ルミナスコインと待ち受ける審判者
ことの経緯を聞き、ミーティスは頭を痛そうに押さえていた。なんせ起きた出来事が出来事だからだ。
その一部始終を話したクリスとリリアは、そんな学園長を見つめる。リリアに関してはどこかすがっているような目だった。
「災難でしたね。まさか、突然そのような事態になるとは」
『ホント突然すぎて困ります。これどうにかなりませんかっ?』
「どうにかしてあげたいところですが、レミア先生待ちですね」
ミーティスは困り気味に笑った後、疲れたように息を吐き出した。
どうやらとても困っている様子である。
そう感じ取ったクリスだが、それでも聞かなければならないことがあるので聞くことにした。
「リリアは、これからも学園に通えますか?」
「ご心配なく。当然の権利ですよ。ただ、その姿ですといろいろと困ることが起きるかと」
『確かに。これじゃあペンは持てないし、ノートも取れないよ』
「リリアはいつも寝てるからそこは大丈夫」
『なんでよ! 確かに飽きて寝ちゃっているけどさ!』
「本当に困ったら私のノートを見せてあげるよ。それより、体調はどう?」
クリスは優しく微笑みながらリリアに問いかける。
うーん、と少し考えた後、彼女はクリスの質問についてこう答えた。
『特に変わりはないかな。というか前より身体が軽いし!』
「それならよかった。お腹は空いてない?」
『あ、言われれば。でもこの姿じゃあ食堂に行けないし』
「私が持ってきてあげるよ。だから一緒に食べよう」
『うん! 食べよう食べよう!』
だんだん元気を取り戻してきたリリアに、クリスは嬉しそうに笑う。
そんな二人を見て、ミーティスも優しく微笑んでいた。
いろんな問題が山積しているが悩んでいても仕方がない、と一同は考える。レミアの禁書解読ができるまで、一旦解散しようとしたその時だった。
突然、リリアの身体が光り出したのだ。
『どうしたの?』
「リリアが光ってる」
『へ?』
クリスに言われ、リリアは自分の身体を見る。そしてその輝きを確認した後、驚きのあまりに『なんじゃこりゃー!』と叫んだ。
唐突に起きた不思議な現象に一同はリリアに注目する。慌てるリリアはまた泣き出しそうになりながらクリスを見つめた。
とても不安そうな目だ。
クリスはオロオロしている彼女を安心させるために、その身体を持ち上げて抱きしめた。
『クリスっ?』
「大丈夫。私がいるから」
『だ、ダメだよ! ああ、こんなに弾力が。これが、クリスのおっぱ――』
「今とても真剣」
『……ごめんなさい』
リリアはとても素直に謝った。そしてグスグスとしながら泣き始める。
おそらくリリアなりに心配させまいと気丈な振る舞いをしていたのだろう。クリスはそれに気づき、泣き止むまで抱きしめていた。
そんなクリスの優しさに安心したのか、次第にリリアは泣き止んでいく。
心地いい温もりもあるためか、気がつけば彼女は小さな寝息を立てていた。
クリスは落ち着いたリリアをずっと抱きしめる。だが、身体から放たれる光は消えない。
それでも抱きしめていると、ザラつく声が脳内に響いた。
『美しい友情だな』
クリスは顔を上げる。すると目の前に、奇妙な存在が立っていた。
顔全部を隠したマスクに、黒いハット。黒いスーツと白いネクタイをした男性らしき何かが彼女を見下ろしている。
「誰?」
思わずクリスは警戒した。するとその男性は振り返り、座っているミーティスに頭を下げる。
ミーティスは思いもしないことに呆気に取らせていると、いつの間にか持っていたステッキを回しながら自身の名を口にした。
『これは失礼した。私の名前はバランズだ。今回、資格を得た君達にいろいろと説明をするために参じた存在、と言っておこう』
「資格? 説明?」
『ああ。まあ、今回はいろいろとあって資格は君達が得たといえばいいだろうな。詳しいことは時間がかかるので、省略させてもらおう』
クリスは疑問符を浮かべる。
見守っているミーティスはというと、静かにバランズの次に放たれる言葉を待っていた。
そんな二人を見て彼はクリス達が得た資格について話し始める。
『君が持つ貯金箱、いや友達がその資格の証だ。まあ、本来ならばそんな姿にはならないんだが、読み解いた者がえらく解釈を間違えていてね。何はともあれ、これから始まるゲームについてルールを説明させてもらおう』
「ゲームって、何をやらせるつもりなの?」
『そう警戒しないでくれ。ただのゲームだ。まあ、失敗すれば友達は貯金箱のままだが』
クリスは思わず意義を唱えようとした。だが、すぐにそれは無駄だと気づく。
意義を唱えて元の姿に戻してもらえるなら、こんなまどろっこしいことなんてしていない。
『利口だな。おかげで話が進めやすい』
「早くゲームの内容を教えて」
『何、ルールは簡単さ。決められた期限内にあるものを集め、審判者に挑む。それだけさ』
どこかで覚えのある内容だった。
クリスはすぐに先ほど読んだ書籍のことを思い出し、驚く。
そんな表情を見たバランズは怪しく口角を上げた。
『ゲームはいつでもどこでもやっている』
バランズはそう告げると、クリスに貯金箱を見せつけた。
彼女は慌てて抱きしめていたはずのリリアを確認する。
しかし、どんなに探してもリリアの姿はなかった。
『さて、これから始めるゲームで集めるものだが、それは人の感情を閉じ込めた〈ルミナスコイン〉だ。ルミナスコインをまずこの貯金箱にいっぱいになるまで集める。そうすれば最後に審判者が姿を現す仕組みだ。彼が出す問いかけ、それを答えることができればステージクリア。もしも納得できない答えを出せば、ゲームオーバーさ。さて、君はゲームをクリアできるかな? ああ、言っておくがルミナスコインは大陸各地に存在する。なかなか見つけにくいから、頑張りたまえ』
バランズはそう告げると、ゆっくりリリアをテーブルの上に置いた。
そして笑いながら空間に溶け込むように姿を消す。
まるで夢でも見ていたかのような気分になる。クリスがそう感じていると、リリアが大きくアクビを溢して起き上がった。
『ふぃー、おはよー』
「リリア、大丈夫?」
『大丈夫って、何が?』
どうやら何ごともなかったようだ、とクリスは安心する。
とりあえずリリアをもう一度持ち上げ、抱きしめた。よくわからないことが起き、もしかしたらリリアが戻らないかもしれないと告げられた。
だからなのかクリスは身体を震わせる。
そんな彼女に気づき、リリアは黙り込んだ。
何が起きたかわからないからこそ、それがいいんだろうと考えてクリスの温かさを感じていた。
「大変なことになりましたね」
その出来事に立ち会ったミーティスは真剣な表情でそう告げた。
一人の人間の運命が、クリスにかかっている。それは大きな重圧だ。
だが、それでもクリスは立ち上がる。
「マザー、お休みを出してもいいですか? 私、ルミナスコインを集めてきます」
「そういうと思いました。クリスさん、もっといい制度があるので、そちらを紹介しますね」
「ありがとうございます!」
「それにしても、期限内にいっぱいのコインですか。ヒントなしにいったいどうやって……」
なかなかに理不尽なゲームだ。クリスとミーティスがそう感じ、頭を悩ませていると突然部屋の扉が開いた。
振り返るとそこにはレミア先生の姿がある。
「解読しましたー! なんかここから南にあるラーゼン高原のどっかにある村にいけば祭りが行われているみたいです。もしかしたらそのお祭りに参加すれば呪いがとけるかもしれません!」
大声でそう告げるレミア先生に、ミーティスは痛む頭を押さえた。
この真剣な状況で、なぜそんな関係ない情報を言い放てるのか。しかし、クリスは違う意味で受け取る。
「禁書にそう書かれていたんですか?」
「そうだけど。あ、疑っているわね! これでも頑張って辞書引いて解読したんだからね。間違ってたら私のせいじゃないから!」
「レミア先生、少し静かにして――」
「わかりました。じゃあそこに向かってみます」
クリスの言葉にミーティスは目を大きくする。なぜレミア先生がもたらした情報に従うのか。
そう考えているとクリスは学園長にこう告げた。
「あいつはゲームって言ってました。なら最低限のヒントは残してくれてるはず」
「そのヒントが、禁書ですか。なるほど、それなら打つ手がありますね」
ミーティスはレミア先生に顔を向ける。そして今、最も聞きたい情報について訊ねた。
それは期限についてだ。
「レミア先生、何か期日について書かれていませんでしたか?」
「期日? うーん、そうですね。満月と剣のマークは見ましたけど」
レミア先生が手に入れた情報を聞き、ミーティスは考える。
この国での日付の決め方は月の満ち欠け。つまり満月となる夜が最終日となる。
では具体的な時期はどうなるのか。剣のマークから考えると、国の旧暦が関わってくるかもしれない。
「クリスさん、おそらくですが今回の期限は来月の頭です。剣は旧暦で使われていたもの。英雄アクセルの誕生月の象徴であり、そこから考えるとそうなります」
「じゃあ、その時までにルミナスコインを集めれば――」
「どうにかなるかもしれません」
微かな希望が見えた。クリスはそれに力強く頷く。
そんなクリス達を見て、レミア先生は頭を傾げていた。
リリアはというと、クリスの温もりが気持ちよくてまた眠ってしまったのだった。
こうしてクリスはリリアと一緒にルミナスコインを求める旅に出る。ゲームに勝ち、リリアを元の姿に戻してもらうためにも大陸各地を巡ることになった。
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