第13話 「人間はすべて同じに見えるのか?」

 三人は、森の中を移動していた。途中、いくつか祠を通過した。祠のそばは敵に襲われないため、そこで休憩を挟みながら森の奥へ奥へと進んでゆく。


 方角も分からず、方向感覚も失うような森の中を、スピウスは軽やかに進んで行った。


「何で進む方向がわかるんだ。太陽の位置か」

「この森、実は太陽も歪んで見えているから、参考にはならねえぜ」

「ではなぜ、一直線に歩けるの?」カナリアが聞いた。


「木が違うんだ。俺はある程度目印となる木を覚えているから、それを辿っていけばいい」

「木なんて、どれも同じじゃないか」

 依人の反論に、スピウスは呆れたように首を傾げた。


「そんな訳ないだろ、馬鹿かお前は。逆にヨリトは人の形をしていたら、人間はすべて同じに見えるのか?」


 スピウスの言葉が信じられず、思わず依人とカナリアは顔を見合わせた。


 スピウスは、これから行く場所の噂を知っていたらしい。

「昔、ミゲツとかいう神がいて、そいつはなんでも願いを叶えると信じられていたらしい。多くの人がミゲツ神の元に参ったが、なんせ祠はこの森の中だ。誰一人戻らなかったんだと」


 スピウスは少し遠くを見た。「幼い頃に人から聞いた話だ。俺も興味があって一度だけ行ってみたが、妙な雰囲気で近づくのをやめたんだ。お前らが探している場所は、多分そこだと思うぜ」

 依人はただ、無言で頷いた。


 三人は、森の奥深くを歩いていた。木々の密度はどんどん上がり、幹も太くなる。陽の光があまり届かない場所で、こんなに密集しているのに、なぜこんなに立派な木が育つのだろうと、依人はふと考えた。そして、ここに来るまでに不思議なことなど無数に起きているのに、こんな些細なことが気になる自分が、なぜか可笑しかった。


 スピウスは何も言わなかったが、祠のある場所に近づいていることは、彼の張り詰めた雰囲気でわかる。聖獣のパニは、彼の横を静かに歩いていた。森の中をかなり進んだところで、スピウスが不意に振り返った。


「この辺りだ。木に見覚えがある」

 スピウスはどんどん奥へと進んでいった。依人とカナリアは、目を凝らして歩いているが、特別違和感はない。ただ、森が深くなっていることだけは分かった。


 そして彼らの目の前に、唐突に石の階段が現れた。


 階段は草と苔に覆われて、上に長く伸びている。周囲はどこも背の高い木で囲まれていて、わずかに差し込む陽の光が、階段をちらちら照らしている。石段の麓には、森の入り口と同じく、赤いアーチがあった。三人は石の段を前にして、しばし立ち尽くした。


「この上が、その祠だ」

スピウスがそう言い、アーチの先を指で示す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る