033 新しい仲間
最近はダンジョン五層のフィールドエリアに薬草採取に行きつつ、そこで投擲の練習もしている。
右手で剣を使うので左手での投擲ができるように訓練しているが、利き手の右手でも同じように練習している。
ハンス達やキリム兄妹は、自称勇者パーティの王子様達との一悶着で俺の行動を好意的に見てくれた人達が結構声を掛けてくれるらしく、最近は臨時パーティを組む相手に困らないそうだ。
縁とはどこでできるのか分からないもんだね。
ある日の晩、夕食後いつものように皆でくつろいでいると、ラキちゃんが報告があると言ってきた。
「あのね、ラクスお姉ちゃんとサラスお姉ちゃんに相談したら私もお兄ちゃんと一緒にダンジョンに行っていいって!」
大家さんとミリアさん、そして俺は 『やっぱりね』 という感じで顔を見合わせながらも、それぞれ祝福してあげる。ラキちゃんは御満悦だ。
ならばラキちゃんの装備を整えてあげないといけないな。
「それでね、二人が目立たないように装備くれたの」
おお、流石ラクス様達だね。俺が考える必要も無く準備してくれたのか。
「こっちがサラスお姉ちゃんが考えた女ドワーフ戦士なりきりセット」
そう言って亜空間収納から取り出したのは、禍々しいオーラを放つフルフェイスの全身鎧一式だった。
なんだこれ……。こんな暗黒騎士みたいな装備して歩いてたら絶対にヤバい奴が現れたと思われるだろ。
「えぇ……、これ着て歩いてたら余計に目立たない?」
ミリアさんも若干引き気味だ。
「みんな避けて通るから大丈夫って言ってたよ?」
「まぁたしかにそうだろうけど……」
どう考えても目立たないどころか注目の的になる気がするよ……。
まぁ、まだラクス様の装備もある事だし、そちらに期待しよう。
「こっちがラクスお姉ちゃんが準備してくれた神官セット」
なるほど神官か、いいねいいね。ただこの神官装備、やけに豪華すぎる気がする……。
「この聖法衣、教皇聖下がお召しになる物と同じです。迂闊にこれを着ていったら面倒な事になるんじゃないかしら……」
大家さんが困惑気味に教えてくれた。
教皇ってここアルティナ神聖皇国の国家元首じゃないですか。
そんな方と同じ格好してたらダメでしょ……。教会関係者がすぐに駆けつけてきそうだ。
なんかラクス様もサラス様も目立たないというより、最高の装備を与えた気がする……。
アレだ、 『一番いいのを頼む』 って言ったら出てくるようなやつだ。
「うーん、どっちも目立ち過ぎな気がするなー。ちょっと保留かなこれは」
「えー……」
ラキちゃんは途端にしょんぼりとしてしまう。困ったな……。
「えっと、でも神官として振る舞うのは良い考えですね。この都市だと街中なら神職の方に手を出す輩も少ないって利点がありますよ」
「そうね。ラキちゃんは前衛だと目立ってすぐに噂になるだろうから、神官の方が良いわね」
大家さんが助け舟を出してくれ、ミリアさんもフォローしてくれた。
そうだな、ラキちゃんは前衛で戦わない方が良いと思う。目立ち過ぎる。
それに神官なら普通に神聖魔法使っても 「これは回復魔法です」 と言って誤魔化せる利点があるね。
「なるほどそうですね。迂闊にラキちゃんの強さを見せない方がいいですもんね。――ラキちゃん、ラクス様にもう一度お願いして 『普通の神官用装備』 を準備してもらう事ってできないかな?」
「えっ? うん! ちょっと聞いてみるね!」
結局ラクス様が 『普通の神官用装備』 を準備してくれる事となり、この件は落ち着く事となった。
と言う事で、今日はラキちゃんの初ダンジョン探索。キリムとサリムにパーティをお願いしておいたので、今日はキリム達の宿に向かっている。
いつものようにダンジョン前広場の噴水で待ち合わせでいいのにと思ったが、なんか今日は宿まで来て欲しいと頼まれてしまった。
結局ラキちゃんも冒険者に登録しておいたほうが良いとの事で、ダンジョンに行く前にミリアさんの所へラキちゃんの
ラキちゃんはパリッとした新品の神官服を着ている。うん、これならどこから見ても普通の神官さんだね。
キリム達が利用している宿の前まで来たら、二階の窓から顔を出してたサリムがこちらに気が付いて手を振る。
「おはよー、今行くから下で待っててー」
「わかったー」 「はーい」
俺達も手を振って返す。
暫くしたらキリムとサリムが出てきた。
早速お互い朝の挨拶を済ませ、ダンジョンへ行こうかとなったのだが。
「あのね、今日宿まで来てもらったのにはワケがあるの。今日はもう一人パーティに入れて欲しい子がいるんだけど、二人に協力をお願いしたいなーと思って」
「パーティは別に問題ないけど、協力って?」
「うん、その子ちょっとダンジョン探索で色々とこじらせちゃったみたいでねー。なんとか取り返しがつかなくなる前に立ち直らせたいなーと思って……」
「んー、まぁよくわからないけど、いいよ」
「ありがとう! じゃ、まずは部屋から引きずり出さないといけないから皆来て」
そこからなのか!
扉を開けたそこにはまだベッドで丸まったままの虎人の少女がいた。とても端整な顔立ちの少女なんだが、気持ちぽっちゃりしている……。
サリムは遠慮無しにずかずかと入って行く。
「さあダンジョン行くわよ!」
「やっぱり今日は止めとく……」
「あんたそれ以上太ったら装備入んなくなっちゃうでしょ! そうなったらそれこそダンジョンいけなくなっちゃうわよ!」
サリムは問答無用にベッドから引っ張り出そうとする。
「ちょっ、ちょっ、ひっぱるな!」
「折角パーティ組んでくれる人達連れて来たんだから! グズグズしない!」
「……なんだよ弱そうなおっさんにガキンチョじゃねーかよ」
チラリと俺達の方を見た虎人の少女はボソリと呟いた。
辛辣ぅ……。まあそうなんだけどさ。
「そうそう、俺達へなちょこだからさ、君がパーティーに入ってくれたら心強いなー」
「うんうん、へなちょこー」
「ちょっとラキちゃん手伝って。今からこの子着替えさせるから。――男性陣はちょっと外で待ってて」
そう言われ、俺とキリムは外に追いやられてしまう。
なんか中から 「きつい! 入んない!」 とか聞こえてくるけど大丈夫なんだろうか……。
「すみません、なんか厄介事に巻き込む感じになってしまって……」
「大丈夫だよ。そういえば彼女、講習で見た事無いね」
「はい。虎人やオーガといった戦闘能力の高い種族はなかなか講習には来ませんからね。彼女も以前誘ったんですが 「そういうのは弱いヤツがするもんだ」 と言って来ませんでした」
「なるほどね、そりゃ見ないわけだ。ところで、彼女は普段ソロで活動してるの?」
「そうですね、多分ソロだと思います。サリムからの情報なんですが、どうもパーティ組んでもすぐに仲違いしてしまってるみたいで、固定のメンバーもいないみたいです」
ありゃりゃ、ぼっちなのか彼女は。
「すぐ喧嘩でもしちゃうの?」
「うーん、彼女、授かったギフトが戦闘に適したのじゃないらしくて、パーティでの戦闘中に自分よりも優位に立たれるとすぐに卑屈になっちゃうらしいんですよね。それで雰囲気悪くしてるみたいで……」
「それはまた……。結構こじらせちゃってる感じだね」
「そうなんです……。最近はパーティに入れてもらうのも難しかったらしいです」
サリムが聞いても、どんなギフトかは教えてもらえなかったらしいが、戦闘には適していないらしい。
プライド高そうだもんなあ。戦闘能力の高い種族でそれはかなり堪えたんだろうな。
「それに、久々に入れてもらえたパーティで男達に襲われそうになって、それからダンジョンも敬遠しがちになって先ほどのような引きこもりの状態が続いているんです」
「うわー、それは辛いな……」
可哀想に。久々にパーティに入れたと思ったら襲われそうになったなんて、相当傷ついただろう。
ちょっと許せんなそいつら。もしも遭遇したらギッタンギッタンにしてやりたい。
「それでサリムが夜中に泣いてる声聞いちゃって……」
「あー、そりゃほっとけないわな……」
それから暫くして、なんとか装備を整える事ができた少女を連れ出してきた。
サリムとラキちゃんはやり遂げたって感じに額の汗を拭っている。まだダンジョン行ってもいないのに大丈夫かな?
それから、まずは自己紹介をする事に。
「俺ケイタって言います。よろしくね」
「私はラキシスです。よろしくお願いしますっ!」
「あたいはリンメイ。……よろしく」
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