3

 ――私に流体テレポーテーションの能力があるか自信はない。

 だが、禍々しいユアンの存在は、ほんのかすかに察することができていた。

(どうやってたどり着けばいいんだ……)

『潜ればいいのさ』

 異なる銀河の英雄が助言をくれる。

 眠るように意識を暗闇の奥にもっていく。形のない、光のような何かと、もやのような何かが現れ始める。

 それが宇宙なのか、重力なのか、ダークエネルギーなのか理解できない。ただ、自身の魂と自分をとりまく暖かなもの。そして暗闇を渡った先の、禍々しい青いものは理解できた。

(あれだ……)

『そのとおり』

 場所がわかればそこに向かって飛べばいい。

 だが、一つ問題が浮かんだ。

 惑星コアのエネルギーがない。船をどこかの星に近づければいいのか。

『必要ない』

(なぜ)

『この船の装甲は、エネルギーの塊から取ったのだろう?』

 二つ目の特異点で加工した鉱石の植物は、コアが鉄の成分まで変化したものなのか。

 閉じた瞼でマウの唇がゆるんだ。

(これが因果なら神も考えモノだな……)

 そんな皮肉をおもいながらコアの力に包まれた。


 ほんの刹那の出来事だが、コルトはユユリタ一世の力を垣間見た。

 いくつもの惑星の誕生と爆発を起こしている宙域に、ユユリタ一世はすべての波を回避してたどり着いた。

 意識が目覚めてモニターを見ると、例の球体が船首の前にあった。

「ルナ、操縦を頼む!」

 マウが告げると再びコルトとマウが光に包まれる。

「嘘――」驚く暇もなく、コルトが瞬間移動した。



 目が覚めたのは、どこかの船のブリッジだ。

 円形の中央には、ガラスで囲った巨大な青い光が発生し、そのプラズマは機械の各所に繋がって制御室の機械を稼働させている。

 人の姿も自立型AIはなく、すべて船内の機械で動いている。

 唯一、少女だけが目を閉じたまま中央のガラスに触れていた。

「ミィミィ!」

 駆け出して小さな手を取ると、自分のほうに抱き寄せる。

 息はしているが、意識がない。もしや乗っ取られているんじゃないだろうか。

 ガラスの向こうの青い光を睨みつける。

 その視線の先に、コツコツと足音を鳴らすマウがいた。

「ようやくご対面か。初めましてだなユアン」

 マウはガラスに触れて、口を開けると鋭い犬歯を見せつけた。

「ひとまず彼女は返してもらう」

 コルトの腕の中にいたミィミィが小さく唸る。

「ミィミィ!」

「ごめん……油断した……」

 流体の中で何かを察知していたんだろう。コルトは彼女の手を力強く握る。

「痛いよ……」

「うるさい、こっちは心配したんだ」

 コルトは潤んだ瞳を必死に我慢する。

 彼女がいなくなることに、泣くほどつらいと感じたことはなかった。長旅のせいだろうか。それとも、苦楽を共にした半身がいなくなると気づいたのだろうか。この死の世界で取り残されることが怖かったのだろうか。

「寂しがり屋……」

「うるさい」

 握った手でこつんと額にぶつけた。

「戻ったらアイスね……」

 そのまま眠りにつくミィミィ。

 たく、こんなときまで……。

 悪態をつくコルトだが安堵で表情が緩んだ。

 二人のやりとりを見届けたマウは、

「お前の心を読み取った……。何者かの凶悪な意思が、星という巨大な生命体に共鳴して宇宙の破壊者となったのか……。同情はするが許しはしない。宇宙はお前たちが支配していいものでない。この場で消えてもらう」

 マウが手を離すと、青白い光のユアンを睨んだ。

「コルトくん、飛ぶぞ。振り落とされるなよ」

 閃光に包まれ、意識が遠のく。


「マッタク……ドウナッテイルノヤラ。コノトキバカリハ人間二ナリタイモノデス」

『面白いな……。AIはゴーストの姿が見れないのか』

 意識が戻ると、愚痴をこぼすルナと、それを後ろから感心しているユユリタ一世がいた。

 暢気なものだ。こちらはミィミィを取り戻せるか不安だったというのに。

 彼女を椅子に寝かせると、操舵席座ってモニターを見る。

 目の前には砲門を向けようとしているユアン。

「あがいても無駄だ。コルトくん、エンジンを上げてシールドの出力を最大にする。ユアンはコアに強烈なエネルギーをぶつけると消滅する。おもいきり貫いてくれ」

「いいですけど、終わった後に爆発しないんですか?」

「それはボクがなんとかするよ……」

 ミィミィが半分目を開けて答えた。

「いや、ダメだよ。無理させるわけにはいかない」

「ボクにもつけを払わさせて。やられっぱなしは嫌なんだから」

 まったく意固地なんだから。

『案ずるな。何かあったら私がフォローする』

「え? この声って誰?」

「後で説明する! マウさん、いきます!」

 操縦桿を握り、青白いプラズマの塊へまっすぐ伸ばす。

 敵の砲撃が始まるがどれも実弾だ。こちらの光の壁に溶けて消える。

「接触マデ3……2……1……」

 ルナのカウントに合わせて船が進む。

 シールドが円盤の中心に触れて、周囲に膨大な熱量が吹き上がる。

 リバーシスの装甲が熱に触れようとした瞬間、船体が光に溶けた。

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