学園長
「軽食もお持ちできますが、どういたしますか」
とメイドが二人に訊いた。
「ちょうどよかったわ。私はお腹空いてるから持ってきてもらおうと思うけど、サラは何か食べたい物はある?」
「あなたならそう言うと思ったわ。私も朝ごはん食べて来なかったのよ、ここのサンドウィッチが食べたくて。アンには悪いけど・・・」
サラは少し後ろめたかったが、サンドウィッチを頼むことにした。
「じゃあ、サンドウィッチを二人分お願い。あと料理長にクッキーを包んでおくように言っといてちょうだい」
「かしこまりました。では、失礼します」
リリアがサンドウィッチとクッキーを頼むと、メイドはそう言って部屋を後にした。
サラはリリアがクッキーを包むように言ったのが気になったので訊いてみることにした。
「クッキーをどこかに持っていくの?もしかして、この後大事な用事でもあった?」
「いいえ。サラに会うこと以上に大事な用事などないわ。クッキーは、アンちゃんにプレゼントとして持っていって欲しくてね」
「あらそうだったの。アン、きっとすごく喜ぶと思うわ。いつもあなたが持ってくるクッキー、美味しい美味しいって食べてたから」
リリアはアンが学園の料理長が作るクッキーが大好物なのを覚えていたのだった。
リリアはそういえばと言わんばかりに話を始めた。
「ここのところアンちゃんに会えてないから、早く会いたいわね」
「ここの状況次第ではすぐに会えるわよ」
サラのその一言を聞いてどういうことだろうと思ったがまあいいかと思い聞き流した。
その後も軽い雑談を話していると、軽食が運ばれてきた。
二人はサンドウィッチを食べ終えたので、そろそろ本題に入ることにした。
「そう言えば話って」
「アンを学園に通わせようと思って」
リリアはサラの口からその一言を聞いて、すごく驚いた。
だがそれと同時に、リリアの心に不安と期待が押し寄せた。
「ほんとうに!?」
「でも、入試を受けるのは一校だけ。
ここの学園に通わせるつもりだけど、今のこの学園の状況次第では、違う学園の入試を受けさせるつもりよ」
「さっき言ってた、『状況次第ではすぐ会える』ってそのことね。もしかして急に来たのも・・・」
「ええ。アン欲しさに小細工できないようにね。まあ、私を誤魔化すなんて無理だけど」
リリアは理由が判明し、やっぱりそうかと納得がいった。
「小細工なんてしないわよ。
それに、今年の志願者一覧を見てアンちゃんの名前がなかったから、他の学園に行くことになったのかとヒヤヒヤしたわ」
「え。志願者一覧て、もしかして」
「ええ、志願者募集は終わってるわ」
サラはそれを聞いてとても焦った。
「うそでしょ。もう少し後じゃなかったかしら」
「本来はね。でも今年は早めにしたの」
「じゃあ受験できないじゃない」
サラはアンが学園を通うなら、この学園が一番いいと思っていたのでどうしようとすごく焦った。
するとリリアが、
「サラ、何を言っているの。志願者募集は終わったけど、入試は今日から3日後に行う予定よ。だから入試はまだ終わってない。
それに何より、私はこの学園の学園長よ。志願者一覧に名前を入れることなんて簡単よ。例え入試が終わっていても、特別枠として入試日を別に設けることだってできるわ。
まあ、アンちゃんじゃなかったら絶対にしないけど」
と言った。サラは良かったと心の底から安心した。
「悪いわね」
「いえいえ。アンちゃんを他の学園に入学させるより、なんとかしてでももアンちゃんにこの学園の入試を受けてもらう方が、断然いいわ。
それで、アンちゃんを入学させるのに、この学園がアンちゃんにとって相応しい環境か視察に来たってことね」
「ええ。昔みたいにアンを辛い目には合わせたくないし、何があるかわからないからね。
ここならあなたもいるし私もそうだけど、ミッチェル家はマジックソードアカデミーと関わりが深いから、安心かと思って」
「確かにここ以上に、アン・ミッチェルにとって相応しい場所はないと思うわ」
リリアは、アンについて知っている数少ない理解者の一人でもあった。
そんないろんな会話をしていると、サラが学園に来てから結構な時間が経っていることに気がついた。
「まあとりあえず、もうそろそろ生徒たちが登校する時間だから、行きたい所があれば案内とか説明とかするわ。まあ、サラにそんなの必要ないかもしれないけど」
「確かにそうかもしれないわね」
二人はそう話して部屋を出た。
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