アーカイブ4:就業型インターンのお仕事(4)


「先輩。ゲームの話をしてる記事は載ってませんよ」


「今言ったじゃん!」


「ゲームにハマってたというのは、俺の勝手な、ちょっとした、まぁ、推理です」


「推理?」


「月刊誌には明確にゲームの話は書いていません。またネット上のどこにもありません。白幡選手にはテレビゲームをするという趣味はどこにもない話なんです。けれど取材交渉をしていく過程で白幡選手のことを調べていく内に、過去のインタビュー記事にはいずれも同様の話が至るところで載ってたんです。『大原外野手の勝ちまくるプレイスタイルに憧れて』という一文が」


「その一文ね。鉄板ネタだから色んな記事でも良く出るのは当たり前だしな」


「けれど、それが可笑しいなって思ったんです。だって白幡選手が学生時代のとき、大原外野手はそれほど目立った成績がなくて、しかも半年ほど振るわなかった時期があるんです」


「マジ。それ調べたの?」


「調べましたよ。怪我をして一時的に戦力外となったときがありましたから。それで故障期間もあったのに、勝ちまくるプレイスタイルって、一体いつのどの時期なのかって思って。でも、どこにもない。白幡選手が学生時代に観た大原外野手の活躍シーンは、どこの記事にも具体的には触れられていない。それで、もしかしたら学生時代の大原外野手の話の核は、想像上のもの。その想像ができたものって何だろうと思ったとき、テレビゲームの中の話だったんじゃないかなって」


「公表してない趣味特定して取材申込したってことか!」


 俺は何度も小刻みに頷いた。


「マジかよ」


 首藤は背を反らした。


 俺のやり方は、若干反則と捉えられたかもしれない。周囲に知られてない非公式情報で交渉するなど、一歩間違えれば失礼になるだろう。


「白幡選手、怒ってなかったか?」


 首藤の気持ちもわかるが心配無用だ。


「いえ。そういったことは聞いてないですね。広報からは『白幡君が君んところの取材受けるそうだ。ついに来たかって笑ってたが何の話かね?』って言われて。ただの取材ですよって返しただけです」


「へぇぇ。それにしても、よく気づいたな!」


「先輩の教えが良いからっすよ」


「いや。大したもんだよ。白幡選手を獲れたんだから。調べるの大変だっただろ?」


 大変ってもんじゃない。

 一言では片付けられないほど実に苦行だったと断言していい。


 白幡選手の鉄板ネタ『当時の大原外野手の勝ちまくるプレイスタイルとなる試合』を調べるために、大原監督を長年追いかけてる記者にコンタクトを取った。そして現役時代の戦力外となった時期を教えてもらい、矛盾に気付いた。あとは、なぜ存在しない活躍期間があるにも関わらず大原監督を尊敬するのかを考えた。


 恐らく活躍のない期間、プロ野球ゲームで、自らキャラクターを操り活躍して喪失感を埋めたのではないかと直感がよぎった。


「これで選手の事務所交渉インタビュー獲得ミッション、クリアだな!」


 ハイタッチを求めてきた首藤に、俺は手を上げかけたが止めた。


「ちょっと徳最っち!」


「あ。そうだ首藤さん」


 くるりと向きを変えて自分の鞄から、あるものを取り出す。

 手にした――それを、首藤に渡した。


「なにこれ?」


 紙に包まれたラッピングには、俺が適当に結んだ紐で縛られている。

 家にあった、あり合わせの小さなプレゼントだ。


「え。もしかして。今月のバレンタインで俺に渡せなかったチョコ!」


 そんなわけねぇだろ。


「違います」


 包み紙を開けた首藤は目を見開いた。

 暫くそれを凝視してから、視線は俺に向けられる。


「これって」


「白幡選手が学生時代に遊んだプロ野球のゲームソフトです。今はオンラインで遊べるようにパソコン版があるんです。俺が高校時代のときに遊んだやつですけど、差し上げますんで、取材前に最低でも四十時間くらいはプレイしておいてください」


「マジかよ!」


「取材は首藤さんが行かれるわけですから、ちゃんとやっておいてくださいね」


「アイター。まさか徳最っちから指令ミッション来るとは思わなかったわ」


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