第17話 俺の番 ※クロウ視点
「はぁー、俺は何をやってるんだ」
隣で寝ている愛しい人の頭を優しく撫でると、少し安心したのか口角が微笑んでいる。
静かに隠れて泣いていたのだろう。
目の下には涙が流れた跡があった。
そして、泣き疲れたのかカナタは再び眠ってしまった。
「俺はカナタを絶対に離さない」
初めて出会った運命の番に俺の心はすぐに鷲掴みにされた。
本能的に惹かれる運命の番は、基本的に一人しかいないと言われている。
俺にとってカナタは"運命の番"その言葉通りの存在だ。
初めて見た瞬間から今まで生きていた中で、感じたことのない胸の高鳴りを感じた。
触れた瞬間に意識を保つのも精一杯だった。
咄嗟に嫉妬して俺はカナタを押し倒してキスをしてしまった。
あれだけ俺を受け止めていたから良いと思ったが、考えてみたら意識がないカナタ相手に俺が勝手に動いた結果だ。
「それにしても運命の番が二人いたとはな……」
そんな運命の番であるカナタを取りあう存在が現れた。
それはブラン殿下の存在だった。
普通のαであれば嫌われの存在である獣人の俺でも、この国で一番強い俺なら自信を持ってどうにかできただろう。
それがブラン殿下であればそんなことは出来なくなる。
彼は王位継承第二位という、この帝国を継いでいく可能性のある人物だ。
俺から見てもブラン殿下は完璧で才能や権力は申し分ない。
ただ、あの人には
それにしてもブランの存在と妹の発言、そして仲間達による影響でこんなに嫉妬するとは思わなかった。
嫉妬で狂ってしまった人の話を聞いたことはあるが、初めての嫉妬で俺は狂ってしまいそうだった。
「カナタ好きだ」
「ムニャ……」
ぷくっと膨れ上がった頬に触れていると、寝返りをしたカナタは俺に押し返される。
「何をやっても可愛いな」
――コンコン
「団長……走り終えました」
「ああ」
そんなことしていると罰を終えたラニオンが戻ってきた。
「カナタさんは眠ったんですね」
「そもそもお前らが――」
ラニオンは口に手を当てた。
こいつからカナタの匂いがすることもムカつく。
今すぐにでも噛み砕きたいと思うが、カナタにとっても騎士団にとってもラニオンは必要だ。
「起きてしまいますよ」
せっかく寝ているところを邪魔してはいけないと思い、俺達が部屋から出るとそこには走り終わった部下達が戻ってきていた。
だがその姿に反省の様子はなく、どこかカナタの心配をしていた。
「団長! カナタさんを虐めてないですよね?」
声をかけてきたのはトランだ。
カナタの匂いと混じっていた中で、ラニオン以外に強く匂いを発していた人物だ。
「お前らがあんなことしなければ――」
「カナタさんは俺達を撫でていただけですよ?」
それは俺も知っている。
ただ、
「あの方は私達を毛嫌いしない……むしろ動物と勘違いしていましたが、好んでいる珍しい方ですね」
初めて俺を見た時もそんな反応だった。
カナタは
それに俺達が獣人だって知っても、きっと嫌がりはしないだろう。
人間から見たら俺達は不完全な種族として差別の対象だからな。
それだけでも新たな一面を知ることができた良い機会だと思うことにした。
このままだと本当に嫉妬でおかしくなってしまう。
ラニオンの言葉に少し納得したが、カナタのためにも我慢しないといけないことなんだろう。
この俺が我慢をしないといけないとはな……。
「お前らだから見逃すが、カナタにこれから何かしたらその命あると思うなよ」
部下達は一斉に手を胸に当てた。
「ハッ!」
「我々第二騎士団は命を賭けてでも、カナタさんをお守りしますよ。この命は団長に助けられた命ですからね」
「ははは、お前らの愛情よりカナタの愛情の方が欲しいわ」
それでも良い仲間を持ってよかったと改めて感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます