アーカイブ6:苅田の叫び(3)
招待コードが来た。
俺をフレンドで画面に呼び出したあと、いつものワクワグラムからバカ高い声が聞こえた。
『おつかれ。仕事遅かったな!』
正確には入野井の奢りで焼き肉の店にいたのだが、芸能人の裏の話を聞かせるわけにはいかないだろう。
「ああ。ごめんな。思ったより時間掛かって。それよりDDの練習だったよな。対戦を申し込まれた話だけどさ。あれって六人でやるゲームじゃん。サバイバーのキャラ五人と殺人鬼一人の。どういうルールでやるんだ?」
苅田はタイマンを申し込まれたわけだから、相手と一対一で戦うというのが想像つかない。
『二戦やって勝敗を決めることになった』
「二戦? ランクマッチで?」
『いや、カスタムで呼び出してプレイする』
「なるほど」
ポイント稼ぎのない言わば練習用のモードで競い合うようだ。
『お互いに殺人鬼とサバイバーに分かれて、一対一の対戦でやるんだよ。まず対戦相手が操作する殺人鬼から何秒間オレが逃げ切れるか。そのあとオレが殺人鬼をやって相手が何秒間、逃げ切れるか。だから一戦目の勝敗は、どちらがチェイスを長くできるか、時間を競うことになる。ちなみに殺人鬼は斧投げとか銃とかなしで殴り攻撃のみ』
「なるほどね。二戦目は何するんだ?」
『二戦目は、お互いのリスナーから四人プレイヤーを当日に選んで即席でチームを作るんだ。一応プレイヤーレベルが緑まで。過去に一度も赤帯になったことがなくて、DD関連の大会にも出たことがない条件。ちなみにリーダーは何色でも良いけど、オレも相手も赤帯にはなる。それと事前に、チーム練習は出来ない。全滅か、脱出か。それで競うんだけど、どちらのチームも脱出が全員できたら何分で出られたか、時間で勝敗を決める。逆に、どちらも全滅であれば何分で全滅したか、勝敗を決める』
「一戦目のチェイスで苅田が勝ったとして、二戦目で負けた場合はどうなるんだ?」
『延長の三戦目がある。もちろんメンバーも入れ替えるよ』
思ったよりも、しっかりしたルールのようだが一つ気になることがある。
「リスナーの中にはさ相手の配信を見て、どんなアビリティを持って二戦目の試合をやるのか見れるじゃん」
『ああ、ゴースティングね。当日は遅延を掛けて配信する予定。流れ的には、参加メンバーを二十人くらい決めたあと軽く作戦会議をして試合開始。十分経ったあたりで、配信を始める。二十人いれば延長試合が五戦くらいできるけど延長なしで終わらせるし!』
「ふぅん。てことは練習どうするの。俺が殺人鬼のキャラをやって、苅田がフィールド上のチェイスルートをどう立ち回るか、詰める感じになるのかな?」
『そうだね。殴り攻撃のみで殺人鬼やってもらって、オレのチェイス時間を計って欲しい。ごめんな。罠師の殺人鬼得意なのに、罠仕掛けるのは今回なしで!』
「了解」
俺の得意な殺害方法は、フィールド上に罠を仕掛けて逃げる奴を捕まえるやり方なのだ。罠を仕掛けるときに音は鳴るし、罠を避けて走れば良いから不人気な殺人鬼ではあるけどイヤらしい場所に仕掛けて仕留められたときが最高に楽しい。
今日は封印することになるが仕方ない。
準備完了ボタンを選択しようとしたときだった。パソコンモニターの画面の端に、通知が来た。同時に机の上に置いていたスマホも震えた。パソコンとスマホに両方インストール済のワクワグラムからの通知だ。
― おい。まだか?―
やべ。入野井からだ。
文面から見るにイラついているようだ。
苅田との練習を終えてから、入野井に連絡しようと思っていたが、やはりダメか――。
「苅田。やる前にトイレ行くわ。悪い。戻ったら直ぐ始めるからさ、先にVC切るね」
『ん。了解』
苅田との通話を終えた。
俺は直ぐに入野井にメッセージを送った。
― 実は、もともと友達と約束あって今やってて。一緒にやっても問題ない?―
予定にないことだが、やむを得ない。フレンドと紹介しても入野井にとって、どういう相手なのか分からなければ下手に自分のことを話すことは恐らくないだろう。なにより相手が十五万人いる配信者であるとバレなければ良い。
そのための秘策は一応ある。
「ん。あれ。おーい、入野井?」
返事が来ない。
数分待ってみたが応答がなかった。
急な用事でも出来たのだろうか。
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