051 高層を目指す
「とりあえずその暗殺企ててる三人を始末すればいいんじゃないのか?」
『紅玉の戦乙女』 の一人、オーガのマイラさんが提案する。
リンメイのように姉御肌な口調で喋る彼女は、パーティの盾役を担っている。プラチナブロンドでとても綺麗な女性だ。
「彼女達を消しても、第一王子から別の刺客を送られてくるだけですわ」
「……王子様がネックだな」
思わず呟いてしまった俺の言葉に皆の視線が集中してしまい、慌てて口を押えてしまう。
だがなぁ……実際問題として、この件を円滑に解決するにはセリオス王子自身に自分の立ち位置を理解させないといけない。
でないと延々と危機が生み出されるだろう。
「そうね、彼が一番の問題ですわ。彼に現状を理解させ、エルレインさんの行動に障害とならないようにしないといけません」
そう言ってから、アルシオーネさんは思わずため息をついてしまう。
「でもああいう方は話しても納得できずに事態を悪化させる行動に出てしまいがちなんですよね。それをエルレインさんも危惧しておいででした。――やはり敵対者を目の当たりにさせて現実を受け止めさせるしかないと思います」
「元凶の本人が障害となるってホント厄介ね」
『紅玉の戦乙女』 の一人、水玲人のファルンさんはやれやれといった感じに呟く。
ファルンさんは瑠璃色の髪をした美人さんで知的な感じだ。水系の魔法を得意とし、パーティの回復役も担っている。
「ホントね」
「てことは、事が起こった後で救出しないといけないのか? めんどくせーな」
ウンザリした感じで言い放つマイラさんに激しく同意してしまう。
事が起こった後と言う事は、ダンジョン高層での救出劇となってしまうからだ。
「ならとりあえずはその神官には話を通しておいたほうが良さそうね?」
エルレインと共に殺される予定の神官サーリャの処遇について、『紅玉の戦乙女』 の一人であるハーフエルフのヒスイさんが提案する。
ヒスイさんは名前のように美しい翡翠色の髪をした、これまた美しい女性。
因みに彼女は、なんと大家さんとミリアさんの姪に当たるそうだ。大家さん同様、精霊魔法を得意とするらしい。
「ですわね。少しでも事態を円滑に進めるためには、サーリャさんを仲間に引き込んだ方が良いでしょうね」
それから少しの間アルシオーネさんは思案すると、おもむろに俺の方を向いた。
「ところでケイタさん、このお手紙はどのような経緯でエルレインさんから受け取る事ができたんです?」
「えっ…………。あー、えっと、その……」
突然話を振られてしどろもどろになり、目を逸らしてしまう。
……ラキちゃんが聖女だというのはバレてるっぽいが、それでもあまり言いたくないし、何よりこの話には深入りしたくない!
「ケ・イ・タさん?」
くっ……、アルシオーネさんの微笑みが怖すぎる!
結局手紙を受け取った経緯を話す事となった。トホホ……。
「……そうでしたか。でしたら次の聖女の御勤めに
ああそうだな、仮面付けてるからそれが可能だった。
次回の聖女の御勤めからはラムリスは来ないので、今回の頭数と変わらないのも良い。
「そうですね……、大丈夫だと思いますよ」
「ありがとうございます。これでエルレインさんと直接話す機会ができました」
たしかに、手紙等でやり取りするよりも、直接会って話をした方が良いもんな。
こうして、五日後に再びエルレインさんの所へ行くときは、アルシオーネさんも一緒に行く事となった。
「あーあ、王子様が諦めて国に帰れば全て丸く収まるのになぁ……」
「全くですわ……」
俺の呟きに、その場にいた全員がやれやれといった顏でウンウンと頷いていた。
ホント、あの王子様次第なんだよなあ、今回の件て。
はぁ……、とりあえず用件も済んだし、そろそろお
「さっきの流れからして、あのエルレインて人を助けるのは高層って事なんだよな?」
アルシオーネさんの所からの帰り道、妙に口数の少なかったリンメイは突然、神妙な面持ちで話を切り出した。
「だろうね。――俺達にはまだまだ行けない場所だから、アルシオーネさん達に任せるしかないよ」
「そうなんだけどさ。でもさ……んー、なんかヤな予感がするんだよなー。――なぁ、あたいらも少しでも先に進めるようになっておかねーか?」
「ん? ああ、別に構わないよ。ラキちゃんもいいかな?」
「オッケーでーす」
「ありがとう!」
アルシオーネさん達は確かに強いが不安なのも分かる。連中が増援を呼んだってのも不安の一つだった。
リンメイがお姉さんを心配になるのも頷ける事なので、俺達も高層に行けるようにまた明日からダンジョン探索を頑張ろう。
翌日、先日十五層に到達したばかりの俺達は、もう二十層に向けてダンジョン攻略を開始する。
残り十日前後で三十層到達は流石に無理だろうが、少しでも進んでおきたいからだ。
今回俺達は念のために宿泊用の装備も準備してきた。
ラキちゃんの亜空間収納に入れさせてもらっているので、本当に助かる。
俺達は早速十五層の
十六層から十九層は迷宮エリアに巨大な水路が出現する。
身体強化しても飛び越える事が困難な幅の水の領域が迷宮の迷路に関係無く存在しており、通路が丸々水面となっている箇所もあったりする。
そのためこの区間は攻略が複雑になり、水路を回避して普通に攻略しようとすると前回よりも移動距離が長くなってしまう。
普通に攻略しようとすれば――だが。
そのため、このエリアで重宝されるのは水面歩行を可能にできるくらいの水魔法士か、歩けるくらいに水面を凍らせる事ができる氷魔法士だ。
ただそれらの魔法はパーティ全員分を賄うためにかなりの
そのため、大抵はここぞという箇所でしか行わないよう、
だが俺達三人は水面を物ともせず普通に迷宮を進むように攻略して行く。
俺とリンメイはブーツの力があるし、ラキちゃんは普通に飛んで行けてしまうから。
ただし、こんなエリアなので水生の魔物には十分気を付けないといけない。
俺達はアサルトフィッシュという砲弾のように飛んでくる魚の魔物や、カエルの魔物のビッグトード、鎧を纏ったようなワニのアーマークロコダイルなどを倒しながら進んで行く。
水中に引きずり込まれたらかなり危険なので、このエリアでも投擲からの魔法攻撃を有効に活用している。
「うわっ! 何だコイツ!」
「うわーん! 気持ち悪いー!」
その中で、ヤツメウナギみたいな敵のイビルアイズってのがリンメイやラキちゃんに大不評だった。
何でかって言うと、ぶっちゃけキモイから。まだ遭遇した事ないけど、サンドワームのような口をしているし、ヤツメウナギと違い、本物の目がいくつもある。
これまでの冒険で生理的に無理ってなるキモイ姿の魔物ってそうそういなかったから、初めて見た時は妙に衝撃だった。
ラキちゃんが 「イヤー!」 って涙目になって叫びながら目からビームをぶっ放した時は流石に焦ってしまった。
とりあえず、べそをかいてしまったラキちゃんを宥め、なんとか進んで行く。
「あっ、宝箱!」
水路により隔離された行き止まりは宝箱が残っている率が高いのが嬉しい。
早速開けてみると、中身は忍者漫画などでよく出てくるアレだった。
「これって鉢金って言うんだっけ? 効果はあたいの付けてるサークレットと同じで頭全体を革の兜程度の保護だな。――おっさん使ったらどうだ?」
「うんうん」
「いいのか? ならありがたく使わせてもらうよ」
俺は被ってた革の帽子を鞄に仕舞い、早速この鉢金を使わせてもらう事にした。
投擲術と相まって忍者な気分になるでござるよニンニン。
「ところで、今日はどの辺まで進んでみるんだ?」
「そうだなぁ、この階層って普通に攻略するなら一日一階層だけど、俺達はショートカットできてるからな。十八層に降りる階段を目標に進んでみようか?」
「「りょうかーい」」
この階層の魔物は前の階層のゴーレムと違って生身なので、俺の雷魔法もしっかりと効くのが助かる。
アーマークロコダイルのようにでかくて硬い敵も、マヒさせて弱点を斬りつければ難なく倒せてしまう。
魔物の弱点はリンメイが教えてくれるので本当に助かる。
段々と慣れてくると、投擲による魔法を使わずともそのまま弱点を斬って倒せてしまう位には動けるようになってきた。
立ち回りや剣の腕も上げるためにはこれはこれで良いのかもしれない。
質量のある敵からの回避や、攻撃を仕掛ける時の立ち回りはダンジョンを攻略する上で絶対に必要だからね。
この点でもリンメイはとても良いお手本となるので本当に助かる。リンメイ様様だ。
水路の上を進むショートカットのおかげか、十七層へ下る階段までは昼前には到達してしまった。
勿論十七層への階段はこれだけでは無いのだが、購入したマップから正解だろうと当たりを付けた階段だった。
まだ時間的に早かったからか、今の所キャンプや休憩しているパーティはいないようだ。
相談した結果、少し早いがここで昼食を取る事になった。
俺達がマップを眺めながら昼食を取っていると、ちらほらと他の冒険者パーティも階段周辺で休憩をとりにやって来る。
やはり俺達が三人だけなのは目立つようで奇異の目に晒されている感じだったが、直接何かを言ってくるわけでもなかったので無視をする。
しかしやはり居心地は悪いので、俺達は昼食が終わるとさっさと行く事にした。
十七層に降りてから少し移動して人目が付かない場所まで来ると、ここからはまたラキちゃんのマッピングの出番だ。
昼食中にどちらの方向に進むか決めていたので、そちらの方角に向けて作成してもらう。
いつものように物凄い勢いで作成していくのだが、突然ラキちゃんは疑問の声をあげた。
「あれ?」
「ん? どうしたの?」 「どしたんだ?」
「えーっとね、ここ。道の無い空洞の箇所があるなーと思って」
そう指差す箇所は、たしかに周りを壁で囲われていた。普通に攻略する限りでは、ただの壁として見過ごしてしまうだろう箇所だった。
「おおっ! もしかして隠し部屋かもしれねーじゃん! 行ってみようぜ!」
「おっけーだ!」
こういう隠し部屋的な謎の場所ってゲームだったら大抵何かあるから、なんかワクワクしてしまう。
早速俺達はその場所まで進んでみる事にした。
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