第23話 レイテーク城防衛戦



「どうされました?」と、ヘレックは応対用の姿見の前に歩み出た。


 レイテーク城に、前触れのない客が来ることなど、まずありえない。城主が敷いた厳重なセキュリティは無用の長物だと思っていたが、こうなると話は変わってくる。


(リピテちゃんは奥方様じゃないかって言ってたけど、まさかそんなはず)

 そう思いながら向き直った鏡の向こうに、見覚えのある顔を見た。俯きがちで目深にフードを被っているが、数ヶ月一緒に生活したひとの顔を見間違えるはずがない。

「奥方様」と呼びかけて、ヘレックは一歩前へ出た。向こうからは、自分が城門の柵の向こうに立っているように見えているはずだ。客人は何も言わず、ただ黙ってこちらを見ている。……様子がおかしい。


「待ってください、旦那様を呼んできます」

 そう言って、ヘレックは踵を返しかけた。しかし、鏡の向こうでリンナが何かを呟く。内容は聞き取れなかった。「なにか仰いましたか」と振り返った先で、彼女はこちらに手を伸ばしていた。


『ん?』と呟いて、怪訝そうに己の手を見下ろす。また顔を上げると、彼女はまっすぐにこちらを見ていた。


『そちらに入れて頂いても、いい?』

 発音に、妙な引っかかりがあった。強い訛りのような、たどたどしい子どものような。

「僕からは良いとも悪いとも言えませんが……認証システムは弄っていませんよ」

 そう答えても、彼女は途方に暮れたように立ち尽くしている。城門の柵に手を当てて名乗ることをしない。


(まさか、記憶喪失、とか……?)

 ヘレックは眉をひそめた。リンナはまるで別人のようだった。雨に打たれているのに身じろぎひとつせず、ときおり瞬きをするだけで、唇をかるく引き結んでこちらを見つめている。ひどく意気消沈しているように見えたし、覚悟を決めた態度にも見えた。

 雨のなか放置するのも忍びなく、ヘレックは開門のための手順を説明した。リンナは頷きながら聞くと、言われたとおりに門へ手を当てた。

 彼女は平坦な声で、名前と、城主の妻であると肩書きを告げる。姿見のそばに置かれた画面に、認証を示すマークがついた。

 手のひらから読み取られる生体認証と、予め登録されている名前が一致したのだ。他人のそら似ではないことが分かって、ヘレックは密かに安堵した。


 ……それほどまでに、リンナの雰囲気は変わり果てていた。


「すぐに開きます」と声をかけるが、ヘレックの予想と違い、城門はぴくりともしなかった。あれ、と身を乗り出す。普段なら五秒も経たずに門が独りでに開くはずだ。


 通信機が鳴る。リンナに声をかけてから、受話器を取った。制御室にいるリピテからだった。

『見たことのないエラーが出て、門が開かないんです』

 リピテは怪訝そうな声でキーボードを叩いている。


 名前も肩書きも、登録されているものと一致している。生体認証もクリアしている。

『普段は表示されないステータスが引っかかっているの。変だわ』と、リピテが困ったように呟く。


『だって、こちらの画面だと、奥方様は既にこの城の中にいることになっているんですよ』


 ――弾かれたように姿見を振り返っていた。

 暗い森の中、門扉に取り付けられたライトひとつの光を浴びて、彼女は空恐ろしいほど静かに佇んでいる。

 馬鹿な考えが頭をよぎる。目の前にいるのは、リンナとまったく同じ身体をした、まったくの別人なのではないか?


 ありえない、とヘレックは眉間を揉んだ。かならず、どこかにエラーの原因があるはずだ。これまで見たことがないエラーということは、リンナ本人が変なのか、登録情報が変なことになっているのか……。

 しばらく考えこんで、彼は「あっ」と声を上げた。



 ***


 両手を鋼鉄の手袋に包み、四肢を戒められて、椅子から立ち上がることもできないリンナを、アルラスは鉄格子越しに見つめていた。

 正円をした独房の中心で、彼女はにこにこと微笑んでいる。呪術が及ぶ範囲より大きな円周のなかで、呪術師はこちらを真っ直ぐに見つめている。

 自分はこれ以上、彼女に近づくことはできない。


「どうかしましたか?」

 彼女は小首を傾げて呟いた。恨むでも怒るでもなく、ひたすらにまっさらな瞳をしていた。

 見ていられず、アルラスは顔を背けて階段に腰かけた。くす、とリンナが笑う。


「閣下、もう何日も寝ていないでしょう。駄目ですよ、いくら死なないからといって、生き物の在り方に背くようなことしてたら、何かが少しずつずれていくわ」

「俺は狂わないんだよ、リンナ」

「そう? 初めて会ったときの閣下は十分へんだったと思うけどなぁ」


 リンナは機嫌良く首を反対に傾けた。その拍子に、細い首に嵌まった鉄輪が、ぎらりと光る。

 数ヶ月にわたって、ただの一度も日の光を見ず、地下に監禁されているのに、リンナは不自然に穏やかであった。最初の頃に一度だけ見られたような動揺は、すっかり鳴りを潜めている。


 それが、どうしようもなく恐ろしかった。

 浅い水溜まりに張った氷を、割らないように、慎重に指先で撫でるような気分だった。あと何本の藁を乗せたら彼女の背骨は折れるだろうか?


「それでね、少し気になって試してたんですけど、花の種を複製することはできないけど、種を別の品種に書き換えることはできたんです」

 ぼうっとしているうちに、リンナはすらすらと話を続けていた。


「……だから、後天的に生き物の形質を変えることはできるのよ」

 ふと、彼女の目が虚ろになる。理由の分からない寒気が襲って、アルラスは咄嗟に立ち上がっていた。冷たい鉄格子を片手で握る。


「何の話をしている」

「でも、既に咲いている花の種類を変えるのは術者への負担が大きすぎるみたい。ちょっと死にかけたわ。生長する前に変えるのが限界なのね」


 俯きがちに語るリンナの顔に影が落ちる。その双眸が、ぎらりと光る。アルラスは両手で檻を掴むと、身を乗り出した。


「呪術は、生物の状態に影響を与える技術です。産まれる前のもの、死んだものには手を出せない。逆に言えば、生きているものなら、いくらでも操れる。私にはそれができる……」


 これまでにない危うさが、椅子に縫い止められた小さな身体から放たれている。リンナがいま、超えてはならない一線の間際に立っているのが見えた。

 鉄格子を握る手に汗が滲む。


「リンナ――」

 口を開きかけたそのとき、けたたましいサイレンが鳴り響いた。

 アルラスはびくりと身体を跳ねさせると、階上を振り返る。城内で異変が起きたことを知らせる警告だった。



 ***


『奥方様が初めて来たときのこと覚えてる? 奥方様は城のセキュリティシステムに二件登録されているんだよ』

 ヘレックの言葉に、リピテは「ああ!」と制御室で手を打った。


「奥方様がふざけて『城主を尻に敷きます』って宣言して、データの変更も消去もできないから仕方なく二件登録したときですよね」


『そう。それで、さいごに奥方様が外出したとき、何らかの原因で普段使っていない方の登録データの方が「城外」に切り替わって、いつもの方が「城内」のままになっていたんだと思う』


 なるほど、とリピテは腕を組んで深く頷いた。さすがは先輩である、エラーの原因をすぐに突き止めてしまうとは……。


 つまり、ステータスが「城外」になっている登録データ――城主を尻に敷く方でなら、正常に認証が可能なわけだ。

 うんうんと頷きながら、リピテはゆっくりと門が開くのを眺めていた。


 ヘレックに制御室にいるよう言われ、リピテはメインモニタの表示を玄関ホールに固定する。

 城門を潜ってきたリンナが、玄関の大扉に手をかけた。

 ヘレックが玄関ホールに入ってくる。そうした様子を階上からの視点で眺めながら、リピテは頬杖をついた。



(なんだか、奥方様ってば、雰囲気が変わったみたい)

 明るい城内に入ってきたリンナを見て、リピテは眉を上げた。違和感が一気に膨れ上がる。

「ヘレックさん」

 リピテはマイクに向かって声を出した。ヘレックが顔を上げ、ついカメラの方を見る。


 瞬間、ふわりとリンナの体が前傾した。羽織っていた上着の裾がはためく。

 大きな三歩で玄関ホールを横切ると、リンナはヘレックへ肉薄した。白い腕がひらめき、円を描くように指先が空を切る。




「――ヘレックさんっ!」


 一人しかいない暗い制御室に、椅子が倒れる音が響いた。


 画面の中で倒れ伏したヘレックの姿を、リピテは呆然と眺めていた。リンナは足元に転がるヘレックを見下ろしている。


 その顔がゆっくりと持ち上がり、カメラを真っ直ぐに見据える。リピテの背筋を、冷たいものが這い上がった。

(ちがう。……奥方様じゃ、ない)

 いざこうしてはっきりと顔を見てみても、リンナと全く同じ顔をしている。それなのに、強烈な違和感が襲うのだ。


 大きく振りかぶって、リピテは叩きつけるように警報ボタンを押す。

「侵入者です――奥方様とおなじ顔で、白い服を着ています!」


 全館放送で叫んだ直後、モニターの中の侵入者は風のように走り出した。



 ***


 アルラスは呆然と立ち尽くす。リンナも同じように中空を見上げ、瞬きを繰り返していた。


「閣下」と、リンナが呟く。続きを聞くより早く、アルラスは彼女を手振りで黙らせた。

「……ここに、いなさい。何もするな」

 リンナは目を見開いてこちらを注視していた。表情の読めない眼差しで、ただ黙っている。

 なにかを言おうとしている気配に、アルラスは立ち止まった。階段に足をかけたまま、じっと待つ。


「……生け捕りにしてください」

 ややあって、リンナはそれだけ呟いた。アルラスは黙って頷くと、一段飛ばしに階段を上って地下牢から駆け出した。




 最寄りの通信機まで走ると、制御室に繋ぐ。すぐに応答があった。

「リピテ、侵入者は」

『最後に確認したのは西の渡り廊下です。制御室からはそれ以上は追えませんでした』

 上擦った、しかし落ち着いた声でリピテが答える。アルラスは頷くと、西の方角へ顔を向けた。


 リンナと同じ顔をした侵入者。……かつての妻と同じ顔をした女。

(相手は呪術師だ)

 アルラスはぎりと唇を噛んだ。近づく訳にはいかない。


『侵入者に何かされて、ヘレックさんが玄関ホールで倒れているんです。さっきから一度も動かなくて』と、リピテが泣きそうな声を出す。

 呪術師に何かをされて倒れているなら、自分にできることは恐らくない。リンナを頼るしかない。

「分かった。俺が確認しに行くから、君は絶対に外に出ないように。制御室の内側から鍵をかけておきなさい」


 リピテがか細い声で相槌を打つ。

「西の渡り廊下を通ってから、他の場所では見つかっていないんだな」

 はい、とリピテが頷いた。アルラスは城内の間取りを思い浮かべる。西廊下はこの地下牢からほど近い。アルラスは受話器を強く握りしめた。


「……全館の照明をつけて、今から言う通路を封鎖してくれ。こちらへ誘い込む」


 アルラスは受話器を放って戻すと、腰の銃を抜いた。

 銃というのは良い。特に呪術師に対しては、すこぶる良い。


 早足で回廊に出ると、石階段を足音をさせずに上った。

 レイテーク城にある四つの尖塔のうち、城内を監視するために誂えられたのが、この鐘楼である。

 床の扉を押し上げて塔の上に出ると、雨の夜に似つかわしい湿った風が押し寄せた。昼間の熱を残した地面から、肥沃な土のにおいが充満している。


 リピテの操作によって、城の全ての窓は煌々と光り輝いていた。月も出ない夜空の下で、まるで往時を思わせるような明るさであった。


 明かりをつけずに銃を構えた。少しでも動くもののあればすぐに撃つ心づもりであった。

(まさか、この城が真価を発揮する日が来るとは思わなかった)

 ここは実験場である。砦の防衛、効率化のためのシステムが組み込まれている。

 惜しむらくは、そのシステムを動かすのが不慣れな女子学生という点だった。


 緊張に手汗が滲む。

(リンナや前妻が、二百年前からいる『何か』なのは間違いがない)

 問題は、その一人が、何のためにここに来たのかだ。

 ヘレックがやられたことからして、友好的な訪問とは思えない。


 ちら、と視界の端で動くものがあった。瞬間、アルラスはそちらに照準を構えて引き金に指をかける。

(――いた)

 白い上着を羽織った、小柄な女。白い髪をはためかせ、庭園沿いの回廊を迷いない足取りでひた走っている。

 息を詰めて、指先に力を込めた。

 とおくで、赤い血煙がぱっと舞う。


 銃声が幾度も木霊した。雷のような残響が消えてもなお、アルラスは銃を構えたまま動けずにいた。

 回廊の半ば、仰向けに倒れた体の下で、黒い血溜まりが広がっている。


(……やったか?)

 目を眇めて身を乗り出した瞬間、反対を向いて倒れていた侵入者の顔が、ぐるりとこちらを見た。喉の奥で息を殺す。

 侵入者はゆっくりと体を起こした。その視線は、真っ直ぐに鐘楼を睨みつけている。


 気づかれたと悟って、アルラスはすぐさま腰の高さほどの壁を乗り越えて塔の外へと飛び出した。

 幾度か植栽に引っかかり、最後に両足の骨が無惨な音をたてて着地する。

 激痛に悶絶するのも数秒、血で濡れた服を省みることもなく、アルラスは這いずるように立ち上がると、地下牢に向かって走り出した。


 これで分かった。

 奴は、リンナを狙っている。その居場所を明らかに知っている。――二百年前まで使われていた、呪術師のための牢獄を知っているのだ。



 ***


 侵入者が来たと警報があってから、独房に取り残されてどれほど経っただろう?

 リンナはぼんやりと先程の放送を反芻していた。


(リピテちゃんの声だった)

 数ヶ月ぶりに聞いた、アルラス以外の声である。その内容も気がかりだが、久しぶりの人の声に、その響きがじんと染み入るようだった。


 地に足がつかないまま回転し続けていた足が、初めて地面を捉えた気がした。

(リピテちゃん、元気かな。……心配、かけちゃってるよね)


 ぽろりと、左目から涙がこぼれ落ちた。それを拭うための手は拘束されている。

 リンナは深く俯いて、声を殺してすすり泣いた。

「リピテちゃんに会いたいなぁ……」

 ヘレックやロガスの動向だって、ちっとも分からない。


(違う。私が聞かなかったんだわ)

 目の前の霧が、ゆっくりと晴れてくる。必死に呪術にすがりついて、呪文に齧りつくことで現実を見ないようにしていた。

 このままではいけない。


 柵越しにこちらを見るアルラスの眼差しが蘇る。

 痛みを堪えるような、怯えて顔を伺うような顔をしていた。

(私、このままじゃ閣下を幸せにできないわ)


「ここを出なきゃ」と呟く。




 頭上から響く足音に、リンナは顔を上げた。

「閣下?」

 声をかけるが、返事はない。

 長い影が先に入ってきた。次いで、強い血臭が漂う。最後に、小柄な女が階段を降りてきた。


 全身を覆う白い上着を着ているが、右半身は真っ赤に染まっている。ゆらりと一歩を踏み出すたびに、胸まである白い髪が振り子のように揺れる。


 ……己の目が信じられなかった。覚悟はしていたが、こうして見てみると、まるで悪夢を見ているようだった。


「こんにちは、エディリンナ」

 抑揚のない声が告げる。


 地下牢に入ってきた女は、寸分違わずリンナと同じ顔をしていた。片頬を血糊で染め、蒼白な顔をしているが、紛れもない。

 彼女がここに来たということは、アルラスは一体どうなったのか。彼が殺されることはない。まさかこの女によって、身動きの取れない状態になっているのだろうか?


 リンナは身を乗り出して尖った声を出す。

「閣下はどうしたの」

「閣下?」

 来客はゆるりと首を傾げた。長い息を吐くと、リンナは努めて落ち着いた口調で繰り返す。


「ここに来る道中、黒髪の男の人に会わなかった?」

「黒髪かどうかは分かりませんが、男性に高所から狙撃されました。対敵は避けたいです」


 そう、とリンナは頷いた。話を聞く限りはアルラスだろう。無事が分かって一安心する。


 興味をそそられたように、侵入者が背後を振り返る。

「どなたか大切な方ですか? もしや……」

「そんなことより、あなたは誰なの」と、リンナは椅子に拘束されたまま強い口調で遮った。


 感情のない眼差しで、彼女はこちらを見た。いざ真正面から見てみると、リンナより二、三歳ほどは幼いようにも見えた。


「わたしは現状、23番と呼ばれています。わたしが死ねば、いまの24番が23番になります」

「じゃあ少なくとも、『あなた』は24人いるのね」

「いえ、わたしは50人……いえ、あなたも入れて51人います」


 淡々と答える23番には、決められた台詞を読み上げるような調子があった。

 右半身を真っ赤に染めているのに、痛みに顔を歪める様子もない。


(エルウィの言っていたとおり、私と同じ見た目をした人間がたくさんいるんだわ。彼の言っていたことが本当なら、場所は南部戦線の向こう……)


 リンナは唇を震わせながら、掠れた声で問うた。

「……私は、あなたたちの同類なのね? 私はどうやって生まれたの?」


 瞬間、23番の目に奇妙な光がきらめいた。

「それが知りたいなら、我々の側へついてください」

 待ち構えていたように彼女が言う。

「我々はあなたの欲する情報を持っているはずです」


 リンナは息を飲んだ。23番はなおも人形のような佇まいで返事を待っている。


「死の呪いについての情報は?」

「再現実験に有効な情報が揃っています」

「……不死の呪いについても?」

 にこ、と23番が初めて微笑んだ。無言の肯定であった。


 リンナは中空を見上げた。

(閣下……)

 アルラスの顔が浮かぶ。ここから勝手に逃げ出したら、彼は一体どれほど怒り狂うだろうか。


(でも私、このままずっとここになんていられない)

 天を仰いで、束の間リンナは目を閉じた。


「……いいわ、行く。上で私の拘束を解除してきて頂戴」

 リンナはそれだけ答えた。控えめに微笑んで23番が頷く。


「その前に、ひとつ聞かせて――あなたたちの目的について」

「本国における市民権」

 23番は短く答えた。


「私たちは、ずっとそれだけを求めて戦い続けています」

 リンナは息を飲む。

「どういうこと? あなたたちには市民権がないの?」


 顎を引いて、彼女は驚くほど凪いだ表情で語った。


「我々は、二百年前に生み出された不死の呪いの被検体、あるいはその子孫です」

 薄々察していたことだった。リンナは唇を引き結んだまま、黙って頷く。


「当時、王家を始めとした当局は不死の呪いの存在を消し去るため、私たちの先祖を辺境の荒野へと追いやり、市街地との間に巨大な壁を築きました」

「私たちは、砦の向こうには魔獣がいると聞いているわ」

「それが、本国の欺瞞です」


 23番の微笑みが空恐ろしかった。怒りも恨みもない、静かな湖面のような笑顔だった。


「私が行くことで、何かが変わるの」

「あなたは切り札です、エディリンナ」

 教えこまれたような笑顔で彼女が答える。


「あなたには死の呪いを作っていただきます。そのためなら、我々は協力を惜しみません」

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