第4話 「約束は、果たす主義なんだ」

 怒ったように口を尖らせるカナリアを無視して、依人は老人に視線をうつした。

「話を戻すが、まずはどこに行けばいいんだ? 霊力は各地にあると言っていたが、当然、場所は分かっているんだろうな」


「大方の見当はついておる」と、老人は一枚の地図を見せた。

「じゃが、なにしろ霊力について記された文献が古く、詳細な場所までは明記されておらんのじゃ。しかし、カナリア様は王の直系、霊力の源となる場所に近づけば、自然と分かるじゃろう」


 何かを言いかけた依人に、老人は地図を渡した。

「霊力があるとされている場所は、7つじゃ。その全てを集めた時、カナリア様は真の巫女となられるだろう。ヨリト、カナリア様の旅に同行すること、改めて礼を申し上げる」


 老人は、依人に深々と頭を下げ、クローゼットの上から、細長い汚れた袋を取り出した。

「これを、持って行いきなさい。何も持たずに出るのは、危険じゃろう」


 袋から出てきたのは、美しく、細い剣だった。依人は思わず手に取り、感嘆の声を漏らす。

「儂が、遠征後の式典の際に国王から賜ったものじゃ。儂を何度も窮地から救ってくれた相棒じゃ、手入れもしておる。この剣が、今度は姫様を救ってくれるじゃろう」


 依人は、剣を通すためのベルトを老人から受け取り、シャツの上から巻いた。剣を通し、背広を羽織る。暗い色のスーツに、細い剣はよく映えた。


 見栄えはいいが、剣など振ったこともない。学校の授業で少し剣道をやった程度だ。振り回すのがせいぜいだろうと、依人は思って老人を見た。

「いいのか、お前の剣を俺がもらって。お古とはいえ、大事な物だろ?」

「この、由緒ある剣をお古だと……、まあよい。ヨリト、お前にあげたわけじゃあない。貸すのじゃ」


 老人は、厳しい口調で続けた。

「隣国が支配を始めた今、国中が混乱に陥っている。どんな旅になったとしても、最後はここに返しに来るのじゃ。約束じゃぞ」


「ああ、約束する。安心しろ、爺さん」

 さりげない調子で、依人は続けた。

「約束は、果たす主義なんだ」

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