2
コルトの頭の中が真っ白になる。
――――――――なんで。
ミィミィはずっと旅をしてきた。自分と同じ境遇の大切な仲間だ。
あと少しのはずだった。この探査機をホワイトホールに流し、一緒に帰る手立てを考えるはずだった。
「どうなってるか教えてください!!」
コルトはマウに詰め寄って大柄の腕をつかんだ。
「おそらくだが、ユアンはミィミィくんを乗っ取り流体テレポーテーションでブラックホール内を移動した。それしか考えられない」
「嘘だ……」
こんなことってないだろ。何度も死線を越えながら終点まで来たはずじゃないか。なんでこうなるんだよ!
コルトは膝を折って両目から涙をこぼした。ミィミィは一心同体だ。彼女がいない中でミッションを終えても何の達成感もない。
「私のせいなのか……。私が君たちに関わってしまったから――」
マウが悲痛な顔を向ける。
「ソレハ違イマス」返事をしたのはルナ。「マウ様ガイナクトモ、アノ宇宙船ハ私タチヨリ先ニキテイマシタ。
ユアンハ私ト同ジ自立型思考回路ノ無機物ノ一種デショウ。ソレガ複数ノ群衆ヲ離レテ、ココニイルノハ、最初二ブラックホール二入ッタ個体ダト考エラレマス」
「そんなことはどうでもいい! やつは何かしらの力で彼女を連れ去ったんだ!! あれが転移能力を得てブラックホールを出たら、宇宙が崩壊するかもしれないんだぞ!」
マウが力任せに壁を殴った。
劣勢の中で防衛しているマウゆえに、責任感がのしかかった。
『そう慌てるな……』
頭の中に声がよぎった。
男性だが、少し高く、聴きなれない声音だ。
驚いて顔を上げるコルトだが、苦い顔のマウと目が会った。マウもまた驚いてこちらを向いている。
声の主はルナでもない。一体誰だ。
『やつは流体テレポーテーションの力でホール内を彷徨っているにすぎない。ここは私の庭だ。すぐに見つけることができる』
声がはっきりと聞こえた。今度は頭の中ではなくブリッジ全体に響き渡った。
中央に黒い靄のようなものが現れる。わずかにスロウストの感覚がある。
黒い靄は人型をつくり、瞬く間に輪郭を表した。
コルトより背丈の低い青年だった。耳が長く、髪が背中まで伸びている。
誰かに似ていると思った。
コルトはすぐさまユユリタ三世を思い出した。
その瞬間、脳内のシナプスが駆け巡る。
『ご明察だ。初めまして未来のシーズ人。私の名はセイ。君には、初代皇帝ユユリタ一世といったほうがいいかな』
コルトは無意識にひざまずいた。
初めて会った人間にも関わらず、本能でそうしなければならない気がした。
『顔をあげてくれ。ここは我々の銀河ではない』
視線を上げると、人懐っこい笑みを浮かべている。気まずさでコルトは視線を避けた。
「あなたが、コルト君たちのいっていた方か」
『そうとも。いやぁ力ある者は苦労が絶えないよ。死んでから楽になるとおもったが、仕事を任されて大変だ』
ユユリタ一世が肩を回しながら気さくに話し出す。
コルトは半分呆れて頭が働かなかった。
『切迫しているのは私も承知している。だが、君たちは運命の檻の中にいる。未来の変革は君たちの選択次第だが、いまのところ時空の歪みは確認されていない』
「あの、いっていることが理解できないのですが……」
『気にするな、
ユユリタ一世は人差し指をたてると、その上に、黒い靄でできたユアンの船体らしきミニチュアを作り出す。
『アレはこの宙域のイレギュラーな存在でね。我々ゴーストでは介入できなかったのだよ。アレ自体はホール内で無害なんだが、現にうちの曾孫を連れ去ってしまったからね。君たちの手を借りたい』
話を聞いていたが、混乱は増すばかりだ。
ゴーストの世界もそうだが、曾孫ってなんだ。ミィミィはユユリタ一世の血族だったのか。宇宙一の転移者と自称していることもあるから、その可能性はあったが、考えもしなかった。
「お言葉ですが、皇帝陛下。彼女を失ったいま、転移できる者はいません」
『それはちがうよ、マウくん。流体テレポーテーションは惑星コアのエネルギーに触れている者ならできるものだ。その感覚を知らないだけでね。君は彼女に次いで多く触れてきた。この旅で感覚は培われたはずだ』
首を振るマウをよそに、コルトははっと気づいた。
マウと会話する中で、たびたび彼は自分の声を聞かずとも返事をしていた。あれは表情や空気を読み取って話していたのではなく、惑星コアの力が覚醒していたのか。
「馬鹿な!」マウがコルトに向いて唖然とした。「私がいつ惑星コアに触れていたのだ」
『君はアレの正体をなんだとおもっている? たしかに意思をもっているが、無尽蔵に戦闘機や無機物の弾を作り続けているではないか』
「まさか! ユアンが惑星コアだというのか」
マウはショックのあまりその場で硬直した。コルトはなぜ驚いているのか理解できない。
『惑星コアはエネルギーそのもの。君たちが到達したホワイトホールは、物質は通り抜けてもエネルギーは吸収されてしまう。だからユアンはホワイトホールに入れないんだよ。となれば袋のネズミさ。
さて諸君、やることは明白だ。アレに接近し、船の中にいる曾孫を救いだしてほしい。やり方は君たちに任せる。その手助けをしに私が来たんだからね』
マウはしばらくの間、瞼を閉じた。
そばにいるコルトは、マウの力によって自然と彼にシンクロしていた。
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