1章 幼馴染

第2話 幼馴染

 幼馴染とは、幼い頃に親しくしていた友、または親友を一般的には指す。


 其処に親しいを通り越して恋慕を抱いたり、またはある時に親しさがなくなり悪感情を抱くようになり疎遠となる事もある。


 大抵の場合は、同性同士であれば親しい関係は続くものであり、異性であると主に思春期を境に先の感情ルート分岐が起こり易くなる。


 家が近所である、同じ幼稚園である、そのまま小学校も一緒であるという同じ空間アドバンテージは、幼馴染というカテゴリに置いてはほぼ必須条件である。


 しかしただ同じ空間で幼馴染と確定するには些か乱暴が過ぎる。


 親しく……という部分が抜けているからだ。同じ進路を辿っているだけではまだ幼馴染とは言えない。


 必須事項である「親しく」というものはどのようにして生まれるのか、目覚めるのか。


 きっかけがなければそれは、いつも同じところで学んでいた同級生のままで終わるだろう。


 その同級生というカテゴリにはそれなりに多くの人数が含まれる。


 家が隣同士という真道真樋しんどうまとい真森夢月しんもりむつきの幼馴染という関係にもまた、親しくなる「きっかけ」が存在していた。




 幼稚園からの通園ルートには叢が多い。園児の安全確保のためか、大きな道路や水路等からは離れている。


 また急な飛び出し等からも縁遠くなるよう、見通しの悪い道路もなるべく少なくなるような立地が選ばれていた。


 幼稚園児と言えども、歩道や横断歩道の歩き方、寄り道はなるべくしない等とは、親や先生からしつこいくらいに言われている。


 

 幼稚園から家までの帰り道、真樋は前方にふるふると身体を小刻みに震わせている子供を見つけた。


 同じ園児服を着ている事から、同じ幼稚園に通ってる仲間だと言うのは小さいながらも直ぐに理解した。


「震えてるけどどうかしたの?」


 真樋は目の前の女の子――スカートを穿いている事から最初に見た時から女児だと言う事は理解していた――に声を掛けた。


 後ろ姿からは一瞬誰だかわからなかったものの、話しかけてから目の前の女児が隣人である真森夢月だという事に気付いた。


「うえぅっ。あぅっ、ふえぇえぇぇっ……」


 女の子は泣いていた。スカートからはみ出る両足には液体が滴っており、女の子の足元のアスファルトには小さな水溜まりが出来上がっていた。


 立ち込める匂い――それがアンモニア臭と知るのはもう少し成長してから――に気付いた真樋は、彼女が我慢出来ずにお漏らしをしてしまった事に気付いた。



 園児たちは多少の差こそあるものの、親や先生から毎日のように真っ直ぐ家に帰りましょう、危ないから寄り道はしないようにしましょうと教えられてるせいか、緊急事態での思考までは養われていなかった。


 つまり……異変を感じ、トイレに行きたくても公園を見つけてトイレに行くとか、子供故に叢等で隠れてしてしまう等という思考は思い付かないのであった。



 良く言えば、言いつけを守る良い子供。悪く言えば、自分で思考しない言いなりな子供。


 しかし幼稚園児という年齢を考えれば前者であるのは間違ってはいない。


 

 真樋は自分の鞄からフェイスタオルを取り出した。


 そのままスカートをペロリと捲り……おまたの周りを拭いていった。


 タオルで拭くだけでは不十分だと感じた真樋は次の行動に移す。




 家まで案内しようと思った真樋は手を繋ごうとするが、先程拭いてしまった手前若干お小水おしっこに塗れている。


 ポケットからハンカチと取り出し手を拭き取る真樋は、癖なのか確認のためなのか、手を鼻の元に持っていった。

 

「匂い嗅いじゃだめっ。」


 ガシッと腕を掴まれた真樋は驚き、その手を下ろした。



「おまた、洗いたい。」


「夢月ちゃんの家まで連れてってあげるから。」



 しかし夢月は家に帰るのが恥ずかしいのか、首を振るだけで詳細は一向に進む様子がない。


 そこで出した真樋の結論は、もう最終的にはこれしかないというものだった。



「じゃぁ、うちに来て洗う?」


 ただし、着替えはないけど……とは言えなかった。


 そして夢月は首を縦に振り肯定の意を示した。先程掴んだ手の状態のまま真樋は、態度の緩和した夢月を案内する事となった。



「た、ただいま。」


 お漏らしの事が恥ずかしかったのか、道中女の子からの会話は一切なかった。


 また、辱めてしまうと思ったのか、真樋から何故我慢出来なかったのかとか、公園などのトイレに行けば良かった等の話は振る事はしなかった。


 これが真樋が人生で初めて、遊ぶことを目的とした事以外で異性を家に招き入れたタラシこんだ初めての瞬間だった。

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