第14話 「卑しき人間どもめ」

 スピウスが、目の前のアーチの先をその指で示す。

「上りましょう」カナリアが言った。


「俺もこの先は言ったことがねえ。噂によると、ここの祠にミゲツ神が祀られているらしいが、今はどうなっているか知らねえぜ」


「なら、確かめに行こう」依人が言った。

「ありがとう。何から何まで、助かったわ。私たちは、上の祠を調べに行ってくる」


 カナリアと依人は、スピウスと別れて石段を登り出した。

 依人の背中で、パニが小さく鳴くのが聞こえた。


 階段を登るにつれ、依人は妙な気配に襲われた。何か、特別なものがこの上にある! 霊感や第六感などの類は全くない依人だったが、なぜかはっきりとそう思った。


「杖が反応しているわ! この奥に、霊力の源がある!」

 カナリアが、杖を握りしめて言った。カナリアの持つ杖に嵌め込まれた石が、じわりと輝いている。


「そうだろうな。感じる」

 依人は低い声で返した。カナリアは驚いたように依人を見たが、すぐに前方に視線を向けた。ここに『月光ノ祠』がある。何もなければいいが、ここまでの出来事考えると、そういうわけにもいかないだろう。依人は改めて気を引き締めた。


「行きましょう、依人。この国を取り戻すため、そして貴方が元の世界に戻るために」

 カナリアはそう言って、笑った。年相応の幼い笑顔はすぐに消え、厳しい表情になった。


「何があっても俺が守ってやる。だから心配すんな」


 依人は前を向いたまま言うと、石段を駆け上がった。


 長い石段の頂上に辿り着く。依人の心臓は痛いほど鳴っていた。奥深い森のはずなのに、目の前の場所には、月の光が満遍なく満ちていた。風に揺れる葉のざわめきが、依人の耳に届く。足元の石は所々苔から顔を出しており、依人が踏むとカツン、と小気味よい音が鳴った。空気は澄んでいて、この空間だけ別の世界のようだった。


 依人とカナリアは、石でできた道を、ゆっくりと奥へ歩いていった。

 祠は見えない、だが、依人の全身がこの近くにあると叫んでいた。


 落ち着け。依人は息を吐いた。俺は一体、何に怯えているんだ。


 石の道を歩いていたふたりは、少し開けた場所を見つけた。

 途端、カナリアが息を呑んだ。


 目の前には、複数の人が、何かに向かって首を垂れていた。

 その数は七、八人。ぼろぼろの衣服を纏い、唇からはうわごとのような言葉が溢れている。その有様は、まるで何かを必死に祈っているようだ。


 依人たちには全く気付かず、ただ何かを念じ続けている。


「こんなところで、何をしているの!」


 カナリアが、高い声で呼びかけた。すると、跪いていた人々が急に立ち上がって、鬼のような形相でふたりを見た。目がぎらぎらと光っている。この場に歓迎されていないことは、明らかだった。一人の男が依人の元へ素早く歩いて来る。


「欲深く卑しき人間どもめ。何をしに来た!」

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