怪獣に関する資料 グレイプニル機関内部文書③

『怪獣X出現に関する報告書』


 2114年3月10日、12日、18日に出現した怪獣には、これまでの怪獣現象と異なる点が多く観測された。既存の怪獣種に当てはまらない形状。集束期、顕現期を介さず、唐突に具現化した怪獣が現れたこと。怪獣の行動に意志がみられたこと。以上の三点が異常として挙げられる。以下に、各項の詳細を記す。


<未知の怪獣種の出現>

 3月に現れた五体の怪獣はいずれも既存の怪獣種に当てはまらない、新種ばかりであった。新種自体は珍しいことではなく、取り上げる必要はない。しかし、この五体はこれまでの怪獣にはなかった特徴を有していた。

 ひとつには体を自在に作り替えることができる点。彼の怪獣は命名による存在認知を、後出し的に回避してしまう。形状はもちろん、体の組成、特徴を変換する行動が出現時に確認された。また、この五体の怪獣は物体を根源素子に還元する能力を有していた。変身の際に観測された事象で、一度存在の確定した肉体が崩壊し、根源素子にまで変化したあと新しい体を再構成した。

 新怪獣の特徴は変身能と還元能である。変身能により外見での区別が不可能であるため、個別の呼称はアルファベットとアラビア数字の記号で統一する。これらの新怪獣は従来の怪獣と分け、“怪獣X”と総称する。

 なお、10日に出現した一体、12日の一体、18日の三体は、別個体、同個体の分裂体、いずれの可能性もある。


<出現パターンの変化>

 怪獣Xは従来の怪獣と異なり、根源素子の集束期、顕現期を経ずに出現する。何の前触れもなく突如として街中に現れ、忽然と姿を消す。消失の際、肉体の断片はおろか、根源素子の離散も確認されず。観測上は拒絶ヴォイドに近似した物質丸ごとの消滅だと判断できる。

 此度の怪獣出現は、防衛都市内の研究区画、制御区画、居住区画に現れ、複数の目撃証言があった。その中には人混みから突然現れた、少女が怪獣に変身した、あるいは怪獣が少女になったという証言が複数あり、真偽とともに関係を調査中である。


<知能をもった怪獣>

 怪獣Xの傾向として挙げられる異質な点は、その行動にもみられた。

 怪獣Xは進行方向の拘束装置を遠距離から優先的に破壊、加えて、都市通信設備の遮断を試みた。放射線による透過視野をもつ可能性もあるが、怪獣Xは都市機能や装置の詳細を理解しているものと考えられる。

 従来の怪獣の行動パターンは、都市を標的に無差別な破壊をするのみであった。そこに意思はなく、破壊そのものを目的として行動していた。怪獣Xは進路上と目標以外の破壊行動は極端に少なく、防衛部隊の攻撃にも反応を示さなかった。

 18日の複数体同時出現に際しては、多方面からの侵攻が行われ、迎撃市街区に出現した一体に注目を引きつけ、都市内の研究区画に突如として現れる、という囮らしき行動が確認された。18日の行動では地下にある制御層、中央指令所、機関部への侵攻がなされ、怪獣Xの標的は最深部の秘匿層コントロール・コアとの推測がなされている。

 これらの行動から怪獣Xには知能があると推察され、これまで発生した無垢の怪獣たちとは一線を画する。


 怪獣Xの出現は、一次、二次をしのぐ規模の第三次怪獣侵攻の前兆とするものである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る