アーカイブ4:就業型インターンのお仕事(2)


「うん。言ってみて」

「俺は反対です」

「なんで?」


「今現時点で登録数が二百人ですから厳しいのは分かります。広告塔を使えば再生回数も上がるとは思います。でも田野家選手はラグビー選手で、入野井悠介はアイドルです。αスポーツはラグビーだけの放送ではないし、アイドル番組でもないんです。広告塔に頼ると、広告塔に偏った動画投稿に頼らざるを得なくなると思うんです。例えばラグビーの投稿が増えればラグビーファンは喜びます。アイドルが色んなスポーツを紹介したりルール説明をするだけでもファンなら視聴します。けど実際にはスポーツファンの目線で考えたら、スター選手やアイドルとの絡みを見るよりも、選手と試合を観るために加入するわけじゃないですか」


「ひゃあ。徳最くん語るねぇ」


 宇津根が目を見開いて驚いている。


 やべ。つい熱く語ってしまった。


 俺はこれでもサッカーファンなのだ。ルールだけならバスケや野球も知ってるし、昔はテレビで試合をよく観てた。アイドル起用で再生数は確かに盛れるだろうが、わざわざスポーツファンがお金を支払って加入するのだから、もっとコアなスポーツファンに刺さる内容を用意すべきだと思うのだ。


「いやだって、未加入のコア層には何が響くかなって。宇津根さん。いいすか。デューヴのチャンネルは、有料放送に加入してもらうための導線じゃないですか。でもαスポーツって、野球やサッカー、バスケ、モータースポーツ、いろいろあるから広告塔ばかりに頼るのは、どうかと思うんすよ」


「広告塔に毎月、加入者向け番組に出てもらうのもムリがあるからね。だけど年末の企画に出てもらうのは、ありかなーとは思うんだけど」


 それはきっと通らないだろう。


「十二月の年末放送で毎年やってる企画物、去年開催されたグランピング、好評第二弾と称して田野家選手と入野井を呼ぶとか、それは有りだと思います。でも入野井の場合はアイドル。年末年始といえばテレビで毎年ライブ中継に出演。事前収録をするにしても数ヶ月前には打診する必要があります。夏とか秋とかの事前収録となると田野家選手は試合で参加は見送りの可能性がありますよね?」


「確かに。広告塔を基準に頼んでも限界があるかぁ」


 宇津根が呻いた。


「だから広告塔に頼らなくても、αスポーツ公式チャンネルのデューヴ向けにコンテンツ拡充を改めて考えて欲しいと思うんです。αスポーツには会員専用の配信ページが元々ありますから試合動画とか転用が厳しいのは分かります。でも未加入者の人たちに少しでも興味を持ってもらえるよう、過去の試合とか、放送済みの加入者向け年末番組とか、なんとか丸々アップできませんか?」


「それをやりたいのは山々なんだけどね。役員は、そこがネックで許可が通らない」


 はぁ。何でもかんでもそうだ。会議に参加する役員たちは、皆んなリスクを感じて動かない。この会社って、意外と石頭な人たちが多いんだよな。


「そうはいっても、試合がある日は普通に無断でアップロードされることも結構あるじゃないすか?」


 俺は見たことがある。αスポーツのチャンネルをスマホで撮影して、チュイットに投稿されている動画を度々見かける。


「ファンが、やっちゃうからね。メディコンのメンバーがデューヴとかチュイットで見つけ次第、削除要請を日々やってくれてるけど」


 織田が所属している部門だ。

 知らなかった。そんな業務も担っているとは。


「そうだ。徳最くんのこっちの案。これは全然やって良いと思うよ!」


 宇津根は、俺の資料を持ち出して紙を捲った。

 αスポーツ公式チャンネルにアップした動画に、差し込んだサムネイル画像に関する修正案だ。


「あ、タイトル名の見栄えを良くする案ですね」


「そうそう。サッカーの日本代表選手が、強豪ベルギーを相手に勝った試合でのインタビュー動画。改善前は『世界に衝撃を与えた一戦。あの日本vsベルギー戦を語る』のタイトル文字が一枚の画像に入っているのが長すぎるってやつ。このタイトル文字を『3–2』の文字だけにして、数字の横には国旗を配置。これ凄く分かりやすくて良いんじゃない?」


「ありがとうございます。そうなんですよね。小さい画像の中に、無理やり長いタイトルは見栄えが悪くて読みにくいと思いまして」


「早速だけど、メールで画像の元データを送るから作り直して貰えるかな。あと他の動画の画像も直しちゃって良いから」


「了解です。あのひとつ質問なんですけど、改善策から色々試してみて、もしチャンネル登録数が千人超えたら、それも実績になりますよね。内定出たりしますか?」


 なんとなく聞いてみた。

 ニコニコと微笑む宇津根は、少し目線を宙に彷徨わせた。


「そうだね。そうなるかもしれないね」


 マジか。俄然、やる気が出てきた。


「お疲れ。お二人さん!」


 首藤が大股で番組編成部に戻ってきた。


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