第3話 第一王子セルジュ様

「フルーラっ!!!!!!!!」


 大きな声というかもう叫び声で私の部屋に入って来るお父様の手には、何やら一通の封筒のようなものがある。


「お父様、ノックはしてっていつも……」

「それどころじゃないっ! 来たんだよ、婚約話がっ!!」

「はいはい。あとでどのような方が確認するからもう少し寝かせ……」

「第一王子だよっ!!!!!!」



 ん……?



「はい?」


 私はお父様に疑問を呈するが、お父様ももうそれどころではなく呼吸困難に陥るのではないかというほどひどく肩を上げ下げしている。

 それよりも、今第一王子って言った?

 第一王子がなんて?


「第一王子がどうしたの?」

「だ・か・ら!! 第一王子のセルジュ様からお前に婚約話が来たんだよ」

「…………は?」


 そのレディらしからぬ素っ頓狂な声と顔に首を傾げた様子を、ちらりと視線の先にいたシリウスは頭を抱えて嘆いている様子だった。

 婚約者の段階から妃教育をしたいからと今すぐに王宮に来て、そしてそのまま一室で住むようにと手紙には書いてあった。

 ひとまず第一王子を待たせるわけにもいかない上に、まさか私のように子爵令嬢が断るわけにも行かずすぐに馬車で向かうことに。


 お父様とお母様は突然の娘との別れにかなりショックを受けた様子だったけど、なんとか気丈に振舞って送り出してくれた。

 その少し後ろにはシリウスが控えており、私と目が合うとゆっくりと丁寧にお辞儀をした。


 お別れなのね、みんなとは……。

 そんな少し寂しい思いを抱えながら私の乗せた馬車は王宮への道を進んでいった。



 やがて王都が見え始め人の賑わいが感じられるようになってまもなく、王宮が見えてきた。

 馬車は王宮の目の前につけると、私はゆっくりと馬車から降りる。

 すると、そこにはなんと第一王子がいらっしゃり私は慌ててカーテシーで挨拶をする。


「いらっしゃい、フルーラ」

「殿下にご足労いただき恐縮でございます」

「構わない、なんたって君を婚約者に迎えるのだからね。それ相応の出迎えをしなければ」


 そこまで言われて自分が殿下のみならず騎士、メイド、執事、様々な王宮の人たちに出迎えられている事に気づく。

 私はあまりのレベルの違いに驚き委縮してしまう。

 そんな様子に気づいた殿下は私の手を優しくとって、王宮へと迎え入れてくれた。



「ここがフルーラの部屋だよ。何か不便があれば言ってくれ」

「かしこまりました、ありがとうございます」


 私にはどうやらメイドが3人も専属でつくらしく、殿下とのディナーの支度で髪を整え、立派なドレスを着せてもらい、お化粧もする。

 こんなに綺麗にしていただいてなんだか悪い気がする……。

 夕日が部屋に差し込むと温かく感じられる。

 そんな日の当たるベッドでゆっくり昼寝をしたいが、そんなことは当然許されずディナーの席へと案内される。


 すでにそこには国王様と王妃様、そして殿下がいて私は人生で一番緊張する。


「フルーラ、セルジュの婚約者になってくれてありがとう」

「こちらこそ、身に余る光栄でございます」

「そんな気負わないで。さ、食べましょう」


 思ったよりも国王様も王妃様も、そして殿下も優しくて私はこれからの婚約生活、そしてその先の妃となる未来に期待を寄せる。

 そうよ、この幸せのために今まで我慢ばかりして、それで婚約もうまくいかなかったんだわ。

 そう思いながらディナーの時間はあっという間に過ぎ、私は殿下と部屋でワインを飲むことになった。

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