祝と呪の天秤

琉水 魅希

第1話 プロローグ 詰め寄られる38歳中年イケオジ係長

「私とお母さん、どっちを取るの?」


「私と娘、どっちを取るの?」


 美少女と美女(美魔女)の女性二人が、ベッドに腰を掛けている中年の男……真道真樋しんどうまといへと迫っていた。


 二人の美少魔女は、両方の腿に両手を乗せて、顔を前に突き出すように真樋へと詰め寄った。その様はまるで並んだ双子の少女のようである。


 美少女の長い黒髪が重力に従い肩から滑るようにさらりと落ち、膨らみのない胸を覆い隠す。


 美魔女の方は、短い髪のためそもそも隠す事が出来ない。


 髪の長さと微妙な肌の艶やかさ等を除けば、ぱっと見の違いは髪だけであり、二人は瓜二つと言えた。親子というよりは姉妹である。


 


 この現状の様子だけを捉えれば、見目麗しい女性二人に言い寄られて羨ましいシチュエーションであるが、これまでの背景人生を鑑みればそんな生易しいものではない。


 それは当事者である言い寄られてる男、真樋が一番よく理解している。


 決して軽い気持ちで言葉を返す事は出来ない。


「……どっちも取れない。若しくはどっちも取るという選択肢は……?」


 苦渋の末に絞り出した言葉は、誠実なのかクズなのか判断に困るものであった。 


「そんな選択肢は……」


 娘の方、真森美結しんもりみゅうは更に身を真樋へと身体を近付け、真樋の左腕に絡みつく。真樋の手がもう少しで股間部分に差し掛かろうかとしていた。


「存在しないよ。」


 母親の方、真森夢月しんもりむつきは美結とは反対に、真樋の右腕に絡みつく。そして小さな声で「私は後者ならありだけどね。」と真樋の耳元で囁く。


 高校時代の夢月を連想させる黒髪にロングヘア―でストレートの美結。


 かたや高校時代とも、その後にバッサリと切った際のショートヘアでもない、黒い髪はそのままだが、ミドルボブヘアーの夢月。

 冬の雪の降る日に、屋外でスーパーカップ超バニラを食べてそうなボブヘアー少女のようであった。肩にはストールでも掛かっていそうである。


 共通しているのは客観的にも二人が世間一般の美醜判断において優れているという点と、白くて綺麗な肌、そして申し訳程度なささやかな膨れの胸である。

 真樋スカウターによればAAカップである。ただし真樋がそれを口に出した事は一度もない。


 親子だな……という共通点は随所に存在していた。



「少し前にワカラセというのが流行ってたよね。私が真樋さんにワカラセてあげる。」


 美結は真樋の手を取りその手を自らの身体のある部分に持っていく。その時に触れた手の温もりに思わず声を上げてしまう美結。


 それを見ていた母親、夢月も対抗しないはずがなかった。


「一時期ネットでは幼馴染が尽くしたり、奴隷になったりメイドになったりする作品が多いかったよね。逆に女幼馴染が男幼馴染を調教したり射精管理したりってのも流行ったの知ってるよね?」


 真樋は、夢月は昔からヲタクでコスプレもやってたっけ、と夢月の趣味を思い出していた。

 夢月は一部の親友を除き自らのヲタク趣味を公言していない。そのため一般的には夢月の趣味は裁縫(実際はコスプレ衣装製作)と読書(実際はラノベ鑑賞)という事になっている。


 そして娘の美結も母親に似て趣味が同じ道を歩んだのか、コスプレイヤーとなっており、これまた母親同様高校時代にはイベントに参加していた事も知っていた。


 そのためなのか、美容に気を使っているからなのか、37歳となった夢月はとても40前の容姿とは思えないモノを保っていた。


 まだ30前と言っても通用するだけの外見を保っているのである。


 そして服の下には、子供一人を産んだとも到底思えない身体つきを見せているのだが、それを知るのはこの場の全員が理解している。


 尤も、真樋はそれを身を以って味わっているため、夢月の身体の優れている点は見た目もその具合も、身に染みて到底理解していた。


 しかし夢月が現代の流行りを言った所で、真樋はM気質ではない。


 美女二人に言い寄られる事は嫌ではないが、そういった少し特殊で卑猥な作品エロ同人誌のような事には興味はなかった。


(結果的には別々とはいえ、親子丼をしてしまっている俺が悪いんだけどな。)


 真樋はこれまでの事を振り返る。


 真樋は二人共に、所謂お手付きをしていた。


 単純に手を出していたというと、一方的に真樋がクズ男と捉えられかねないが……


 真樋と夢月はかつて男女の付き合いをしていた時期がある。当然その当時に性行為も行っている。


 幼馴染でもあった二人であるが、ある時その関係が恋人へと変わり、やがてその関係は破綻した。


 そして現在、真樋と夢月の間にはかつてのような、による性交渉は存在していない。


 大人になってから再会した夢月とは、娘の美結の家庭教師として真森家との付き合いをやり直し、夢月とも再度幼馴染に戻ったが、それが現在の真樋の立ち位置である。


 夢月は家庭教師のお礼という名目の、いわば利子のような形で性交渉をしていた。


 過去にどんな事があっても、一度は真剣に交際をしていた二人。

 時が全てを癒したわけではないが、肌を再び重ねるくらいには心にゆとりを取り戻していた。


夢月の謎理論利子での身体の付き合い。ただし、家庭教師代はきっちりと支払ってはいる。


 あくまで、夢月が言う利子とはおまけなのである。二人が過去に恋人であっても、現在は恋人ではないのだから、そこに生じる性行為は世間的には褒められたモノではない。


 しかし、ある時期から真樋はその夢月との性行為利子は貰わないようにしていた。



 一方、娘の美結とは……


 母親の夢月には内緒で男女のお付き合いをしていた。


 猛烈アタックの美結に、真樋も最初は断っていた。


 幼馴染でかつての恋人である美結との男女の付き合いとなれば、戸惑うのは当然である。ましてや37歳と19歳。

 誕生日が来ていないため、二人共今年で38歳と20歳になる中年と女子大生の歳の差である。


 感情的にも、年齢差によるものからも、「はいOK。」というわけにはいかなかった。


 しかし結果的には度重なる美結のアタックに負けた形となり、真樋と美結は年の差カップルとなったのである。


 真樋が夢月からの利子を受け取らなくなったのは、美結との付き合いが始まったからであった。



 そしてこの度、その内緒のお付き合いが母親である夢月にバレてしまい、詰め寄られる形で責められているのである。


 ここで整理すべきは、現在真樋が付き合っているのは美結である事。ただしその事実は誰にも公言していない。


 そして、真樋がこの数年という短い期間で突き合いをしているのは、時期は重ならなくとも美結と夢月の二人である事。


 これだけだとまだ、真樋がクズ男である事は否めないが……


 真樋が家庭教師を始めた頃であるが、夢月は最初に身体を重ねる時に言っていた事がある。


「私とは身体だけの関係で良いから。真樋があの事を許せないのは分かっている。今こうして肌を合わせて貰えているだけでも奇跡みたいなものだから……それ以上の高望み(美結の父親になって欲しい、再婚希望)はしないつもりだよ。」


 その言葉があるから、家庭教師をしていた頃からたまに二人でハッスルしていたのである。



「夢月、お前あの時身体の関係それ以上の関係は望まないって言ってたじゃんか。」



「それは、別れる原因の事過去の事もあるし、真樋に良い人が現れたら潔く身を引くって思ってたからよ。でもその相手が娘って……」


 それだけ言って夢月の言葉が止まる。一方で真樋の手を掴む手の動きは止まらない。


「まぁ確かに複雑だよな。」



「親子丼するしかないじゃないっ。」


 溜めに溜めた後に発した言葉は、とても母親の言葉とは思えないものだった。

 力強く拳を握っていた。


 夢月の頭の中がややバグに侵されているようであるが、このような和気藹々とした軽い話ではない。


 ここに至るまでの過程やこれから先の未来は、そう簡単に思うようにはいかないのである。


 真樋が気付くといつのまにか二人の女性陣は衣服の一部を脱ぎ捨て、ベッドの下へと放り投げていた。


 殆ど膨らみのない同じような甘食が4つ並んでいる。




「先にイってたから美結の負けね。じゃぁ、最初は私から……」


 禁断の親子丼の幕が、上がろうとしていた。



 そこで真樋は、これまでの……約38年に満たない人生を思い返す。


 どうしてこの二人にここまで好意を持たれたのか。


 どうしてこの二人に好意を抱いたのか。


 夢月と美結の親子二人を同時に抱いて良いのか、なけなしの良心で記憶を辿る事にした。

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