第16話 反省

 僕はそのまま運ばれるとベッドに押し倒された。


「えっ?」


「カナタがいけないんだ」


「僕が何をや――」


 気づいた時にはクロウの顔は僕の目の前にあり、突然唇を重ねた。


「んっ……」


 しかも、舌で唇を突くと口の中までねじ込んできたのだ。


――ガリッ!


 あまりにも驚き僕はクロウの舌を強く噛んだ。


 そのまま膝を曲げ、足に力を入れると強く蹴り飛ばす。


 クロウは油断していたのだろう。


 そのまま地面によろけるように倒れた。


「あなたがそんな人だとは思いませんでした!」


「えっ……」


 クロウは驚いた顔をしている。


 いやいや、驚きたいのはこっちだよ。


 急に男に押し倒されたと思ったら、舌を口の中に入れてキスをしてきたのだ。


「もう顔も見たくない!」


「えっ……」


「早く出て行ってください!」


 立ち上がりクロウを部屋から押し出した。


 なぜこんなに怒っているのか、僕にもわからない。


 ただどこかこの前と同じように、体がゾクゾクとするのも理由の一つだ。


 知らない自分を認めることができない。


 僕はそのまま布団の中に包まると、必死に無心になった。


「落ち着け……落ち着け……」


 どこか体が熱くなり、大きくなり始めた屹立を必死に抑えた。


 なんで男にキスをされて反応しているんだよ。


 そんなことを思っていると扉が開く音が聞こえた。


「誰も入って――」


「クゥーン」


 体を起こすとそこには黒犬が座っていた。


 なぜか黒犬は落ち込んでおり、チラチラと僕を見ては目が合うと逸らしている。


 関係ない黒犬に当たるつもりはなかった。


 知らない場所に来て、感情のコントロールができないなんて最悪だ。


「ごめん。君に当たるつもりはなかったんだ。ここにおいで!」


 僕はベッドを叩くが、黒犬は乗ってくる様子がない。


 尻尾も下がりどこか僕の顔を伺っているようだ。


「こっちにおいで」


 再び声をかけるとおそるおそる黒犬は近寄ってきた。


「さっきはごめんね」


 いや、謝る人が違うだろう。


 黒犬に謝っても仕方ない。


「はぁー、さっきはひどいことをしたよね」


 黒犬はどこか心配そうに僕の顔を覗いていた。


「さっきいきなりキスをされてね。びっくりして蹴った後に部屋から追い出しちゃったんだ」


「クゥーン」


「ははは、なんでクロが落ち混むんだよ! まだ数日しか一緒にいないけど、何も知らない僕に一番初めに優しくしてくれた人なのにな……」


 びっくりしたけど、クロウは異世界に来てから僕のことを心配してくれた人だ。


 僕もこの体がおかしいのには少し気づいている。


 男が好きじゃないのになんで反応しているのだろう。


 僕の体はおかしくなったのか……。


 気づいた時には僕の頬に一筋の涙が流れる。


「ははは、次会ったときは謝らないとね。そしてこの体のことも聞かないとダメだね」


 その涙を優しくクロは舐めた。


 必死に泣かないでと言っているようだ。


「ガウ!」


 僕の声に反応したのか黒犬は鳴いていた。


 思い込みかもしれないが、黒犬の返事がどこか大丈夫だよって言っているような気がした。


「はぁー、なんか泣いたら疲れちゃったよ」


 そのままベッドに倒れるようにもたれると、少しずつ体がベッドに埋もれていく。


 またクロウに会ったら謝ろう。


 僕は心の中でそう誓った。

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