054 迷宮
次の日。
俺達は簡単な朝食を済ませると、さっさとキャンプを片づけて移動を開始する。
十七層から仕切り直しなのに再構築まであと二日なので、余りゆっくりしていられないからだ。
十七層へ戻ると、昨晩の内に皆で当たりを付けた方角へ進んで行く。
さて、この当たりを付けた方角なんだが、うちのパーティ三人だけはその先に間違いなく階段がある事を知っている。
昨日キャンプしていた時に、ラキちゃんが階段エリアの座標から判る範囲で十八層のマップを作成してくれていたからだ。
そこには十七層に上る階段と、その階段から進める位置に十九層へ降りる階段がある事を確認していた。
俺達は現れる魔物を屠りながら順調に進んで行く。
ハンス達は昨日の時点であの階段からではボス部屋まで辿り着けない事を確認しているので、随分と探索速度が速いなと感じていたが……。
なるほどな、優秀な魔法士が三人もいるんだ、そりゃ早い訳だ。
魔法士が一人しかいない普通のパーティなら水路を越えるための魔法を一人で六人分も行使しないといけないが、彼らの場合は魔法士一人で自分ともう一人を受け持てば済んでしまう。
俺達とは違い正攻法で全ての水路を越えて進んでたんだな。
「おっさんとリンメイ、良いブーツ持ってんだなー」
「ふふん、良いだろう。うちにはラキちゃんという幸運の天使がいるからな、引きが良いんだよ」
「あはは、羨ましい限りですよ」
「……あやかりてぇ」
ハンス達と行動を共にするので、ラキちゃんの飛行能力を使う訳にはいかない。
そのため、水路を渡る時は俺がラキちゃんを背負っている。
やはり亜空間収納を含め、どうしても注目を集めてしまうラキちゃんの能力は極力隠したい。
十七層では道を間違えそうになる度に、ラキちゃんがそれとなく教えてくれる。
移動しながらのマッピングを今回もラキちゃんが行っているので、違和感は無いはずだ。
俺達が先日見つけたトラップ部屋も通り越し、ずんずんと進んで行く。
「なんか恐ろしく順調に進んでいるな」
「ホントだね、まるで買ったマップ見ながら進んでるようだよ」
「……ラキちゃんはマッパーとしての才能ある」
順調に進んだ俺達は、二時間程で十八層に降りる階段まで来ることができた。
「ちょっと休憩しようぜ。流石にこのペースで進み続けるのは辛い」
「そうだね。皆ここで休憩って事でいいかな?」
「いいよー」
確認を取るまでも無く、皆は既に腰を下ろしていた。
とりあえず休憩しながら、俺達はマップを確認して進む方向を検討する。
「今日中に十九層に降りる階段まで行けるといいな」
「そうだな、そうすれば明日中にはボス部屋まで辿り着けんだろ」
昼食にはまだ早い時間だったので、このエリアではおやつなどを摘まみ水分補給をするだけで再び移動開始する。
今日の残りの時間は全て十八層に費やすのかと思っていたが、三十分も経たずに、もう下り階段まで来てしまった。
「あれ、随分と近くにあったんだな」
「本当だ。――今日はまだ時間があるし、一先ず降りてボス部屋までのルートを少しでも探索しとかない?」
「それでいいぞー」
十九層に降りると、ボス部屋の座標とこの階段エリアの座標を照らし合わせる。
昨日ハンス達が書き上げた部分も含め検討し、まずは最短ルートでボス部屋まで行けないか進んでみる事に。
ところが……。
「ここからもボス部屋には行けない!?」
かなり移動してマップがどんどん完成していくと、ボス部屋まで辿り着けない事に気が付いてしまう。
時間も昼を過ぎてしまったので、結局降りてきた階段まで戻って昼食を取る事に。
「この階段じゃなかったって事か?」
「うーん、一旦十八層まで戻る? この階段までそれほど時間掛からなかったし、他に別の階段があったのかも」
「かもな……」
昼食を取りながらすったもんだしていると、ラキちゃんが控えめに手を上げた。
「はい、ラキシスさん」
「えっと、今いるこの場所からこっちにはまだ進んでないから、もしかしたら上り階段があるかもしれないなーと思います」
ラキちゃんは十九層のマップを指差し、まだ進んでなかった方角を差す。
そして十八層のマップも取り出して空白部分を指差した。
「もし上り階段があれば、十八層のこの区間はまだ空白なので、進んだ先に別の下る階段があるかもしれないなーと思います」
「ふむふむ」
「あー、今回は迂回しなきゃたどり着けないパターンか?」
ラキちゃんは思いますと言っているが、確信を持って言っているのを俺とリンメイは知っているので強く推す。
「俺はラキちゃんの推測に賛成だ」
「あたいも。――飯食ったらこっち行ってみようぜ」
「そうだね、異論がなければ昼食後に向こうの方を探索してみよう」
誰も異論は無いようだったので、休憩を終えるとラキちゃんの推測に従い、昇り階段を探しに向かう事となった。
それから三十分も経たない内に、俺達は上り階段を見つける。
「あったね」
「流石ラキちゃんだ」
「えへへ」
十八層に上り、ひたすら下り階段を求めて探索していく。
これまで書かれたマップの隙間を縫うように道が続いており、十九層のボス部屋のある座標からはどんどんと離れていく。
「今回の迷宮、やらしー作りだなぁ……」
「ホントだね。この先に階段があるとしたら、十九層はボス部屋まで相当長い距離を移動しなきゃいけなくなるよ」
暫く進んだ所で、ラキちゃんが俺の袖を引っ張り合図してきた。
「ん? どうしたの?」
「ここ……」
そう言いマップを指さした箇所は、十七層にあったトラップ部屋と同じような、空間がありそうな壁面だった。
――もしかして!
「リンメイちょっと……」
「ん? どうしたんだ?」
俺達三人は輪になり、リンメイにラキちゃんの示した箇所をトントンと指差して教えてあげる。
「あっ!」
「行ってみていいか?」
「いいぜいいぜ! 見に行こう!」
「おっさん達、何コソコソやってんだ?」
どうやら俺達がコソコソとやってる姿が、ハンス達やカテリナさん達には随分と気になったようだ。
「ん? ああ、ちょっといい物見つけたかもしれない」
「いい物?」
「まぁ見れば分かる。――皆ちょっと付いて来てくれよ」
俺達はハンス達をラキちゃんが示した場所に案内する。
そこは何の変哲もない直線通路だった。
但し、十七層でトラップ部屋を見つけた時と同じように通路は深いプールのように水で満たされ水路と化している。
「カテリナさん達にお願いがあるんだけどさ、水路の始まりとなってるココからあの真ん中辺りまで、こちらの壁側の水を
カテリナさん達は何のために? といった感じの表情をするも、とりあえず行動に移す事を了承してくれる。
「結構距離がありますね」
「一人であそこまではちょっと厳しいかもね」
「一気にやるんじゃなくて、移動しながら進む分だけ
魔導学院の三人はあれこれと思案する。
どうやら、ラキちゃんのように一気に道を作るのは厳しいようだ。
「なんなら、水上歩行であの辺まで行って、あの辺だけ水を
「その方が作業を分担できるので、そうしましょう」
カテリナさん達はそう言い、水上歩行の魔法を行使する人と、水を
早速俺達はラキちゃんが示した箇所まで移動し、水面の上に立つ。
「この辺ですか?」
「うん、そうだね。――じゃ、お願いします」
「分かりました」
セレニス君が水を
そして水の無くなった壁面には……。
「「「あっ!!!」」」
「あったな、やっぱり!」
予想どおり、十七層にあったトラップ部屋へ続く通路と全く同じものが、そこにあった。
「おっし! 行こうぜ!」
驚いている皆をよそに、リンメイはさっさと通路に入って行く。
俺とラキちゃんも続くと、慌ててハンス達も付いてきた。
「よっしゃ! 全く同じだ!」
「「「あっ、宝箱!!!」」」
この隠し部屋にも宝箱が三つ並んでいた。
十七層と同じなら、真ん中のがまたトラップのはずだ。
「マジかよこれ!」
「おじさん達はこの隠し部屋の存在を知ってたんですか!?」
「ああ、実は十七層で偶然見つけてな。十八層でも似たような空間があるとラキちゃんが教えてくれたんだ」
「……早速開けよう!」
居ても立っても居られない感じのミステルがさっさと箱を開けようと催促するが、リンメイに待ったを掛けられる。
「真ん中の宝箱は多分迷宮宿と同じトラップだから気を付けな」
リンメイの言葉に再びハンス達は驚いてしまう。
「本当ですか!?」
「ああ、十七層のはそうだった。階層によってトラップの箱が違うかもしんねーけどな」
「迷宮宿なら今日はここでキャンプしようぜ!」
「それがいいね!」
流石だなハンス達は。ちゃんと迷宮宿の存在を知っているようだ。
「あの、迷宮宿って何ですか?」
「迷宮宿ってのは迷宮エリア内にあるトラップ部屋の事なんだよ。トラップを発動させると入口が閉まって安全に宿泊できるから付いた名前だね」
「へぇー」
俺達が答える必要も無く、カテリナさんの質問にはアレックス君が答えてくれていた。
アレックス君はきっとお姉さんにでも教えてもらったんだろうね。
「とりあえずトラップが発動するか試してみようか」
「そうだな」
「……んじゃ開けるぞ。真ん中だったな?」
――ガコン!
ミステルが真ん中の箱を開けると、前回同様に下り階段一段目がスライドして入り口が閉じてしまった。
「「「おおー」」」
「閉じたね。――おじさん、開ける時も迷宮宿と同じだったんですか?」
「そうだよ。先日は俺のお古の鎧を入れたら開いた」
「分かりました。――皆、今日はここでキャンプという事で良いかな?」
「勿論おっけーだ」
「ああ! ゆっくり寝れるぜ」
見張りが必要無くゆっくりと寝る事ができるので、誰も異論は無く大喜びだ。
「んじゃ、そろそろ宝箱開けていいかー?」
「……さっさと開けよう」
「おう! 悪い悪い。さっきから気になって仕方ねーもんな」
まず右側の箱を開けると、剣が入っていた。形状からして両手剣ぽい。
赤い宝石が付いて柄が炎のような意匠がされており、かなりかっこいい。
「これかなり良いぞ。魔法士の素質無くても
「欲しい!」
力強く手を上げたのはハンスだった。
まあ今ここにいる面子で両手剣扱うのはハンスだけだしね。
「他にはいないっぽいね。――じゃこれはハンスが買い取りと言う事で」
「いやっほぅ!!」
ハンスは大喜びで宝箱から剣を取り出すと、早速鞘から抜いて
――ゴウッ!
おおっ、アルシオーネさんほどの派手さは無いが、刀身にうっすらと炎の層が出来ているのが見える。
「うっ……、これ俺の
「インパクトの瞬間だけか、突き刺した後で発動するだけでもいいかもね」
「そうだな。いざって時に使えるだけでもかなりでかい。――やったぜ!」
「……もーいいか? さっさと次いくぞ」
続けて左側の宝箱を開けると、美しい宝石の付いた小さなペンダントトップのあるネックレスだった。
女性陣から歓声が上がる。
「これもかなりいいな。
今度は全員から歓声が上がる。
このネックレスはラキちゃんがギリメカリスに目からビームをぶっ放した時のような感じに、大気から魔力を吸収するのか。
「なっ!? マジかよすげー欲しい!」
「これ欲しい奴ー?」
全員が手を上げた。
魔導学院の三人も手を上げている。
「まっ、そうなるよなあ……。――クジで決めるか?」
「こっ、これで決めようぜ!」
そう言いハンスが掲げたのは、ハンスの持ってきてたカードゲームだった。
「いいね。――じゃ、異論がなければ夕食後にこのネックレスを賭けた勝負といこうか」
それから皆、慌ただしくキャンプの準備を始める。
この日の夜はネックレスを賭けたカードゲーム大会となった。
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