第12話 「イカれてる」
「近くに川があって、ちょうどよかったな」
依人が戻ると、スピウスが言った。
彼は川から少し離れたところで、手頃な丸太の上に座っている。荷物から干し肉のような物を出し、パニに与えている。中央には青白い火が燃えており、焚き火の役割を果たしていた。依人は向かい合って座り、後から追いかけてきたカナリアも横に来た。
「動けないところを助けてくれたのも、この火だったな。これは一体なんだ?」
「これは、パニが出している火だ。色が違うこと以外は、何も特別なことはねえ。さっきお前らがやられてたのは、狐によるものだろ? あの炎は、実は幻覚なんだぜ。ただあまりに本当の火みてえだから、熱いと錯覚しちまうんだ。本物の熱が分かれば、その術は解ける。さっき俺がやったみてえにな」
「スピウスは、なぜこの森にいるの?」カナリアが聞いた。
「俺は、城に行って王に会いたかったんだ。……まあ捕えられたって話が本当なら、もう行く意味はねえけどな。この森を通ったのは、近道だから使っただけだ。この森は危険な噂が多いが、俺にはパニがいるし、そこらの敵には負けねえよ」
スピウスは悲しげにパニを撫でた。この男にも、何か事情があるんだろうなと、依人は思った。
「その子は獣獣かしら、白い毛並みが綺麗ね」
「そう、パニは俺が契約している聖獣だ」
スピリスは頷いて、言った。
「聖獣ってのはよく分からないが、要は指示すれば、代わりに戦ってくれる奴なのか」
「お前、聖獣は道具じゃねえぞ」
依人は、スピウスからどこかで聞いたような台詞を言われ、
「依人、聖獣はとても神聖な生き物で、私たちが敬うべき存在なのよ」
と、カナリアからも、かんで含めるように説明された。
「知らなくて悪かったな。俺は、この世界に馴染みがないのでね」
依人は、少しぶっきらぼうに言った。
「馴染みがない?」
「俺はこの世界の人間ではない。異界から、やってきたってことさ」
依人は少し自慢げに説明をしたが、スピウスは、なぜか哀れみの表情を浮かべている。
「お前……見かけによらず、頭イカれてるんだな」
「誤解だ! そんな表情で見るな!」
冗談じゃないと否定する依人を尻目に、スピウスは改めて尋ねた。
「お前ら、神聖な祠のある場所に行きてえんだろ。1つ、思い当たる場所がある。そこは、森の中でも特に異質で、怪しい噂も絶えない」
スピリスは、値踏みするようにふたりを見た。
「行きてえんなら、案内するけど、どうだ?」
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