってったほうがいいと思ってさ」


 ハンス達はマジックバッグの特性の一つである時間経過の停止を知らなかったようだったので教えてあげると、俺達と一緒に露店の弁当を沢山買い込んだ。


「へぇー、良い事聞いた」


「本当に便利だね、この鞄」


「……白金貨が飛び交うわけだ」


 俺達の分の弁当も入れさせてもらい飯の準備も整った事で、二十五層踏破に出発だ。

 二十層から階段を下り、中層の三つ目である二十一層を進んでいく。


 二十一層からは、スケルトンやゾンビやゴーストといった所謂アンデッドの魔物が蔓延るエリアだ。

 そのため、それらしい雰囲気作りのためか、地面が剥き出しだったり墓石のようなのが散乱していたりと、少々乱雑な迷宮となっている。


 この世界でのアンデッドの魔物は基本的に不浄の精霊が動かしている。

 一説には、彷徨う魂を不浄の精霊がそそのかして動かしているのではとも言われている。

 そのため、退治するには不浄の精霊を祓わなければならない。

 不浄の精霊を祓わないと、切り刻むだけでは何度でも復活してしまうからだ。


 大家さんのような精霊魔法の使い手がいれば一番良いのだが、そうでなければ神官になると女神様から授けられる浄化の魔法か、教会で清められた聖水を武器に振りかけて不浄の精霊を祓う。

 また、スケルトンやゾンビといった実体のあるアンデッドなら、高火力で燃やすという手もある。

 でも戦闘の度にそれを行うと、すぐに攻撃魔法士の魔力が尽きてしまうため、やはり浄化の魔法か聖水を頼った方が経済的だったりする。


 この事からパーティに精霊魔法の使い手、若しくは神官がいないと聖水代でかなりコストの掛かってしまう階層なんだが、俺達のパーティにはラキちゃんがいるので全く問題無い。

 今回パーティの話を持ち掛けたのは俺のほうだったが、ハンス達からしても渡りに船だったようだ。


 あと、この中層の三つ目からは、これまでの迷宮エリアに無い仕掛けが実装される。その仕掛けとは転移門ポータルだ。

 迷宮内のあちらこちらに設置されており、階段だけでなく転移門ポータルを通って正しいルートを探索しないといけないため、これまでよりも迷宮が複雑になる。


 そのため、このエリアからは宝箱を探すためだけではなく転移門ポータルを探すためにも行き止まりを探索しないといけなくなる。

 まだこの中層三つ目では階を跨いだ転移はされないが、もっと深い階層に行くと、階段が無くなり、転移門ポータルだけの移動となる階層もあるらしい。


 今回もラキちゃんにマッパーをお願いして俺達は進んでいる。

 ただ、流石に転移門ポータルの位置はラキちゃんの魔法でも探る事ができないため、地道に探索していかないといけない。


 中途半端だが既に二十一層のマップが売られていたので、今はそれを頼りに進んでいる。

 その際、今回はミステルが斥候をしているため、ルートの選定もミステルが行っている。

 ミステルは運が良いのか第六感が優れているのか、的確にルートを選んで進んで行ってる。

 低層ではマップを見ながら進んでいたので気が付かなかったが、前回ハンス達がかなりの速度で探索できていたのは、ミステルの力が大きいんじゃないだろうか。


 アンデッドの魔物は不浄の精霊を祓う事ができれば普通に弱いので、サクサクと進んで行く。

 こいつ等のドロップ品は魔石や鍵以外は、極稀に装飾品を落とす位で、大したものは無いらしい。


 ――あれ? ハンスがドロップした骨を拾ってるぞ。


「なあ、その骨って何か役に立つのか?」


「ああ、この骨は薬の材料や最高級の肥料になるらしいから結構良い値で売れんだぜ」


「なんかそれ、只の骨じゃなくて不浄の精霊が生成した物らしいですね」


「へぇ~」


 良い事聞いた。薬の材料や肥料になるのなら大家さんの役に立つだろうから、出たら俺も持って帰ろう。




「……宝箱だ!」


 この階層は先に進むためには転移門ポータルを探さないといけない。

 そのため宝箱目当てでなくても行き止まりを探索する事になるのだが、大抵は他の冒険者に先を越されており残ってはいない。

 てことは、この宝箱は再び湧いたやつかも。とにかく嬉しい。


「周囲警戒!」


 俺達は急いでミステルの所まで行き、陣を張る。

 今回も宝箱を開けるのをラキちゃんにお願いしているので、ラキちゃんに開けてもらう。


 開けられた宝箱を覗くと、中には先端にお花の意匠がされたステッキが入っていた。

 以前俺がラキちゃんに露店で買ってあげた変身ステッキに似ていて可愛らしい作りだ。


「これっ、ネームド品だ!」


 宝箱を覗き込んだリンメイは、驚いて声を上げた。


「えっ、中層でネームド品なんて出るのか!?」


「武器防具といった装備品じゃなければ、たまーにあるみたいだよ。でも凄いね!」


「……やったぜ!」


 なんか凄いのが出たっぽいが、どう凄いのか分からない。

 どうやらネームド品が何なのか知らないのは俺とラキちゃんだけのようで、他の皆はこのステッキに大喜びだ。

 とりあえずリンメイさん教えてください。


「ねえリンメイ、ネームド品て何?」


「え? ああ、うーんと……、ふつー装備品やアイテムを鑑定してもさ、剣や盾といった製品を判別するための名称に付与効果だけだろ? ネームド品はそれらの品に固有の名前がついてるんだよ」


「それらはどれも性能が良い品ばかりなんですが、大抵は高層以降でないと出ないんですよ」


「……でも日用品のたぐいだと、たまーに中層でもネームド品がでるらしい」


「「へぇー」」


 トーイとミステルが情報を付け足してくれる。

 なるほどなあ、ゲームでよくあるドラゴンスレイヤーみたいな感じに、名前が付いてる装備って事か。


「てことはこのステッキ、日用品のたぐいなのか? どんな効果あるの?」


「このステッキの名前は 『蜜蜂の杖』 。効果は二つあり、一つはよく魔法士が使う杖同様、少々の魔法発動時間短縮だが、注目すべきもう一つの効果は、蜜蜂が一匹使役できる」


 途端にハンス達の表情が固まる。


「蜜蜂一匹って、なんだそれ……」


 ネームド品という事で期待していたハンス達は、がっくりと肩を落としていた。

 ラキちゃんだけはリンメイの説明を聞いて ふんす! ふんす! と鼻息荒く大興奮だ。


「先端の花の所に蜜蜂が止まれば、そいつと契約できる。使役した蜜蜂とは視覚共有できるから偵察に向いているっぽい。契約者が解放の宣言するか、その蜜蜂の生活圏から出てしまうと解放されて帰ってしまうみたいだな。あと運が良ければ蜂蜜を少し分けてもらえる……だってさ」


「おおー!」


 ラキちゃんはリンメイの説明に大喜び。

 ハンス達との温度差が凄くて思わず笑みが零れてしまう。

 これはラキちゃんの所有に決定かな。

 ハンス達もどうやらラキちゃんの様子に気が付いていたようで、快くラキちゃんに権利を譲ってくれた。


「わーい! ありがとう!」


 ラキちゃんのニコニコ顔に俺達も顔が綻ぶ。

 この 『蜜蜂の杖』 には一応少々の魔法発動時間短縮の効果が付いているため、これからはラキちゃんのメインウェポンとして使う事にしたようだ。


 さて、まだまだ迷宮探索は始まったばかり。先に進もう。




 宝箱のあった行き止まりから一時間ほど進んだ頃だろうか、なんと転移門ポータルを使う事無く階段のあるエリアに辿り着いてしまった。


「おっ、転移門ポータル使わずに階段まで来れるなんて珍しい」


「だね。でもこの階段が正解かは分からないんだけどね」


「まあいいじゃないか。一先ず休憩しようぜ」


「「「さんせー」」」


 休憩をしながら、皆でこの階をもう少し探索するか、ここの階段を降りて先に進んでみるか検討する。

 今回ハンス達は依頼を受けているわけでは無いので気持ちにゆとりがある。

 それに今回の探索は俺達の要求に従った形なので、基本的な決断は俺達に任せてくれている。


「じゃ、とりあえずこの階段から降りて進んでみよう」


「おっけーだ」


 俺は一先ずラキちゃんにマップの形状を確認してもらいたかったので、下の階へ進む事を提案した。


 実は、今回ハンス達と探索するにあたり、俺達三人で事前に決めた事がある。

 それは、ラキちゃんの振動魔法によるマッピングを、ラキちゃんのギフトという事にしてハンス達にだけは見せても良いだろうという事だった。

 勿論、他の冒険者には秘密にするという条件ではあるが。


 この決断に至ったのは、ダンジョンが複雑化するために、少しでも時間的な余裕が欲しかったからだ。

 二十二層に降りると、早速ラキちゃんにマップの作成をお願いする。

 その様子を目の当たりにして、ハンス達は驚愕していた。


「なるほどなー。ラキちゃんのこのギフトがあれば三人でサクサク進んでこれるわけだ」


「他の奴等にはナイショな」


「勿論です。このギフトは他の冒険者に目を付けられそうですしね」


「……ハッキリ言って知られたらヤバイ」


 彼らの言葉に俺は思わず満足気に頷いてしまう。

 こんな感じでラキちゃんの能力が他に漏れた場合の危惧をしてくれるから、君らは信頼に値するんだよね。

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