053 ダンジョンでの野営 2

「俺だけでも良かったのに」


「いーんだよ」 「いいのいいの」


「二人ともありがとう」


 俺達のパーティは只今キャンプの見張り役をしている。

 本当は俺だけがハンス達に加わり二人ずつの交代で行うはずだったんだが、リンメイとラキちゃんもすると言ってくれたので、パーティでの交代という事となった。

 ハンス達は気を遣ってか、前半の見張りを俺達に譲ってくれた。


「しかしおっさんのギフトのおかげで助かったな」


「うんうん」


 ギフトのおかげでハズレルートに進んでしまうのは回避する事が出来た。

 だが、どうも腑に落ちない。俺のギフトはまだ発動したままなんだ。

 まだ何かあるのか?


「その事なんだが、実はまだギフトの……なんだ?……妙に……眠い……」


 なんだ!? 突然の強烈な眠気に体が傾いてしまう。


「お兄ちゃんどうしたの!?」


「――スン……これ……眠りの香だ!」


 リンメイは臭いからすぐさま鑑定したようで、原因を特定してくれた。

 朦朧とする中、今最も優先して行わないといけない事をギフトが教えてくれる。


「……くっ! ラキシス結界!」


「はいっ!」


 ――キン!キン!キン!


 ラキちゃんに指示をすると同時に飛んで来た矢を弾く音が鳴り響く。

 続けてラキちゃんは俺達に神聖魔法を掛けてくれたようで、頭がクリアになっていく。

 ラキちゃんは無敵の天使様なのでどんな状態異常も効かない。一緒に起きててくれて助かった!


「……くっそ、やってくれる! ――お前ら起きろ!」


 俺は頭を振りながら声を張り上げ、横で寝ているカイト達を揺すって起こす。




「生意気な、結界でも張っていたか」


「いいか! 金髪のガキ以外は皆殺しだ!」


「――じゃあお前も死ねェ!」


 抜刀して向かってくる敵に、俺は叫びながら両手に忍ばせたアイアンニードルの針六本を投擲する。

 上手く弾いても俺の雷魔法は逃がさん!


 ――パシーン!


「なっ!?」 「がっ!」 「ぐあっ!」


 俺の攻撃に合わせ、リンメイは抜刀して素早く首を狩りに行く。

 動けなくなっている三人を瞬時に仕留めてくれた。


「中層で冒険者狩りとかふざけんなよ!」


 遅れてハンスとトーイも戦闘に加わり、残りの前衛の一人へ向かって行く。

 ならば俺とリンメイでもう一人を相手だ。


 騒ぎを聞きつけアレックス君達も目が覚めたようだ。

 テントの入り口が勢いよく開かれる。


「皆さん大丈夫ですか!?」


「俺達でなんとかなる! テントに隠れてろ!」


「しっ、しかし!」


残った襲撃者はテントの中から出てきたアレックス君達を見て愕然としている。


「全く香が効いてない!?」


「どういう事だ!?」


「よそ見なんかしてんじゃねぇぞ!」


 ――バゴン!


ハンスの強烈な一撃により襲撃者は盾によるガードごと吹き飛ばされ、トーイに止めを刺される。

動揺して隙だらけなもう一人も俺とリンメイで危なげなく仕留めた。


「ミステル! 射手だ!」


 トーイが叫ぶ方を見ると、最初に弓による攻撃をしてきた冒険者が階段に向かって走って行く。

 先程から矢による援護射撃を行っていたようだがことごとくラキちゃんの結界に阻まれてしまい、一人逃走に踏み切ったようだ。


「……逃がさん!」


 気が付くとミステルは逃げる冒険者の横に移動しており、脇腹に剣を突き刺していた。

 あれがミステルのギフト 【気配遮断】 か!

 いつの間にあそこまで移動していたのか全く分からなかったぞ。





 とりあえず全員倒したようだ。

 どうやら襲撃者は俺達以外に十八層側の階段エリアでキャンプをしていた、もう一組のパーティだったようだ。

 リンメイは気が付くのが遅かったと悔しがっていたが、初めて嗅ぐ臭いから瞬時に鑑定して判定してるのは凄いと思うぞ。


 上の階でキャンプしていたパーティも用心のためか眠りの香で眠らされていた。

 こんな手を使う奴らがいた事に驚きだ。

 今後のためにも、今度大家さんにどんな対策方法があるのか聞いてみよう。


「俺達だけじゃやられてたかもしれない。おっさん達が一緒にいてくれて本当に助かったよ」


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「……たすかった。ありがとう」


「まあ全員無事で良かったよ。――んじゃ、とりあえずコレ片づけるか」


「はぁ……だな。ヤだけどやるか……」


「そうだね」


「……やれやれだ」


 コレとは勿論、襲撃者達の死体の事だ。

 俺とハンス達は死体を階段エリアから外の水路に運んで後始末する事にした。

 しかしその事でリンメイにお叱りを受けてしまう。連中の荷物を漁る事無くそのまま始末しようとしたからだ。


「おっさん! 綺麗事を通すのは低層までだ! それにこいつ等は冒険者狩りじゃないだろ!」


 そうだった、こいつ等は明確にアレックス君を狙っていた。只の冒険者狩りじゃない。

 中層以降で冒険者狩りをする連中は滅多にいない。

 低層と違い中層まで来れる実力者を相手にするためリスクが高いからだ。


「マジックバッグやレア品があるかもしれないのに、みすみす逃すのは只のバカだ! ――はい、さっさと奪う!」


「わ……、分かった!」


「お前らも! 急いで集めるんだよ!」


「おっ、おう!」 「わ、分かった!」 「……うす!」


 リンメイの剣幕に俺達はタジタジとなり、慌てて死体から持ち物を奪う作業に移る。

 そして流れ作業のように死体を階段エリアからすぐそばの水路に投げ込んでいった。




「マジか……、本当にあった……」


 テントの前に並べられた戦利品の中で全員の注目を集めている品が一つあった。

 その注目を集めている小さな鞄は紛れもなくマジックバッグで、俺達が以前貰った物よりも口が若干大きい上位品だった。

 どうやら襲撃者のリーダーと思われる冒険者が持っていた物らしい。


 リンメイはマジックバッグの中身も全部出して並べていく。


「……ふぅ、これで全部かな。――さて、どうやって分けようか」


 そう言ってリンメイは並べられた略奪品を見ていた全員を見回す。

 今回魔法学院の生徒さんは分配の対象外だが、様々な品に三人とも興味深々のようだ。


「たっ、頼む! このマジックバッグは俺達に譲ってくれないか? 他の戦利品は全部リンメイ達の物でいいから!」


「すぐには無理だけど、差額も必ず払うよ! だからお願いだ!」


「……頼む! 俺達マジックバッグがずっと欲しかったんだ!」


 ハンス達の要求にリンメイはやれやれといった顏をしてから、真剣な目をして俺の方を向く。


「そうだなぁ……、ここはおっさんに決めてもらおうか。あたいはおっさんの考えに従う。――と言う事でちゃんと決めてくれよ、リーダー・・・・。ラキもそれでいいだろ?」


「うん、お兄ちゃんに任せます」


 これはリンメイに試されてる気がする。

 愚かな判断をして、二人に失望だけはされたくない。

 さてどうしよう……。


「本当にマジックバッグ以外は要らないんだな?」


「ああ!」


「そうだな……じゃ、次の再構築後、俺達と一緒に二十四層のボス討伐してくれるならその条件を飲むよ。差額も要らない。――それでどうだ?」


「本当か!? 全然それで構わない! ありがとうおっさん!」


「ありがとうおじさん! 俺達もまだ二十四層のボスは倒してないから、こちらとしても助かります!」


「……おっさん恩に着る!」


 三人はリンメイからマジックバッグを受け取り、大喜びだ。

 リンメイはしょうがないなって顏をしつつも何も言わなかったから、どうやらギリギリ合格点は貰えたようだ。


 それからリンメイは俺達の取り分である装備やアイテムの鑑定に取り掛かった。

 もう自分のギフトを隠すつもりは無いようだ。


 リンメイはその都度俺とラキちゃんに必要かどうか確認し、要る物要らない物と分けていく。

 俺は襲撃者全員が持っていた炎の耐性ブローチ(強)が気になった。


「こいつ等全員、炎の耐性ブローチ(強)持ってたんだな。これは全部貰っとこう」


「そうだなー。前に手に入れた(弱)からこっちに替えとくか」


 リンメイはそう言い、俺とラキちゃんに一つずつ渡してくれる。

 残りは大家さんなどが臨時パーティに入ってくれた時のために、予備として残しておく事となった。


「とりあえず装備も全部回収してもらったけど……、うーんどうしようかなあ」


 リンメイは腕組みして唸ると、興味津々に見ている全員をチラリと一瞥した後、俺を見る。


「あたいら三人じゃ持って帰れねえ・・・・・・・よなあ?」


 あっ、これラキちゃんの亜空間収納を見せるか俺に聞いてるのか。


「そうだな、無理・・だな」


「だよなあ」


 リンメイは溜め息をつくと装備を選別し始めた。


「おっさん、この弓は練習用に取っとけ」


 襲撃者で唯一の弓術士が使っていた弓を俺に渡してくれた。


「分かった。初心者用って感じなのか?」


「んーまぁそんな感じかな。強化や補正といった付与効果は付いてないから練習用に丁度いいと思う」


「なるほどね」


 次に、リンメイは盾持ち剣士が持っていた盾を手にする。

 ハンスにぶん殴られた奴の盾はもう使い物にならないので、これは別の奴が持っていた盾だ。


「あれ、これも炎耐性が付いてる。こいつ等ドラゴンとでもやり合うつもりだったのか? ――まぁいいや、これもおっさんが持ってって」


「分かった」


 こいつ等は随分と炎の攻撃に警戒していたんだな。

 狙ったのがアレックス君だ。後々のちのちドラゴンより強そうな女性を相手にするための対策だったのかもしれない……。


「剣は全部カサンドラ王国の工房で作られたそれなりの業物だけど付与効果は無し。寧ろハンス達が持ってるやつのが良い位。売るにしてもこれ全部おっさん担いでいける?」


「えぇ……、大して銭にもならないなら捨ててこうぜ」


「だよなあ。――あと防具。これ全部只人の男物だからおっさんしか使い道無いけど、こいつ等が使ってたやつ使いたい?」


「正直嫌です……」


「じゃこの辺全部捨てるか……」


 結局ハンス達に手伝ってもらい、使わない装備も水路に捨てる事となった。

 俺達の手元に残ったのはお金と宝箱の鍵と魔石、そして魔道具の日用品少々と耐性ブローチに弓に矢筒と盾だけだった。

 眠りの香やその中和薬、ポーション類も全部捨てた。

 中和薬は少し悩んだが、他者が持ってた薬類は正直使いたくないので、これは後で大家さんから買う事にした。


 耐性ブローチ(強)はかなりの額になるだろうが、それでも俺達の手元に残った総額はマジックバッグとは全く釣り合いもしないだろう。

 二人ともゴメン……。


 片付けが終了する頃には見張りの交代の時間となっていた。

 襲撃によりハンス達の睡眠時間は削られてしまったが、全く苦にする事無く見張りを交代してくれた。

 マジックバッグを手に入れた事により興奮で眠れないんだそうだ。


 では俺達はお言葉に甘えて休ませてもらうよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る