056 邂逅
「……来たっ!」
「三人ともいるぞ!」
「やりましたねおじさん!」
「ご無事で何よりです!」
俺達が
「なんとか無事倒す事ができたよ。ハンス達の情報のおかげだ」
「おう! あのボスは型に嵌めると他のボスよりも簡単な位だからな」
「つくづく遠距離攻撃の必要性を感じさせられるボスなんですよね、アイツ」
「そうだよなあ」
確かに近接攻撃しかできないパーティだと、どうにもならない大変なボスだと思う。
投擲術を習っておいて本当に良かったと思う。
「んじゃ、さっさとエントランスホールに戻ろうぜ」
「魔導学院の皆さんがこのメンバーで祝勝会やりましょうって言ってくれたんですが、おじさん達も参加しませんか?」
「俺達も参加していいのか? ――二人は問題ない?」
「「おっけー」」
ラキちゃんとリンメイのおっけーが出たので、俺達も参加させてもらう事にしよう。
「じゃ、俺達も参加させてもらうよ」
「場所は以前やった 『季節の恵み亭』 です」
「了解だ」
ハンス達の出迎えから少し落ち着き、フィールドエリアを改めて見回すと、思わず溜め息が出てしまった。
今出て来た
凄いな、本当にここは天空にある浮島なんだ。
リンメイもラキちゃんも感嘆の表情を浮かべている。
「すげーな……」
「ねー……」
改めて陸地の方を見る。
この浮島は魔王様の所と同じくらいだろうか? ひょっとしたら、もうちょっと大きいかもしれない。
このエリアも薬草採取には非常に重要なエリアだ。
ハンス達の後を付いて帰りの
そして今、何かしらの難を逃れるために必要な、何かのイメージが頭に浮かび上がる。
――これは……。
「待て!」
俺の突然の制止の言葉に、皆驚いて俺に注目する。
「どうしたんだよおっさん?」
「俺のギフトが発動した」
「えっ、おっさんのギフトって確か……」
「アレックス先生、転移門から出る時はハンス達とずらして俺達と一緒に
「えっ? どうしてですか?」
「おっさんのギフトは所謂、危機察知なんだよ。――何かあんだな?」
「ああ。――恐らくだが、転移門を
「マジか!?」
襲撃されてからここに来るまで敢えて誰も触れはしなかったが、先日襲撃者に襲われた原因がアレックス君というのは、誰もが薄々と察していたようだ。
皆すぐに理解し、アレックス君が俺達と一緒に少しずらして転移門を
「皆さんすみません……」
皆に 「気にすんな」 と言われ、先にハンス達が転移門を
そのまま別行動で 『季節の恵み亭』 で落ち合う事となった。
アレックス君がいない限り危険は無いとは思うが、一応気を付けてくれとは伝えておいた。
「あとリンメイ、先日手に入れた認識阻害の外套、あれをアレックス先生に貸してあげてくれないか?」
「ん? いいぜ」
なるほどなと言いながら、リンメイは自分のリュックから先日手に入れた認識阻害の付与効果が付いた外套を取り出してアレックス君に渡す。
「アレックス先生、すまないけど帰りはずっとその外套を使って欲しい」
「わっ、わかりました!」
アレックス君が外套を纏うと、なんとなくでは存在が気にならなくなった。
でもそこにアレックス君がいるんだと考えながら見ると、しっかり認識する事ができる。
凄いな認識阻害の効果。これで効果は少々なんだもんな。
ハンス達が出て行って五分ほど経った頃だろうか。
「よし。じゃ、俺達もそろそろ行こう」
転移門を潜りエントランスホールへ出るが、二十層の転移門の前には怪しい奴等の姿は無い。
しかし……。
「おっさん、十五層への転移門の前にいた奴等見たか?」
「ああ見た。以前十四層のボス部屋前で見た奴がいたな」
向こうに視線を向けないように気を付けつつ、出口に向かいながらリンメイが話しかけてきた。
十五層の転移門から 『誰か』 を待っているであろう奴等が数人いたのだが、その中に、以前十四層のボス部屋で順番待ちをしていた奴が紛れていた。
「てことは、襲撃者の仲間がまだ四パーティ以上いるって事か……」
「あーそうなるのか、厄介だなあ……」
「どうせカサンドラ王国絡みだろうから、後でアルシオーネさんに伝えておいた方がいいな」
「うん」
俺達は冒険者ギルド支店に要らない品を納品するために向かうと、ハンス達は丁度、今回の護衛依頼完了の手続きをしている所だった。
「先に行ってる」
すれ違い様に呟いた俺の言葉に、後ろに控えていたミステルは首肯で応えた。
俺達の方はさっさと納品を済ませ、先に 『季節の恵み亭』 に向かう事にした。
「待たせたなー」
「おう、お疲れさん」
「……尾行もいないようだ」
「そっか、良かった」
先に席を取っていた俺達の所へハンス達がやって来た。
どうやら尾行もいないようで安心する。
結局この日は派手に酒を飲む事も無く、皆でたらふく料理を食べた後はさっさと帰る事になった。
「なんかすみません」
「いいさ、今回は護衛の依頼だったしな。これくらいの延長はサービスだよ」
ハンス達は魔導学院の三人を寮まで送ってあげると言うので、俺達も付いて行く事にした。
何事も無く無事三人を送り届ける事ができ、俺達も帰る事にする。
「おっさん、今回は本当に助かったよ。ありがとな」
「本当に助かりました」
「……おっさんありがとな。――最初に声掛けてきたのもギフトが働いたからなのか?」
「ん? ああ、一応な」
「おっさんのギフト、大した事ねーなーって思ってたけど、かなり便利だよな」
「そうだね、何かしら重要な機会を教えてくれるのは大きいよ」
残念と思われがちな俺のギフトを褒めてもらえるのは地味にうれしい。
「何が起こるのかはっきりと分からないのが難点だけどな」
「……心構えできる時間が手に入るだけでも十分」
それから俺達は、ハンス達と次の再構築後に二十五層を目指す約束をして別れた。
「それは大変でしたね」
「ええ、まさか眠りの香を使われるとは思いませんでしたからね」
大家さんは無事帰って来た俺達のために、ご馳走で持て成してくれた。
今はご馳走を頂きながら今回の二十層踏破の報告会だ。
「まだそいつらの仲間が残ってるなら、何かしら対策しといた方がいいかもよ?」
ミリアさんの言う通りだ。
連中の仲間が残っているなら、また眠りの香を使われる可能性がある。
「ですね。大家さんの方で何かしら良い品がありましたら教えて頂きたいです」
「ありますよ。明日皆の分を用意しておきますね」
「ありがとうございます!」
大家さんお手製の中和薬と、薬液を染み込ませたマスク代わりのスカーフを俺達に準備してくれる事となった。
大家さんの中和薬はキャンディタイプなので、効果が長持ちするのが特徴なんだそうな。
連中の持ってた怪しい中和薬よりも全然良い! 本当に助かる。
今日はエルレインさんの二回目の治療の日だ。
今回はアルシオーネさんも同行を希望したので、俺達は教皇庁に向かう前にアルシオーネさんを迎えに来た。
門番のお爺さんに通してもらい、玄関まで迎えに行く。
程なくして出てきたアルシオーネさんは、今日はハルバードは携帯せずショートソードを帯剣するのみの、動きやすい格好だった。
事前に教皇庁で神官服を借りて着替えないといけないと伝えておいたからだ。
「皆さん、先日はアレックスの危機を救って頂きありがとうございました。――アレックスから大体の事は聞きました」
それから、アルシオーネさんは綺麗に畳まれた外套を取り出す。
「リンメイさんありがとうがざいました。こちらの外套はお返ししておきますね」
「もういいの? まだ使っててもよかったけど」
「ご心配には及びません。あの子には同様の品を渡しておきましたから」
なるほどな、きっとリンメイの外套よりも更に性能の良い認識阻害の付いた品でも渡したんだろう。
「では、アルシオーネさんがよろしければ、そろそろ行きましょうか」
「はい。本日はよろしくお願いします」
早速アルシオーネさんを伴って教皇庁に向かい、手続きをする。
程なくして前回のように担当の神官が来たのだが、アルシオーネさんを見て驚いていた。
まあ有名人だからね。
今回ラムリスは随伴しないので、着替えるとそのまま教皇庁側に回してもらった護衛つきの馬車に乗り、出発する。
暫くして王子様の借りている館へ到着すると、前回のように迎えてくれた。
早速エルレインさんの部屋まで通され、王子様はよろしく頼むぞと俺たちに言うと、自ら部屋を退出していってくれた。
今日は煩い騎士フレンダと賢者カルラはおらず、王子様のお供は神官のサーリャとアサシンのミリオラだけだった。
扉の向こうから人の気配がしなくなるのを確認すると、エルレインさんは口を開いた。
「本日もよろしくお願い致します。……あの、お手紙は届けて頂けましたでしょうか?」
「――ええ、しかと受けとりましたわ」
そう言い、アルシオーネさんは仮面を外した。
「あっ……!」
エルレインさんは思いがけない邂逅に、手で口を押さえ嗚咽を漏らしてしまう。
「お一人でよく頑張りましたね」
そう言い、アルシオーネさんは優しくエルレインさんを抱き締めてあげた。
暫くしてエルレインさんが落ち着くと、アルシオーネさんは本日同行した理由を伝え、持参したマジックバッグを渡す。
「必ず助けに参ります。詳細はこの中の手紙に記しておきましたが、気になる事がありましたら次回こちらに伺った時に仰ってください」
「アルシオーネ様…………ありがとうございます!」
「あまり時間をかけるわけにはいきません。――では聖女様、よろしくお願いしますわ」
「はーい」
ラキちゃんは早速神聖魔法でエルレインさんの肘から手首までを復元してしまうと、待ってましたとばかりに俺の背に飛び乗るように負ぶさった。
「それでは今日はこれで失礼します。エルレインさん、気をしっかり持ってくださいね。貴方には私がついております」
「はい……!、はい……!」
エルレインさんはアルシオーネさんの言葉に何度も頷き、涙を流していた。
さて、あまり時間を取り過ぎると怪しまれる。そろそろお
治療が済んだことを王子様達に伝えると、俺達は前回同様そそくさと退散する。
「君」
見送りに来た王子様に突然アルシオーネさんが声をかけられてしまい、全員がドキリとしてしまう。
「良い香水を使っているね。――とても良い趣味だ」
王子様はそう言うと、とても優しげな表情をしていた。
「ありがとうございます」
どうやらアルシオーネさんの香水を誉めたかっただけのようだ。
冷や冷やさせるなよ、全く……。
馬車が館を発つと全員一息つく。
「皆さん本日はありがとうございました。エルレインさんのお元気そうな姿を見れて安心しましたわ」
「それはよかった。お役に立てたようで何よりです」
「しっかし、さっきのは焦ったなあ。ばれたかと思っちまったぜ」
「ふふっ……。あの子、ああいうところは妙に鋭いですからね」
アルシオーネさんはそう言い、満更でも無さそうに微笑んでいた。
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