052 ダンジョンでの野営 1
魔物を屠りつつラキちゃんが示した場所まで進んでみると、そこは普通に直線通路の途中だった。
ただし、下は水路なので普通は歩いてこれない。
「ちょっと水をどかしてみるね」
そう言い、ラキちゃんは水魔法で通路兼水路の壁面周辺の水をどかしてしまう。
すると、そこには人一人が通れるくらいの通路が存在していた。
「あった! 隠し部屋への入り口だ!」
俺達は興奮しながら通路の中に入って行く。
中には数段しかない階段があり、ラキちゃんが示した空間に続いていた。
中を覗くと、なんと宝箱が三つも並んでいるじゃありませんか!
「おおお! やった!」
「わーい!」
「やったな! ラキシス様様だぜ!」
宝箱が三つも並ぶのなんてボス討伐後くらいしか無いので、俺達は大興奮だ。
早速端から開けてみる事にする。
「あっ、軽装鎧だ。――効果は衝撃ダメージを少し緩和してくれるっぽい。おっさんよく吹っ飛ばされるから使ったらどうだ?」
「うっ、そっそうね……。じゃありがたく使わせてもらおうかな」
「おう」 「うんうん」
俺は宝箱から軽装鎧を取り出し、早速装備させてもらう。
なんだかんだで二人には結構心配されてるようだ。もう少し精進せねば。
俺が着替えている内に二人は二つ目の真ん中の宝箱を開けだす。
――ガコン!
「「「えっ!?」」」
二人が宝箱を開けると、後ろの方から何やら音がした。
慌てて振り向くと、俺達が入ってきた下り階段の箇所が蓋をされてしまっている!
――トラップか!
「気を付けろ!」
俺は慌てて叫び、とりあえず武器だけは構える。
しかし何も起こらなかった。モンスターが溢れ出てくるような事も無い。
「もしかしてここって迷宮宿と同じ構造かも?」
リンメイが言うように、たしかに宝箱の中身は空なのに箱は崩れてしまわず残ったままだった。
「迷宮宿のトラップって、この空箱に何でもいいから入れて閉めれば良かったんだっけ?」
「そうそう」
「んじゃ、俺が今脱いだこの軽装鎧いれてみよう」
俺がこれまで使っていた、何の付与効果も付いてなかった軽装鎧を空箱に入れて閉めてみた。
すると、後ろの方から再び音が聞こえ、蓋となっていた階段の下り一段目が元の位置に戻っていた。
「開いたね」
「ほんとだ」
「いいじゃん。ここ、迷宮宿として使えそうだな」
「たしかに。階段エリアでの宿泊だと交代の見張りが必要だったから、ここは良いかもしれないね」
「他の層にも似た部屋があるかもしれないから、それ探しつつボス部屋までのルート探索してみようぜ。無くてもここに戻ってくればいいし」
「了解だ」 「了解でーす」
「んじゃ、とりあえずもう一つの宝箱開けてみようぜ」
トラップ箱とは別に、まだ開けてない宝箱が一つ残っている。
流石にこれもトラップって事はないだろう。……ないよね?
「おっ、外套だ。効果は少々の認識阻害付き。なかなか良いのかな? これ」
良かった。こっちは普通の宝箱だったね。
中に入っていた外套はフード付きでマントのように羽織るタイプだった。
これ、隠密行動を取るならかなり良い効果じゃないか。
どうやらリンメイはイマイチこの価値が分かっていないっぽいな。
「認識阻害は狙撃手や斥候する時に敵から見つかりにくくなるから便利だぞ。リンメイは外套持ってないだろ? これ使いなよ」
「うん持ってない。……なるほどねぇ、確かに凄く便利だな。――じゃ、遠慮なく使わせてもらうぜっ」
「「どうぞどうぞ」」
ダンジョン内だと外套はあまり使わない事が多いが、俺は野外での薬草採取をするためにレインコート代わりに持ってるからな。
ラキちゃんもおしゃれな外套をメカリス湖に行くときに買ったから持ってるんだよね。
ひとまず俺達はトラップ部屋から出て、先に進む事にする。
まずは今日の目標にしていた十八層に降りるための階段だ。
一時間以上掛っただろうか? なんとか十八層に降りる階段まで来ることができた。
ちらほらとキャンプの準備を始めている冒険者パーティが見られる。
とりあえず十八層に降りて、先程のような隠し部屋が無いかラキちゃんに探してもらおう。
階段を降りると、こちらにもキャンプの準備をはじめている冒険者パーティがいた。
ラキちゃんのマッピング作業は見られたくないので一先ず階段エリアから離れようとしたら、突然俺の 【虫の知らせ】 ギフトが発動した。
――なんだ?
俺はギフトの指す方向を向くと、階段エリアの角を陣取ってキャンプを始めようとしている冒険者パーティが目に入った。
あれは……ハンス達じゃないか!
もしかして今回の警鐘は、そのまま進まずに彼らとコンタクトを取れって事なのか?
「二人ともちょっとごめん。あそこのパーティと話してきたい」
「はーい」
「ん? いいけど知り合いか?」
「まぁね」
俺は二人を伴い彼らのキャンプに向かった。
ラキちゃんは一度彼らと会っているのですぐに気が付いたようだ。
「よぅ、おまえら久しぶり」
「あれっ? おっさんじゃん。久しぶりー」
「お久しぶりですおじさん」
「……おっす」
俺達の来訪に気が付き、ハンス達の残りのパーティメンバーも挨拶をしてくれる。
なんと残りのメンバーも見知った顔だった。
「こんにちはケイタさん、お久しぶりです」
「こんにちは、以前はお世話になりました」
「こんにちは、お久しぶりです」
一人は冒険者ギルドの魔法講習の講師でもある魔導学院のカテリナさんだ。
もう一人はカテリナさんと一緒にいた、クラックパイソンを逃がしてしまった彼だ。
彼の名前はセレニスと自己紹介してくれた。
そして最後は、こちらも魔法講習の講師として何度かお世話になったアレックス君だった。
と言う事はハンス達は今回、魔導学院の生徒の護衛か。
「ハンス達は今回魔導学院の皆さんの護衛なのか?」
「ああそうだけど……っておっさん達まさか三人でここまで来たのか!? しかも一人はラキちゃんだし!」
「凄いですねおじさん。いつの間にそんなに実力付けたんですか?」
「ああー……、俺の実力というより、うちの二人のメンバーが優秀だからな」
「……マジかよ」
ハンス達の視線はリンメイとラキちゃんに集中する。
二人はちょっぴり居心地悪そうにはにかんでいた。
「あー思い出した。カイトの奴等、おっさんのメンバー引き抜こうとして嫌われたって言ってたな、そういえば」
「あーあれね。おじさん除け者にしたらラキちゃんに嫌われるに決まってるじゃないか。あいつらおじさんとラキちゃんが家族って知らなかったんだろうね」
「……バカだなあいつら」
そういえばあったな、そんな事……。
二人の絆を感じる事ができた日でもあったから、良い思い出でもあったりする。
「ところで、おまえらは今日はここでキャンプするのか?」
「おう、おっさん達も一緒にするか?」
「一緒にしてもらえるとこちらとしても助かります」
「……見張りが楽になる」
ああそうか、護衛依頼だから依頼主である魔導学院の生徒さんには見張り頼めないもんな。
「――そうだな、じゃ俺達も今日はここでキャンプしようかな」
俺の言葉にリンメイはビックリして詰め寄り、耳打ちして来た。
「おいおっさん、まだ先に進むんじゃないのかよ!?」
「ごめんリンメイ、俺のギフトが発動した。――何かある」
俺の言葉にハッとしたリンメイは、「しょーがねーなー」 とキャンプを了承してくれた。
ハンス達は携帯食料とドライフルーツをメインに、後は魔動コンロでお茶を沸かすだけの食事にするようだったので、俺は鍋を取り出してちょっとしたスープというかシチューのような汁物を作ってあげる事にする。
とはいえ、作るのは我が家の三ツ星シェフラキシスさんですけどね。
その間に俺はテントの設営を開始する。
今回あちらのパーティは女の子がカテリナさん一人だったので、うちのレディ達と一緒のテントを使ったらどうかと誘ったら、とても喜んでくれた。
雑魚寝はともかく、着替えなどは困っているんじゃないかなと思ったからだ。
そのため、ハンス達のテントはアレックス君とセレニス君が使い、俺達のテントはリンメイとラキちゃんとカテリナさんが使う事となった。
俺はハンス達と一緒にいつでも動けるように、見張りの横で寝る事にする。
それぞれ役割を分担して、手際よくキャンプの準備を進めていく。
ふと気が付くと、リンメイはギルドの講習に行った事がないはずだが、なぜかアレックス君と顔見知りのようで軽く挨拶をしていた。
「リンメイはアレックス先生と知り合いなのか?」
「ん? ああ……」
あまり全員に聞かれたくない内容なのか、俺に耳打ちしてくれる。
「アレックスはアルシオーネさんの弟なんだよ」
「えっ!? そうだったの?」
「本人は伏せてるみたいだから内緒な?」
「分かった」
それぞれの準備も整い、ラキちゃん力作のシチューが乗った魔動コンロを皆で囲む。
ラキちゃんのシチューはとても好評で、皆感謝してくれた。
その後は就寝まで、お茶を飲みながらまったりと雑談をして過ごす事に。
「カテリナ先生達は今回何の用があってダンジョンに潜ってるの?」
「はい、今回私達のグループは卒業用の論文に浮島を題材にする事にしたんです。ですので二十層を目指してます」
「なるほどねー」
次のフィールドエリアである二十層は浮島だったので、なるほどなって思った。
浮島といっても水の上に浮かぶのじゃなくて、この都からも見える魔王様が住む浮島などの、空中に浮いている陸地だ。
薬草一つとっても高山植物とはまた微妙に違った植生らしく、そこでしか手に入らない薬草も結構あると大家さんは教えてくれた。
昔は入手手段が少なく、幻の薬草とまで言われていたのもあったらしい。
そのため、この二十層はかなり貴重な島と言われている。
「しかし凄いなーお前ら。魔導学院の生徒さんの護衛って事は、もう二十層は踏破済みって事なんだろ?」
「まーなー」
「カテリナさん達は良い冒険者を引き当てたね。こいつ等優秀でしょう?」
「はい! 皆さんとてもお強くて大変助かってます」
俺の問いかけにカテリナさんはにこやかに微笑んで答えてくれた。
もうそれを聞いたハンス達はデレデレしっぱなしだ。
「おっさん達はボス討伐予定で潜って来たのか?」
「ああ、一応そのつもりだけど」
それを聞いたハンス達三人は、顔を見合わせた後頷き合った。
「まぁおっさん達なら教えてやってもいいか」
「そうだね、一緒にキャンプしてくれて助かったし」
「……ラキちゃんのシチュー美味かったからな」
「あのなおっさん、この階段から進んでもボス部屋までは行けねーぞ。実は俺ら戻ってきた所だったんだ」
「なっ!? マジかよ」
俺達三人は驚愕してしまう。
危なかった……、ハンス達に教えてもらわなければ、かなりの時間を無駄にするところだったよ……。
「なあ、それって水路のせいで行けなかったって事じゃないのか?」
「いいや、道そのものが続いて無かったんだよ。水路だけなら優秀な魔法士が三人もいるからなんとかなったんだけどね」
リンメイの質問に、トーイが丁寧に教えてくれた。
そうだよなあ、魔導学院の生徒さんが三人もいるんだ、水路なんか問題無いはずだ。
「貴重な情報ありがとう。助かったよ」
そうか……。ってことは、明日は十七層に戻って別のルート探さないといけないのか。まいったな……。
「なあ、おっさん達もボス部屋目指すならさ、明日から一緒に行動しねーか?」
「魔物からのドロップアイテムが出なくなるデメリットはありますが、ボス部屋目指すならメリットは十分にあると思います」
「……正直、俺達さっきまで再構築までに辿り着けるか不安だったんだ」
これはありがたい申し出だ。
俺達も優先したいのは二十層踏破だから、ドロップアイテムなんか無視してでも再構築までにボス部屋まで辿り着きたい。
「俺は一緒に行動して良いと思うが、二人はどう?」
「問題ねーぜ」 「おっけーでーす」
「――と言う事だ。こちらとしても助かるよ、よろしくな」
こうして俺達はハンス達のパーティとボス部屋まで一緒に行動する事となった。
ハンス達にはかなり感謝されたが、むしろ俺達の方がお礼を言いたかったほどだ。
ハンス達に教えてもらわなければ、十九層まで行って戻ってくる羽目になっていたからな。
それからお互いのマップの擦り合わせをして明日向かう方角を検討した後は、交代で見張りをしてさっさと就寝する事となった。
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